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「ひとつ気になることがあるんだけど」
二人ともホットコーヒーのおかわりを頼んだ後、菜月が言った。
ファミレスは夕飯時のピークを過ぎて、客がまばらになってきていた。あまり周りを気にせず話を進められる。
「なに?」
瑞穂はコーヒーを飲みながら返事をする。
「リナちゃんが探していた、マミっていう子には心当たりないの?」
瑞穂は口に含んだコーヒーをごくんと飲み込んだ。おかわり分のコーヒーは、一杯目よりも苦みが強かった。
「たまたま同じ名前だっただけだとは思うんだけど……」
瑞穂は言葉を濁した。
「心当たり、あるんだね?」
菜月が核心をついてくる。
瑞穂は菜月の目を見てうなずいた。
「死産したお腹の子を、マミちゃんって呼んでいたの」
瑞穂はゆっくりと言った。
「最初はマメちゃんって呼んでいたの。エコーに写った赤ちゃんが豆みたいだったから」
「へー、かわいい」
菜月が微笑んだ。
「羊水検査の結果待ちの間に、性別が女の子だってわかったの。あだ名がマメちゃんのままじゃかわいそうかなって思って」
瑞穂は笑いながら言った。
「ほんの数日間しかないけど、マミちゃんって女の子っぽい名前で呼んであげようと思って」
そう言って笑う瑞穂に、菜月は怪訝な顔をした。
「ほんの数日間……」
菜月が小さく呟く。
「え?」
瑞穂は聞き返した。
「あっ、ごめん。ちょっとひっかかって……なんでもない独り言」
菜月はそう言いながら、コーヒーカップを口に運んだ。
なにか変なことを言ってしまったのだろうか。瑞穂は先ほどの自分の言葉を反芻したが、おかしな点は思い当らなかった。
「ねぇ、瑞穂。瑞穂の気持ちを考えたら、簡単に言うことじゃないかもだけど、わたし思ったの」
菜月が慎重に言葉を選ぶように言う。
「なに?」
瑞穂は先を促した。
「もしリナちゃんが幽霊で、他の亡くなった子どもと話ができるのだとしたら、リナちゃんが言う通り、瑞穂の傍に今もマミちゃんがいるんじゃない?」
瑞穂は心の奥をグッと掴まれたようで、一瞬息ができなかった。
涙腺が全開になりそうなのを必死で堪える。
マミちゃんが、あのマミちゃんのことであるなら、リナの言うことを信じるなら……。
妊娠中にいつもそうしていたように、瑞穂は無意識に自分のお腹をさすっていた。
「マミちゃんが……」
だが、そんなはずはない。そんなはずは。瑞穂は首を横に振った。
「そんな非科学的な話、信じられないよ。わたしはやっぱり、リナちゃんはまだ生きていると思っている」
瑞穂は真っ直ぐに菜月の目を見た。
「ねぇ、今から菜月も102号室に一緒に行ってくれないかな。菜月にも、実際にリナちゃんに会って欲しいの」
「うん、もちろんいいけど。でも102号室は……」
菜月は言葉を濁した。そして思い直したように言った。
「瑞穂が納得するまで付き合うよ」
二人ともホットコーヒーのおかわりを頼んだ後、菜月が言った。
ファミレスは夕飯時のピークを過ぎて、客がまばらになってきていた。あまり周りを気にせず話を進められる。
「なに?」
瑞穂はコーヒーを飲みながら返事をする。
「リナちゃんが探していた、マミっていう子には心当たりないの?」
瑞穂は口に含んだコーヒーをごくんと飲み込んだ。おかわり分のコーヒーは、一杯目よりも苦みが強かった。
「たまたま同じ名前だっただけだとは思うんだけど……」
瑞穂は言葉を濁した。
「心当たり、あるんだね?」
菜月が核心をついてくる。
瑞穂は菜月の目を見てうなずいた。
「死産したお腹の子を、マミちゃんって呼んでいたの」
瑞穂はゆっくりと言った。
「最初はマメちゃんって呼んでいたの。エコーに写った赤ちゃんが豆みたいだったから」
「へー、かわいい」
菜月が微笑んだ。
「羊水検査の結果待ちの間に、性別が女の子だってわかったの。あだ名がマメちゃんのままじゃかわいそうかなって思って」
瑞穂は笑いながら言った。
「ほんの数日間しかないけど、マミちゃんって女の子っぽい名前で呼んであげようと思って」
そう言って笑う瑞穂に、菜月は怪訝な顔をした。
「ほんの数日間……」
菜月が小さく呟く。
「え?」
瑞穂は聞き返した。
「あっ、ごめん。ちょっとひっかかって……なんでもない独り言」
菜月はそう言いながら、コーヒーカップを口に運んだ。
なにか変なことを言ってしまったのだろうか。瑞穂は先ほどの自分の言葉を反芻したが、おかしな点は思い当らなかった。
「ねぇ、瑞穂。瑞穂の気持ちを考えたら、簡単に言うことじゃないかもだけど、わたし思ったの」
菜月が慎重に言葉を選ぶように言う。
「なに?」
瑞穂は先を促した。
「もしリナちゃんが幽霊で、他の亡くなった子どもと話ができるのだとしたら、リナちゃんが言う通り、瑞穂の傍に今もマミちゃんがいるんじゃない?」
瑞穂は心の奥をグッと掴まれたようで、一瞬息ができなかった。
涙腺が全開になりそうなのを必死で堪える。
マミちゃんが、あのマミちゃんのことであるなら、リナの言うことを信じるなら……。
妊娠中にいつもそうしていたように、瑞穂は無意識に自分のお腹をさすっていた。
「マミちゃんが……」
だが、そんなはずはない。そんなはずは。瑞穂は首を横に振った。
「そんな非科学的な話、信じられないよ。わたしはやっぱり、リナちゃんはまだ生きていると思っている」
瑞穂は真っ直ぐに菜月の目を見た。
「ねぇ、今から菜月も102号室に一緒に行ってくれないかな。菜月にも、実際にリナちゃんに会って欲しいの」
「うん、もちろんいいけど。でも102号室は……」
菜月は言葉を濁した。そして思い直したように言った。
「瑞穂が納得するまで付き合うよ」
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