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「こんな時間まで付き合わせてごめんね」

「ううん。全然」

 隣には、コートとマフラーに身を包んだ菜月がいる。

 瑞穂は102号室の扉の前に立ち、腕時計を見た。アパートの外廊下は、電灯が壊れていて真っ暗だ。道路の外套からかろうじて届く薄明りで時計の針を読むと、午後9時を回ったところだ。

 瑞穂は102号室のチャイムを鳴らした。

 反応はない。

 瑞穂は玄関扉を数回ノックした。扉が冷え切っていて、ノックする瑞穂の手もじんと冷える。

「リナちゃん? わたしだよ、隣の101号室の瑞穂」

 やはり反応はない。

「こんな夜遅くに、無理だったかな」

 夜に誰かが訪ねてきたとしても、普通の4歳の女の子なら、怖くて出られないのが当然だろう。

 菜月は何も言わず、かじかんだ手をこすり合わせている。

「あ、寒いのにごめんね」

 瑞穂は菜月に謝った。

「大丈夫」

 菜月が短く答える。息が白い。

 瑞穂は最後にもう一度チャイムを鳴らした。

「もう、寝ちゃったのかな。時間が遅すぎたかも。今度昼間に……」

「ねぇ、瑞穂」

 瑞穂の言葉を遮って、菜月が言った。

「リナちゃんが亡くなっていることが信じられないなら、このアパートの大家さんと話してみたらいいかも」

 菜月が心配そうな顔で言う。

「大家さん?」

 瑞穂は入居の際に、大家さんに一度だけ挨拶に行ったことがある。大家さんと言っても、アパートのオーナーというだけで、アパートの管理はすべて管理会社が行っている。

 大家さんは70代後半くらいの男性で、アパートのすぐ前の一軒家に一人で住んでいた。

「わたしからは、立場上言えないことも色々あるからさ」

 菜月が肩をすくめる。

「リナちゃんが亡くなった時、大家さんが警察の検視に立ち会っているから。もっと詳しい話が聞けるんじゃないかな」
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