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:第11章 「凱旋」
・11―5 第217話:「友情」
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・11―5 第217話:「友情」
外から見るだけでも王宮の壮麗さはよくわかったが、それは、内部も同じだった。
人々に国家というものの実在を信じてもらうために、という目的であれば外観に気を使い、内部は、外から誰かを招いた時に目に入る範囲だけに手間と金をかけ後は機能だけを重視して簡素に作ってもいいはずだった。
しかし、メイファ王国の王宮は、そこで働く人々だけしか立ち入らないような場所に至るまで丁重に作られていた。
あちこちに彫刻や噴水がある。絵画も飾られている。壁や柱には美しく磨かれた大理石が使われていたりするし、床には分厚い絨毯(じゅうたん)が敷かれている。明かり取りのためにあちこちに大きな窓があり、すべてこの時代では値の張るガラス張りで、ドーム状の大きな天窓がある場所さえあった。
やはり、国が豊かなのだろう。
交易の結節点となっている王都・パテラスノープルは、商業が非常に盛んだ。
今も、城下に二つある市場では早朝から盛んに取引が行われているし、海路はひっきりなしに商船が、陸路は隊商が行き交っている。
商人たちから得られる税金。それと、様々な商品を輸出入するのに課せられる関税。
これらの収入が国庫を潤し、王宮の細部に至るまで凝った作りこみをする余裕を作り出している。
(フィーナの村みたいな場所も、いっぱいあるはずなんだけどな……)
その壮麗さに圧倒されつつも、王都の繁栄の一方で辺境地域の村々が置かれている状況との格差に思い至った源九郎は、思わず表情を引き締めてしまっていた。
それは、どうやらフィーナも同じ様子だ。
二人が旅に出た理由。それは、村の置かれた窮状を訴え、国王に対して物申すためだ。
その機会が、これから得られようとしている。
そう思うと、彼女の胸中には様々な思いが溢(あふ)れて来るのだろう。
「さ! 源九郎は、ラウルと一緒にあちらへ。フィーナは、私(わたくし)と一緒に、こちらへいらしてくださいな! 」
サムライと元村娘の様子に気づいているのか、いないのか。
王宮の内部まで自らの手と足で案内してくれたセシリアは、廊下と廊下が交わる分かれ道で立ち止まるとそう言いながら手ぶりでそれぞれの行く先を指し示してくれた。
「あれ? このまま一緒に、どっか、控えの間とかに案内してもらうんじゃないのか? 」
「普通はそういうもの、で・す・が……! 女の子には、やっぱり、おめかしが必要ですわ! 」
疑問を口にした源九郎に、セシリアは両手を腰に当てて仁王立ちし、そう言ってウインクをして見せる。
「ほぅ。そりゃ、楽しみだ」
「う、うん。おらも……」
良かったな、という顔で視線を向けると、フィーナは気恥ずかしそうに顔をうつむける。
そういうわけで、二人はいったん、別れることとなった。
サムライは犬頭の獣人と共に控えの間へ直行し、元村娘は、お姫様の私室に。
———部屋の中に案内され、そこに広がっていた光景を目にしたフィーナは、驚きの余りに絶句して、呆然と立ちすくんでいた。
セシリアは様々な衣装を持っている。
そのことは知っていたが、目の前にずらりと並べられると、その壮観さにすっかり飲まれてしまう。
部屋の中には百着以上もの衣服が用意されていた。すべてが美しい色とりどりの布、おそらくは最高級の絹で織られたものを使っていて、一流の職人の手によって丁寧に仕立てられている。縫い目が見えないし、ほつれなどはまったく見られず、全体的にツヤツヤとしていて、輝いている。
それは、元村娘の想像を遥かに超えるものだった。
「さぁ、フィーナ! この中から、あなたに一番似合う衣装を選びますわよ! 」
フィーナの驚き様にすっかり満足した様子で、セシリアは得意げな顔をする。
「お洋服を選んだら、お化粧もいたしましょう! 大丈夫、全部、私(わたくし)と、こちらの専門家の方が指南いたしますわ」
ギギギ、とぎこちない動きで視線を向けると、お姫様が腕で指し示した先には何人かの職人たちが控えていて、みな、丁寧にお辞儀をして見せる。
おそらくは洋服の仕立てや、美しく化粧を施すことを専門とした者たちなのだろう。みな、王宮には場違いなもっと村娘の質素なチュニック姿を見ても顔色一つ変えず、すべてを心得ている様子で悠然としていて、プロフェッショナルらしい雰囲気を全身にまとっている。
「い、いいんだべか……? おらが、こんな服を着ても……」
やがてこれが現実に起こっていることなのだと段々と実感し、事実を受け入れ始めたフィーナが、声を震わせながらたずねて来る。
「もちろん、いいんですわよ」
するとセシリアはそっと褐色肌の少女の肩の上に手を添え、優しい微笑みを浮かべた。
「むしろ、こんなことしか出来なくて、ごめんなさい、フィーナ。……私(わたくし)、旅の間はずっと、あなたに助けてもらい通しでしたのに。それに、あなたの村のことだって」
お姫様はもう、どうして元村娘が旅に出たのかを知っていた。
一緒に馬車に乗って帰ってくる途中で、しっかりと話をしたのだ。
「せめて、あなたにはできる限りのお礼がしたいのです。もちろん、村のことだって、なんとかいたしますわ! もしお父様があまり良い顔をしなくとも、私(わたくし)が、全力でお手伝いさせていただきますから! 」
「お、おねーさんっ! 」
思わずうるっと来てしまったフィーナは慌てて顔をこすり、それから、晴れやかな笑みを浮かべて見せる。
———少なくとも、目の前にいるお姫様は、本気だ。
本心から辺境の村々の窮状のことを思い、案じ、心を痛めて、これから、王女としての責務を果たし、手を差し伸べようと決意し、問題を解決してくれようとしている。
そう信じることができる。
「んだら、おねげーするだよ! 一生忘れらんねーくらい、おらをきれいにしてくんろっ! 」
「ええ! 源九郎たちに一泡吹かせてやりましょう♪ 大丈夫、フィーナ、あなたはとってもかわいらしいですわ! 」
重かっただろうに、自身を決して置き去りにしようとはせずに背負って歩き続けた、未熟ながらも必死に戦い続けた背中の感触。
それを思い出したフィーナが屈託のない笑顔を見せると、セシリアも満面の笑みで、力強くうなずいていた。
外から見るだけでも王宮の壮麗さはよくわかったが、それは、内部も同じだった。
人々に国家というものの実在を信じてもらうために、という目的であれば外観に気を使い、内部は、外から誰かを招いた時に目に入る範囲だけに手間と金をかけ後は機能だけを重視して簡素に作ってもいいはずだった。
しかし、メイファ王国の王宮は、そこで働く人々だけしか立ち入らないような場所に至るまで丁重に作られていた。
あちこちに彫刻や噴水がある。絵画も飾られている。壁や柱には美しく磨かれた大理石が使われていたりするし、床には分厚い絨毯(じゅうたん)が敷かれている。明かり取りのためにあちこちに大きな窓があり、すべてこの時代では値の張るガラス張りで、ドーム状の大きな天窓がある場所さえあった。
やはり、国が豊かなのだろう。
交易の結節点となっている王都・パテラスノープルは、商業が非常に盛んだ。
今も、城下に二つある市場では早朝から盛んに取引が行われているし、海路はひっきりなしに商船が、陸路は隊商が行き交っている。
商人たちから得られる税金。それと、様々な商品を輸出入するのに課せられる関税。
これらの収入が国庫を潤し、王宮の細部に至るまで凝った作りこみをする余裕を作り出している。
(フィーナの村みたいな場所も、いっぱいあるはずなんだけどな……)
その壮麗さに圧倒されつつも、王都の繁栄の一方で辺境地域の村々が置かれている状況との格差に思い至った源九郎は、思わず表情を引き締めてしまっていた。
それは、どうやらフィーナも同じ様子だ。
二人が旅に出た理由。それは、村の置かれた窮状を訴え、国王に対して物申すためだ。
その機会が、これから得られようとしている。
そう思うと、彼女の胸中には様々な思いが溢(あふ)れて来るのだろう。
「さ! 源九郎は、ラウルと一緒にあちらへ。フィーナは、私(わたくし)と一緒に、こちらへいらしてくださいな! 」
サムライと元村娘の様子に気づいているのか、いないのか。
王宮の内部まで自らの手と足で案内してくれたセシリアは、廊下と廊下が交わる分かれ道で立ち止まるとそう言いながら手ぶりでそれぞれの行く先を指し示してくれた。
「あれ? このまま一緒に、どっか、控えの間とかに案内してもらうんじゃないのか? 」
「普通はそういうもの、で・す・が……! 女の子には、やっぱり、おめかしが必要ですわ! 」
疑問を口にした源九郎に、セシリアは両手を腰に当てて仁王立ちし、そう言ってウインクをして見せる。
「ほぅ。そりゃ、楽しみだ」
「う、うん。おらも……」
良かったな、という顔で視線を向けると、フィーナは気恥ずかしそうに顔をうつむける。
そういうわけで、二人はいったん、別れることとなった。
サムライは犬頭の獣人と共に控えの間へ直行し、元村娘は、お姫様の私室に。
———部屋の中に案内され、そこに広がっていた光景を目にしたフィーナは、驚きの余りに絶句して、呆然と立ちすくんでいた。
セシリアは様々な衣装を持っている。
そのことは知っていたが、目の前にずらりと並べられると、その壮観さにすっかり飲まれてしまう。
部屋の中には百着以上もの衣服が用意されていた。すべてが美しい色とりどりの布、おそらくは最高級の絹で織られたものを使っていて、一流の職人の手によって丁寧に仕立てられている。縫い目が見えないし、ほつれなどはまったく見られず、全体的にツヤツヤとしていて、輝いている。
それは、元村娘の想像を遥かに超えるものだった。
「さぁ、フィーナ! この中から、あなたに一番似合う衣装を選びますわよ! 」
フィーナの驚き様にすっかり満足した様子で、セシリアは得意げな顔をする。
「お洋服を選んだら、お化粧もいたしましょう! 大丈夫、全部、私(わたくし)と、こちらの専門家の方が指南いたしますわ」
ギギギ、とぎこちない動きで視線を向けると、お姫様が腕で指し示した先には何人かの職人たちが控えていて、みな、丁寧にお辞儀をして見せる。
おそらくは洋服の仕立てや、美しく化粧を施すことを専門とした者たちなのだろう。みな、王宮には場違いなもっと村娘の質素なチュニック姿を見ても顔色一つ変えず、すべてを心得ている様子で悠然としていて、プロフェッショナルらしい雰囲気を全身にまとっている。
「い、いいんだべか……? おらが、こんな服を着ても……」
やがてこれが現実に起こっていることなのだと段々と実感し、事実を受け入れ始めたフィーナが、声を震わせながらたずねて来る。
「もちろん、いいんですわよ」
するとセシリアはそっと褐色肌の少女の肩の上に手を添え、優しい微笑みを浮かべた。
「むしろ、こんなことしか出来なくて、ごめんなさい、フィーナ。……私(わたくし)、旅の間はずっと、あなたに助けてもらい通しでしたのに。それに、あなたの村のことだって」
お姫様はもう、どうして元村娘が旅に出たのかを知っていた。
一緒に馬車に乗って帰ってくる途中で、しっかりと話をしたのだ。
「せめて、あなたにはできる限りのお礼がしたいのです。もちろん、村のことだって、なんとかいたしますわ! もしお父様があまり良い顔をしなくとも、私(わたくし)が、全力でお手伝いさせていただきますから! 」
「お、おねーさんっ! 」
思わずうるっと来てしまったフィーナは慌てて顔をこすり、それから、晴れやかな笑みを浮かべて見せる。
———少なくとも、目の前にいるお姫様は、本気だ。
本心から辺境の村々の窮状のことを思い、案じ、心を痛めて、これから、王女としての責務を果たし、手を差し伸べようと決意し、問題を解決してくれようとしている。
そう信じることができる。
「んだら、おねげーするだよ! 一生忘れらんねーくらい、おらをきれいにしてくんろっ! 」
「ええ! 源九郎たちに一泡吹かせてやりましょう♪ 大丈夫、フィーナ、あなたはとってもかわいらしいですわ! 」
重かっただろうに、自身を決して置き去りにしようとはせずに背負って歩き続けた、未熟ながらも必死に戦い続けた背中の感触。
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