リンネは魔法を使わない

ことは

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12 ライバルで友だち

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「早く牛乳買って帰らないと」

 スーパーで時計を見ると、11時半を回っていた。

 往復で15分もあればじゅうぶんなのに、家を出てから30分以上経っている。

「えっと、牛乳、牛乳」

 リンネは、すぐに牛乳売り場に向かった。

「いつもお母さんが買ってくるのは、どれだったかな」

 色んなメーカーの牛乳が置いてあって、迷ってしまう。

「あっ、リンネちゃん」

 その声に振り向くと、マリナが立っていた。

 隣にいる女の人が「こんにちは」とリンネに微笑んだ。マリナのお母さんだ。

「こんにちは」

「ステップの子だよ。リンネちゃん」

 マリナがお母さんに話す。

「ママは先にレジに行ってるから」

 マリナのお母さんが、ショッピングカートを押していく。

「この前話した親友のことだけど、昨日から学校来るようになったんだ」

 マリナが嬉しそうに言う。

「そうなんだ、よかったね。マリナちゃんの気持ちが伝わったんだね」

 そう言いながら、リンネはナナの暗い目を思い出していた。

「リンネちゃん、どうかした?」

 マリナがリンネの顔をのぞきこむ。

「もしかしたら、ナナもジュエルに魂を抜かれちゃうかもしれない。わたしのせいなの。ジュエルに願いをかけちゃいけないってこと、なかなかナナに話せなかったから」

「あぁ、そのことなら」
と、マリナが笑った。

「あのね、友だちの話をよく聞いたらね、学校来なくなったのってジュエルに魂を抜かれたせいじゃなかったの」

「えっ?」

 リンネは驚いて声を上げた。

「勉強も運動もいつも一番のその子のことをひがんだ女の子たちが、その子に嫌なことを言ったらしいんだ。それで、しばらく学校に来なかったの。ジュエルに魂を抜かれたって噂を流したのも、その意地悪をした子たちだった」

「願いが叶ったっていうのは? それもただの噂なの?」

 リンネの問いかけに、マリナは、うーんと首をひねった。

「願いが叶ったのは事実といえば事実だけど、ジュエルがなくたって、なんでもできる子だからねぇ」

「ジュエルに願いをかけちゃいけないって、マリナちゃん、言ったよね?」

「この前言ったことは、もう気にしないで。変なこと言ってごめんね。あ、もう、ナナちゃんに話しちゃった? もしかして、この前のレッスンの時にけんかしていたのはそのせい?」

 それを聞いて、リンネは思い切って話すことにした。

「でもやっぱり、ジュエルの力は本物だよ」

 リンネは力強く言った。

「マリナちゃんには願いをかけていないって言ったけど、本当はわたし、ジュエルに願いをかけたの。魔法を使えますようにって」

「魔法?」

 マリナがきょとんとした顔をする。

「この前のレッスンの時なんか、魔法の力が暴走しちゃって困ったんだ」

 リンネの話に、マリナが口をぽかんと開ける。

「本当だよ。ナナの顔に、わたしのリュックが飛んできたでしょ。わたしが怒りを爆発させたせいで、リュックが勝手に飛んできちゃっ……」

「あれ、3年生の子がやったんだよ」

 マリナがリンネの話をさえぎるように言った。

「えっ」

「ナナちゃんとリンネちゃんが大声でけんかしてたから、うるさーいって。すごい怒ってたよ」

 その時のことを思い出したみたいで、マリナは笑いをかみ殺している。

「そ、そうなの?」

 リンネがたずねると、マリナが「うんっ」とにっこり笑った。

「それよりリンネちゃん、ダンスすごく上手になったね」

「あ、うん。えーっと、ありがとう」

 話を切り替えてきたマリナに、リンネはうまく反応できなかった。

(だって、ジュエルは? 本当に願いは叶ったんだよね?)

 マリナに、オセロの石を突然ひっくり返されたみたいだ。ずらりと並んだ黒い石を、真っ白に変えられてしまったみたい。心の中がざわざわする。

 だが、マリナの笑顔を見ていたら、リンネは少しずつ気持ちが落ち着いてきた。

(あれ?)

 そういえばいつの間にか、マリナと自然に話せていることに、リンネは気がついた。今まではナナに遠慮して、マリナと気軽に話すことができなかった。

 でも本当は、マリナともっと話したいと思う。友達になれたらいいなと思っている。

「ライバルがまた一人増えたって感じだよ」

 マリナが、あっけらかんと言う。

「えっ」

 そんなことを言われるとは思っていなかった。

(ライバル宣言ってこと? 友達になりたいって思ってるのはわたしだけ?)

 リンネは、気持ちが沈んできた。

「発表会まで、一緒に頑張ろうね!」

 マリナが右手を差し出してきた。

(どういうこと? 握手するの?)

 リンネはわけがわからなかったが、そろそろと右手を差し出した。

 その手をマリナが握って、ブンブンと振る。

「これから、仲良くしてね」

 マリナがきらきらした笑顔で言う。

「えっ? でもさっきライバルだって……」

「そう。ライバルでいいお友だちになれそうな気がするんだ、わたしたち」

「ライバルで、友だち?」

 リンネは首をかしげた。

「ライバルがいるからこそ、一緒に頑張れるんだよ。ダンスも上手になれるんだよ」

 マリナが自信満々に言う。

「わたしと、友だちになってくれる?」

 マリナからの申し出に、リンネは胸がキュンとした。

「もちろん!」

 力強くうなずく。

 だが、すぐにナナの顔がちらついた。マリナと仲良くすることを、ナナはどう思うだろう。

 だけど、ナナに遠慮してマリナと友だちになれないなんて嫌だった。時間がかかっても、みんなで仲良くなれたらいい。

「リンネちゃんの友だちのナナちゃん、ダンスすごく上手いよね。かっこいいよね?」

リンネはとまどいながらうなずいた。

「ナナちゃんのダンスには憧れるけど、わたしには真似できない」

 マリナが首を振りながら言った。

「わたし、本当はナナちゃんとも、もっと話したいんだ。でもなんかわたし、ナナちゃんにあまりよく思われていないみたいで」

 マリナが肩をすくめる。

「そんなこと……」

 ないよ、と言えなくてリンネは言葉をにごした。

「マリナちゃんが、ナナのことをこんな風に思ってたなんて知らなかった。この話を、ナナが聞いたらどう思うかな。きっとナナも友達になりたいと思うんじゃないかな」

 これは、リンネの希望だ。

 ナナとけんかをしている今、リンネの話なんて聞いてもくれないかもしれない。それでもナナに、マリナの気持ちを伝えたい。 

 マリナの顔がぱっと明るくなった。

「秋の発表会で、三人隣同士でしょ? 三人の動きがビシッとそろったら、かっこよく決まると思うんだよね。もちろん、クラス全員がそろうのが一番だけどさ。そのためにはまず、わたしたち三人の息がぴったり合うことが重要だと思わない?」

 リンネはこっくりとうなずいた。

「すごい。マリナちゃん、そんなことまで考えてたんだ」

「ねぇ、リンネちゃん。わたしがナナちゃんと仲良くなれるように、協力してくれない?」

 マリナが顔の前で手を合わせた。

「いいよ。約束する」

 マリナがほっとしたような顔をした。

「じゃぁ、水曜日にまた、レッスンでね!」

 マリナが手を振る。

「うん。またね」

 リンネは来週のレッスンが、楽しみになった。友達が増えたら、もっともっとダンスが楽しくなりそうな気がした。

「そうだ、牛乳!」

 リンネは一番近くの牛乳を手に取り、レジに向かった。
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