世界で一番、可愛いおばけ

ことは

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4愛憎

4-9

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 早苗が帰ると、亜紀は友里の視線に気がついた。友里は、亜紀が抱いているそらをじっと見つめている。

 亜紀はゴクンと唾を飲みこんだ。

「……見えるの?」

 友里がうなずいた。そらを眺める友里の表情は、わずかに微笑んでいる。

「いつから?」

「早苗の家に、拓也くんの出産祝いに行ったとき」

 亜紀は驚いた。友里には、最初からそらが見えていたのか。

「最初はね、亜紀、なんか気味の悪い人形持ってるなーって思ってたの」

 友里がハッとした顔をする。

「あっ、ごめん。人形だと思ってたからさ」

 そらのことを、気味の悪いと表現したことを謝っているのだろう。亜紀だって、友人がこんな人形を持っていたら同じことを思うだろう。仕方がない。

「ううん。気にしないで」

「それに、あの日電話でもひどいこと言ってごめん。私、まだあの頃、色々なことが受け入れられなくて」

「うん、もういいよ。私こそ色々気づいてあげられなくてごめんね」

 亜紀が言うと、友里が寂しそうに笑った。

「それで、その子のことなんだけど」

 友里がそらを指さした。

「早苗の家に行ったとき、亜紀、先に帰ったでしょ。それで、人形のこと早苗に言ったら話が通じなくて、あれは私だけが見た幻だったのかなーなんて」

 友里が肩をすくめた。

「けど、今日来てみたらまだいて、しかもハイハイしてるんだもん」

 友里が目を丸くしてそらを見た。

「なんとなく、予感はあったんだけどね。あれは幻じゃないなって」

「そらちゃんなんだよ、この子。どうして見える人と見えない人がいるのかわからないんだけど」

「そらちゃん? でもそらちゃんは……」

 友里は骨壺に目をやった。

「私もわけがわからないの」

 亜紀がつぶやくように言った。

 最初はそらが生きていたのだと思った。次にそらは幻覚なのだと思った。そして今は。そらは、なんなのだろう。

 友里は興味深そうにそらを見つめた。

「抱っこしてみてもいい?」

 友里が両手を差し出してきた。

「いいよ」

 亜紀はそらを、友里の手の平に乗せた。

「わぁ、可愛い」

 友里が目を細める。

「友里は平気なの?」

 亜紀の言葉に友里が首をかしげる。

「その、見た目とか。この子病気だから」

 あぁ、と友里が笑った。

「これでも私、看護師だよ。助産師の資格はないから、こういう子取り上げたことはないけど」

 友里は、優しい表情でそらを抱いている。亜紀は気持ちが暖かくなった。

「四十九日を過ぎた頃にね、突然そらが現れたの。でも、孝之にも両親にも見えないんだよ、この子」

 亜紀はため息をついた。

「この子、一体なんなんだろう」

「幽霊には、見えないね」

 友里が、そらの全身を調べるように見ている。

「幽霊、見たことあるの?」

「ないけど」

「仕事柄、あるのかと思った」

「まさか」

 友里が声をたてて笑った。ひとしきり笑うと、友里は表情を引き締めて言った。

「私はね、新人類なんじゃないかと思うよ、そらちゃんは」

「えっ?」

 亜紀は友里の発想に驚いた。

「突然変異とか、なんかそんな感じ?」

「そんな感じって、適当じゃない?」

 亜紀が言うと、友里が悪戯っぽい顔をした。

「なんにしても、亜紀がうらやましいよ。どういう形であっても、こうやって生まれてきてくれたんだもん、そらちゃん」

 友里がそらに頬ずりした。友里の言葉に嘘はないだろう。心の底からそう思っているに違いない。

「でも、色々大変だよ」

 手放しに羨ましがる友里に、亜紀は眉をひそめた。

「うん、わかる」

 友里がうなずく。

「亜紀、目の下すごい隈だよ。髪もボサボサだし」

 友里に言われて、亜紀は慌てて髪を手櫛でとかした。

「もしかしてだけど、違ったら悪いけど」

 友里が、遠慮がちに言う。

「なに?」

「葵ちゃんが生まれて、そらちゃんの存在、苦になってる?」

 亜紀は心臓をギュッとつかまれた気がした。

 首を横に振ろうともがいたのに、抗うことができなかった。気づいた時には、うんとうなずいていた。

 うなずいたら、涙がポタポタと床に落ちた。

 葵はしきりに手で顔をかくような仕草をしている。亜紀と目が合うと、ふわっと微笑んだ。

 亜紀の足から力が抜けていく。膝がガクンと床につく。一度涙腺が緩むと、涙が止まらない。

「亜紀……」

 友里が亜紀の肩に手を置く。

 亜紀の隣にしゃがんだ友里の腕には、そらが抱かれている。

 そらは、亜紀を見ていた。その視線から逃れたかった。逃れて、葵を抱きしめたかった。後ろめたい気持ちを全部捨てて、葵を抱きしめたかった。

 だが、そんなこと許されるはずがない。

「ねぇ亜紀」

 顔を上げると、友里が真剣な顔をしていた。

「そらちゃん、私に預けてみない?」

「え」

 亜紀は、頭の中が空白になった。友里の言っていることが、すぐには理解できなかった。

「そらちゃんは、普通の子とは違う。私に預けたとしても、世間の目は欺ける。なんて言い方すると深刻な感じになっちゃうけど」

 友里が笑った。

「要は亜紀の手に余るようなら、私が育ててみたいだけ。もう自分の子は望めないからさ」

 亜紀は、そらと友里を見比べた。

 友里は、しっかりとそらを抱いている。その顔は、二度と手放したくないと言っているみたいだった。

「そらちゃん、私に預けてみない?」

 気がつくと亜紀は、深くうなずいていた。
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