ドラゴンハンター

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第二章 ドラゴンハンター02 良知美鈴

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 ルイに謝るタイミングを逃したまま、放課後になってしまった。

「ルイちゃん」

 帰りの会が終わると美鈴は、すぐにルイの席へかけ寄った。

 ルイが、ランドセルに教科書を入れる手を止めた。見上げた顔は、にっこり微笑んでいる。

 ルイの笑顔に、美鈴はほっとした。

「ここに、約束やぶった人がいまーす!」

 ルイが突然、美鈴を指さした。

「えっ?」

 ルイが冗談で言っているのか、それとも本気なのか、美鈴はわからなかった。

「後で来るって言ったよねぇ?」

 ルイは笑っている。

「バレー、一緒にやるって約束したよねぇ?」

「だから、ごめん。今、謝ろうと思って」

 美鈴は、早口で言った。早く、伝えなければならない。本当に悪かったと思っている気持ちを伝えなければ。でないと、取り返しのつかないことになってしまう気がした。

「わたし、約束守らない人きらーい。アミちゃんもそうだよね?」

 ルイは、隣の席のアミに顔を向けた。アミも、昼休みに一緒にバレーをやっていた一人だ。

「ルイちゃん、そんな言い方しなくても。美鈴ちゃんがかわいそうだよ」

 アミは困ったような顔をした。

「アミちゃんは、美鈴ちゃんの味方なんだ。へぇー、約束破った人の味方なんだね?」

 ルイがアミをにらみつける。

 ルイだって、土曜日約束破ったじゃん。美鈴はそう言いたかったが、グッと言葉を飲みこんだ。それを言ったら、ルイはもっと怒るだろう。そんなこと、簡単に想像がつく。

「そういうわけじゃないけど……」

 アミが口ごもると、ルイが笑った。

「やっぱりアミちゃんも、美鈴ちゃんのこと嫌いだよね? 約束破ったんだもん」

 アミが小さくうなずいた。それを見たルイが、ぱっと顔を輝かせる。

 たいていの場合、ルイの意見にはクラスの女子みんなが賛成する。それはルイがいつも、素敵な意見を言うからだ。

 しかし、最近のルイはなんだかおかしい。意地悪だ。それでも今までのルイが本当にいい子だったから、みんなもすぐには離れていかない。

 美鈴も他の子と同じだった。どんなにひどいことを言われても、それが本当のルイではないと信じている。信じたかった。

 ルイが意地悪を言うのには、きっと何か事情があるのだ。だけど、どんな事情? 友達を傷つけてもいい時って、いったいどんな時? どんなに考えてもわからなかった。

 美鈴は唇をかんだ。ルイに一方的に言われてくやしかった。

 美鈴がバレーに来られなかったのはなぜなのか、ルイはどうして考えてくれないのだろう。こんな風に言われた美鈴の気持ちを、どうして考えてくれないのだろうか。

 ルイが勝ち誇ったような顔をしている。美鈴がルイから目をそらそうとした瞬間、目の前に閃光が走った。そのまぶしさに、美鈴は目をつむった。

(なに、今の?) 

 美鈴はそっと目を開けた。

 ルイは美鈴を無視するように、ランドセルに教科書を入れ始めた。

「ルイちゃん」

 声をかけてきたのは、圭吾だった。

「なに、圭吾くん」

 そう答えたルイの口の辺りで、火花のようなものが散った。

 美鈴は驚いて、手で口を押さえた。隣のアミを見ると、ランドセルをしょっているところで、火花に気がついた様子はなかった。

「じゃぁ、バイバイ」

 アミは気まずそうな顔をして、ルイと美鈴に手を振った。早く帰りたくてたまらないという感じだった。

「バイバイ」

 美鈴も小さく手を振る。

 ルイも手を振った。その指の間で、小さな火花がいくつもはじけた。

 美鈴は圭吾を見た。圭吾は驚いた様子もなく、じっとルイのことを見ている。

「やっぱりね」

 圭吾がゆっくりと言った。

「やっぱりってなに?」

 ルイが可愛らしく首をかしげた。ツインテールが、ゆらりと揺れる。

「ルイちゃん、いつも優しいのに」

「えっ、そうかな」

 ルイが顔を赤らめた。

「美鈴ちゃんにあんな意地悪なこと、みんなに聞こえるような大きな声で言うなんて、変だと思ったんだ」

 圭吾が淡々と話す。

 ルイが目をみはった。

「わたし、意地悪なんて言ってないしっ」

 ルイが、口をへの字に曲げた。

 圭吾がルイに一歩近づいた。

「ルイちゃんに話したいことがあるんだ。今から体育館の裏に来れる?」

 圭吾が、ルイの耳元でささやくのが聞こえた。

(今度はルイ? 圭吾くん、いったい何考えてるんだろう)

 美鈴は圭吾の背中を見つめた。

「いいけど……」

 ルイが顔を真っ赤にしている。美鈴は、昼休みの自分を見ているようだった。

(どうせあやしい勧誘だよ……けど、今度は本当に告白するのかもしれないし)

 美鈴は胸が苦しくなった。

(これって、やきもち? ちがう、ちがう。圭吾くんなんかもう知らないし)

 美鈴はモヤモヤした気持ちを振り払うように、頭をブンブン振った。

 圭吾とルイが、歩きはじめる。

(いってらっしゃい)

 美鈴は心の中でつぶやいた。置いてけぼりになった美鈴は、二人の背中を見つめた。

「美鈴ちゃんも一緒に来て」

 圭吾が美鈴の方を振り返った。

「え? わたしも?」

 美鈴は人差し指を自分の鼻にあてた。圭吾がゆっくりとうなずいた。

 美鈴は本当に自分も行っていいのか不安に思いながら、遠慮がちに二人の後を追った。
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