踊るねこ

ことは

文字の大きさ
11 / 19

11 PINK☆CATS

しおりを挟む
「どーしよーどーしよーどーしよー!」

 はるかは両手を頬にあて、部屋中を走り回った。

 こねこの姿ではるかの後を追っていたモモを、はるかは抱き上げた。

 そのままベッドに、仰向けになる。

「『DRAGON』の隼人先輩だよ、隼人先輩! あー、先輩と話せただけでも信じられないのに、先輩の振りで、ダンスコンテスト出ちゃうんだよ!」

「絶対優勝しようよ、はるか」

 モモが、ウキウキした声で言う。

「うーん。優勝したいけど、モモのことばれたら困るしなぁ」

 モモが、本棚からダンス雑誌を引っぱり出してくる。

 メイク特集ページを開き、ブルーの仮面メイクをしたモデルさんを、ポンポンと叩いた。

「これだよ、これ。絶対誰だかわからないよ」

 はるかは、ため息をついた。

「そうかなぁ。あまり仲良くない子ならごまかせるかもだけど、結衣とか美加には、ばれちゃうんじゃない?」

「じゃぁ、やっぱりコスプレする?」

 モモが、小首をかしげる。

「そうだ、ねこ!」

 はるかはモモがねこの姿で、キレキレのダンスを踊っていた時の衝撃を思い出した。

「ねこ?」

「ギャップだよ、ギャップ。ふわふわのかわいいねこが、バリバリのヒップホップ踊ってるのってインパクトある! なんか、イメージわいてきた」

 はるかはベッドから起き上がり、クローゼットの中をあさった。

「あったぁ。前に誕生日パーティーで使ったの」

 はるかは、あごのラインで内側にカールした、ビビットなピンクのウィッグをかぶった。その上には、ふわふわしたピンクのねこ耳カチューシャ。

「わぁ。わたしにそっくり!」

「で、衣装はこんな感じ」

 はるかは机からノートを取り出し、色鉛筆でサラサラッと絵を描いた。

「妖精みたいなイメージの、ミニワンピだよ」

 フリルのついた上半身はシャーベットグリーン。ウエストから下は、薄紫色に切り替えられた、ボリュームのあるスカート。

「かわいいー」

 モモが、身を乗り出す。

「足元はピンクのリボンがポイントの、黒いスニーカーでひきしめて」
と、はるかが書き加える。

 それから、ピンクのヘアスタイルにねこ耳。ブルーの仮面をつけ足した。

「キラキラ星からきた、宇宙キャットですって感じでしょ?」

 うん、うんとモモがうなずいた。

「でも、はるかの好きな、クールでかっこいいファッションじゃないね」

「だから、いいんじゃない。わたしだって、ばれそうにないでしょ?」

「そっかぁ。けど、こんなフリフリの服、はるか、持ってたっけ?」

 はるかは、首を横に振った。

「お母さんが作ってくれるから大丈夫。こういうの、得意なの。ねこ耳カチューシャも、お母さんが作ってくれたんだ」

 はるかは、衣装の横に、『PINK☆CATS』と太いピンクのマジックで書いた。

「ピンクキャッツ。これがわたしたちのチーム名だよ」

「やったぁ」

 モモが嬉しそうに飛び上がった。

   ◇

 日曜日の公園。

 ベンチに座った隼人は、はるかが描いたイラストを見て、うーん、とうなった。

「やっぱり、イメージと違いますか?」

 はるかが、おそるおそるたずねると、
「チーム名は、これでいいよ」
 隼人はそう言って、また考えこんだ。

 しばらくして、
「ハードル、高いんだよねー」
と、隼人は迷ったように言う。

「衣装とダンスにギャップをつけるっていうの? 普通は、曲やダンスのイメージに合う衣装を着るんだけど。この衣装でヒップホップをかっこよく踊るには、相当ダンス力いるぜ?」

 はるかは、しょんぼりとうつむいた。

「でも」
と、隼人は言葉をくぎった。

「おまえらなら、いけるかも」

「でしょ、でしょ、でしょー?」

 モモがはしゃぐと、隼人が笑った。

「ちょっと聞いて」

 隼人は、はるかのCDプレーヤーに、自分が持ってきたCDを入れた。

「重いビートですね。ちょっと、ワルっぽく踊る感じ?」

「正解。ねこちゃん、踊りこなせるかなぁ」

「踊れるにゃん」

 モモが、両手をグーにしてねこポーズを決める。

「基本オレが振り付けやるけど、ガールズっぽい動きは、自分たちでアレンジしてくれる?」

「わかりました。アレンジくらいなら、できると思います」
と、はるかがうなずいた。

「じゃ、『PINK☆CATS』で決まりだな。明日から、本格的に始めるぞ。金曜の『BEAT』の日以外は、学校が終わったら、毎日ここに集合!」

「毎日、ですか?」

「文句、ある?」

「ありません」

 すっかり隼人のペースだ。

 はるかとモモは、顔を見合わせ笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

グリモワールなメモワール、それはめくるめくメメントモリ

和本明子
児童書・童話
あの夏、ぼくたちは“本”の中にいた。 夏休みのある日。図書館で宿題をしていた「チハル」と「レン」は、『なんでも願いが叶う本』を探している少女「マリン」と出会う。 空想めいた話しに興味を抱いた二人は本探しを手伝うことに。 三人は図書館の立入禁止の先にある地下室で、光を放つ不思議な一冊の本を見つける。 手に取ろうとした瞬間、なんとその本の中に吸いこまれてしまう。 気がつくとそこは、幼い頃に読んだことがある児童文学作品の世界だった。 現実世界に戻る手がかりもないまま、チハルたちは作中の主人公のように物語を進める――ページをめくるように、様々な『物語の世界』をめぐることになる。 やがて、ある『未完の物語の世界』に辿り着き、そこでマリンが叶えたかった願いとは―― 大切なものは物語の中で、ずっと待っていた。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

マジカル・ミッション

碧月あめり
児童書・童話
 小学五年生の涼葉は千年以上も昔からの魔女の血を引く時風家の子孫。現代に万能な魔法を使える者はいないが、その名残で、時風の家に生まれた子どもたちはみんな十一歳になると必ず不思議な能力がひとつ宿る。 どんな能力が宿るかは人によってさまざまで、十一歳になってみなければわからない。 十一歳になった涼葉に宿った能力は、誰かが《落としたもの》の記憶が映像になって見えるというもの。 その能力で、涼葉はメガネで顔を隠した陰キャな転校生・花宮翼が不審な行動をするのを見てしまう。怪しく思った涼葉は、動物に関する能力を持った兄の櫂斗、近くにいるケガ人を察知できるいとこの美空、ウソを見抜くことができるいとこの天とともに花宮を探ることになる。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

処理中です...