おばけ育成ゲーム

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12 おばけウイルス

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 周りがガヤガヤとうるさい。

 うっすらと目を開ける。

 窓ガラスの向こう側に広がる運動場で、大勢の児童たちが遊んでいる。運動場にある時計を見ると、1時間目の休み時間だった。

 里奈は保健室のベッドの上に寝ていた。

 ベッドの周りはベージュ色のカーテンで仕切られている。

「高山さん、気分はどう?」

 保健の先生がカーテンの向こうからやって来た。ひんやりとした手を、里奈のおでこに当てる。

「よく寝てたみたいだから、まだお家の人に連絡してないの。熱はないようだけど、先生が電話するから、お迎えに来てもらいましょうね」

 里奈は上半身を起こした。

「あ、もう大丈夫みたいです」

「えっ、でもまだ顔色が悪いみたいだけど」

「本当に大丈夫ですから、教室に戻ります」

 里奈はにっこり笑ってみせた。

「それじゃあ頑張ってみる? あまり無理しないで、具合が悪くなったらすぐに言ってね」

「はい」

 里奈は立ち上がって上履きを履くと、ベッドを仕切っているカーテンを引いた。

「あれ、里奈じゃん」

 体操着姿のリョウタが、保健室のソファに座っていた。

「じゃぁ、二人とも2時間目から教室に戻ってね」

 先生が、保健室から出て行く。

「リョウタくん、どうしたの?」
 里奈が目を丸くすると、
「おれは1時間目の体育で膝をすりむいて、絆創膏もらいにきただけ」
と、リョウタは自分の膝を指さした。

 左足に貼られた絆創膏には、血がにじんでいる。

「痛そう~」

 里奈は顔をしかめた。

 モモちゃんが、里奈の肩に乗る。

「里奈ちゃん、本当にもう平気? きっとまた痛くなるから、もっとゆっくり休んだ方がいいよ」

 モモちゃんがベッドを指さす。

「平気だよ」

「どうしたの、そっちは?」

 リョウタがソファから立ち上がった。

「ちょっとお腹が痛かっただけ」

「ちょっとじゃないでしょ?」

 すかさずモモちゃんが言う。

「もしかしたら、里奈ちゃんのお腹の中で、大変なことが起きてるかもしれないの」

 モモちゃんが肩から飛び立ち、里奈の目の前に浮かぶ。

 リョウタが目を細めた。

「もしかしたら……じゃないんじゃないか?」

 リョウタが、モモちゃんに向かって言う。

「あ、うん……」

 モモちゃんが不安そうな顔をする。

「なぁ里奈。ひょっとしてモモちゃんを作る時、おばけの元を吸いこんだりしてないか?」

 リョウタが里奈に一歩近づいてくる。

 里奈は、モモちゃんを作った時のことを思い出した。

 袋を開けようとしたら、粉が飛び散ってしまった。その時に粉を吸い込んでしまったはずだ。

「うん。なんでわかるの? 口の中が苦くなったから、うがいをしたんだけど、間違ってその水飲んじゃったの」

「うそっ! 里奈ちゃん飲んじゃったの?」

 モモちゃんが、大げさなほど目を見開く。

「やっぱりな」

 リョウタがうなずく。

「なにか、問題でもある?」

 里奈はリョウタを見上げた。

「おまえさぁ、説明書、ちゃんと読んでないの?」

「読んだよ」

「注意事項、ちゃんと読んだ?」

「そこは……飛ばしたかな」

 里奈の返事に、リョウタがため息をついた。

「おれ、里奈の説明聞いただけで気軽にソラくん作っちゃったけど、後から説明書読んで驚いたわ」

 リョウタがモモちゃんを見る。

「えっとね、おばけの元を人が吸い込むとね、お腹の中でおばけウイルスに変化しちゃうんだよ」

 モモちゃんが、宙を漂いながら言う。

「おばけウイルス?」

「そう。吐き出さずに心に閉じこめてしまった気持ちをエサに、おばけウイルスはお腹の中で驚異的に増えるらしいぜ。腹痛や嘔吐など、胃腸炎に似た症状を引き起こすのでご注意ください、だとさ」

 リョウタの顔がひきつっている。

「大変、大変! おばけウイルスを退治しないと」

 モモちゃんが、忙しく飛び回る。

「このままだと、どうなっちゃうの?」

 モモちゃんを見ていたら、里奈は目が回りそうだった。

「できるだけ早くウイルスを吐き出さないと、お腹が破裂するぞ」

 リョウタが真剣な顔をしている。

「わたし、どうすればいいの?」

 里奈は思わずリョウタの腕をつかんだ。

「今まで閉じこめてきた気持ちを、伝えたい相手にちゃんと言葉にして伝えるんだ」

「閉じこめてきた気持ちってなに?」

 里奈は首を横に振った。

「おまえ、わからないの? モモちゃん見ても、わからないのかよ」

 里奈は、バレーボールくらいに成長したモモちゃんを見つめた。

 横に膨らんだモモちゃん。栄養不足だというモモちゃん。

「わたし、ちゃんと伝えてるよ。楽しい気持ち、ありがとうの気持ち、みんなにいっぱい伝えてるよ」

「エサがなければ、おばけウイルスは増えないんだぞ。閉じこめてきた気持ちがなければ、お腹が痛くなるわけないんだ」

 リョウタが突き放すように言う。

 里奈は唇を噛んだ。

「言いたいことがあるんなら、ちゃんと言えよ。相手の気持ちばっかり考えて、我慢することなんてないんだ」

「それで誰かが傷ついても?」

「ちゃんと伝えればちゃんと伝わる。それに、わけもなくむしゃくしゃしたり、イライラすることだってあるだろ?」

 里奈はうなずく代わりにリョウタに質問した。

「リョウタくんはあるの? そういう時」

「当たり前だろ。そういう気持ちだってなくちゃ、わかんないんだよ、相手の気持ちなんて。自分の中にない気持ちはわからない。だからそういう気持ちだって全部、本当は大切なんだ」

 リョウタが、里奈の頭をポンと優しく叩いた。

「バランスよく栄養を取らないと、モモちゃんはうまく成長できないんだよ」

 モモちゃんが、ふわりと目の前に来る。

「おれたちだってモモちゃんと一緒なんだよな。自分の中にある気持ちを全部、しっかり消化して吸収して、最後は吐き出さないと、お腹の中で消化不良を起こして悪さをする」

 リョウタが、モモちゃんをなでた。

「あれっ、そういえばソラくんは?」

 リョウタの周りには、ソラくんの姿が見えない。

「おれ、ゲームクリアしたから」

 リョウタがさらっと言った。

「ソラくん、消えちゃったの?」

 里奈は胸の奥がしめつけられるような気がした。

 宙を漂うモモちゃんを見る。

(いつかモモちゃんも、消えちゃうの?)

 里奈は不安な気持ちでリョウタを見つめた。

「消えたわけじゃないよ」

 リョウタがぼそりと言う。

「どういうこと?」

 里奈が先をうながそうとすると、
「里奈ちゃんっ」
と、モモちゃんが里奈の周りをせわしなく飛んだ。

 かすかな痛みを感じて、里奈はお腹をさすった。

「それより里奈ちゃん、またお腹が痛くなってきてるんじゃないの? 早く気持ちを吐きださないと危険だよ」

 あわてふためいたモちゃんの様子に、里奈は不安になった。

「アリサちゃんとマキちゃんに、言えないでいたことがあるんじゃないの?」

 モモちゃんは確信をついてきた。

「本当は、わかっているよね? 自分の中にある気持ち」

 モモちゃんが言う。

 里奈はゆっくりとうなずいた。

「ごめんな。おばけのこと、おれが二人だけの秘密にしようなんて言ったのが悪かったかな」

 リョウタの言葉に、里奈は首を横に振った。

「リョウタくんに話してもらっても、ダメなんでしょ? 結局わたしが自分で言わなくちゃ、おばけウイルスは退治できないんでしょ?」

「そうだよな」

 リョウタが里奈の肩に手を置く。

「頑張れよ」

「うん。もうわたし、自分の気持ちから目をそらさない」

 里奈は保健室のドアを開けた。
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