都合のいい友だち

ことは

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11 見える子、見えない子

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 バタバタと床を走る音とともに、廊下からにぎやかな声が近づいてくる。

 今から教室がうるさくなる。さゆりの苦手な音。さゆりは首を前に折り、両手で耳をふさいだ。

 耳をふさいでも、乱暴に扉を開ける音が、指の隙間をすり抜けて耳に入ってくる。

 一瞬、さゆりは教室がぐるんと回転したような気がした。

(やだ、めまい?)

 さゆりがふと顔をあげると、男子生徒が数人、教室に飛び込んできた。

「なに、さっきの音?」

 一人の男子生徒が、さゆりの方に向かって走ってくる。

 声をかけられるかと思いさゆりは身構えたが、男子生徒はさゆりには目もくれなかった。

「机、倒れてんじゃん。石田、おまえがやったの?」

 椅子に座るミサに、男子生徒が話しかける。

「ちょっと、間違えて蹴っちゃった」

 ミサがいたずらっぽく舌を出す。

(え? この子には、ミサが見えるの?)

 さゆりは、ミサと男子生徒をかわるがわる見た。

(それにミサ、今、男の子と話せた?)

 次々と生徒たちがやってきて、ミサに「おはよう」と声をかけていく。それにミサが笑顔で答える。

(どういうこと? ミサ、本当は話せるの?)

 さゆりには、わけがわからなかった。

(もしかしてミサ、今まで話せないフリをしてた?)

 様々な可能性が頭の中を駆け巡る。

「ミサちゃん、おはよう」

 さゆりの右隣に、はるかが座った。

(今、ミサちゃんって言った? はるかちゃん……いつもさゆりちゃん、おはようって言ってくれるよね?)

 さゆりは嫌な予感がし始めていた。胸の奥がザラザラする。

「はるかちゃん、おはよ」

 答えたのはミサだ。

(待って、誰もわたしに話しかけない)

 さゆりは震えが止まらなかった。

(みんなが、わたしを無視してる……。どうして?)

 考えようとすれば、嫌な結論にしか行きつかない。

 お母さんは昨日、ミサのことを見えない子と言った。

 だが今、みんなからミサは見えている。

 そして今、みんなから見えていないのは……。

 さゆりはいったん心を無にした。

 早く授業が終わって放課後になってほしい。

 今すぐにでも家に帰りたかったが、体が動かなかった。

 全身が硬直して、呼吸をするのがやっとだった。動悸とめまいもおさまらない。

 目に見えるもの、耳に聞こえる音、教室の匂い。すべてが気持ち悪かった。

   ◇

(やっと帰れる)

 帰りのあいさつが終わって、さゆりはほっとした。

 だが、まだクラスのみんながいる。席を立つのは、クラスメイトがいなくなってからだ。

 席に座ったままじっとしていると、ミサがさゆりの顔をのぞきこんできた。

「みんなに無視されて、可哀想なさゆりちゃん。あなたと話せるのは、わたししかいないものね。あなたのお友だちはわたしだけ」

 ミサとなら話せるはずだった。だが、今は周りにクラスメイトがいて、さゆりは声を出すことができなかった。

 一方的に、ミサが話しかけてくる。

「大丈夫。わたしがさゆりちゃんを守ってあげる」

 ミサが薄気味悪い笑みを浮かべる。

「ねぇ、ミサちゃん、誰もいない席に向かってなに喋ってるの?」

 はるかが眉間にしわを寄せて、ミサに聞く。

「ここに、さゆりちゃんがいるの、見えない?」

 ミサがさゆりを指さす。

 はるかは、さゆりの鼻のあたりを見ている。さゆりとは、目が合いそうで合わない。

「えー、誰もいないけど。ミサちゃんこわーい」

 はるかが、おどけた調子で言う。

(うそだよね? はるかちゃん、ふざけてるだけだよね?)

 さゆりはあふれそうになった涙をこらえた。

「ごめん、ごめん。実は、一人で次の発表会のセリフの練習してたんだ」

 ミサがはるかの肩を軽く叩く。

「そっか。ミサちゃん、演劇部だもんね?」

 はるかが納得した顔で言う。

(え? うちの学校、演劇部ってないよね? 何十年も前に廃部になったはず……)

 さゆりは首をかしげた。

「わたし、ピアノのレッスンがあるからもう帰るね。ミサちゃんは今から部活?」

「うん。次の発表会が近いから、毎日稽古なの。みんなに迷惑かけないように、しっかりセリフ言わなくちゃ。わたし、大きな声でしっかり……」

 ミサが切羽詰まったような顔をした。

「あんまり無理しないでね。じゃバイバイ」

 はるかが小さく手を振ったが、ミサはそれに答えない。ミサは、ひどく思いつめたような顔をしていた。
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