捨てられ伯爵令嬢は野獣に勝てるか

めろめろす

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騎士団入団

第5話

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「やったわ、セレーナ!ラシード様との結婚の第一歩よ!騎士団に入れたら後はのし上がればいいの!」

 部屋に戻って、自分の遠出用のカバンに荷物をぎゅうぎゅうと押しこむアリアネスは興奮気味にセレーナに話しかける。

「お嬢様…荷づくりは私がやりますので、落ちついてお茶でも飲んでいて下さい。」
「わかったわ!」

 アリアネスは目をキラキラと輝かせ、素直に窓際の椅子に座る。それでも嬉しさがあふれ出してしまうようでブラブラと子供のように足をふっていた。その姿は伯爵令嬢としてははしたないのだろうが、とても可愛らしい。

 もともと、アリアネスは元気いっぱいなことが取り柄な女の子だった。しかし、ラシードが婚約者として現われ、すっかり骨抜きにされてしまい、10年間の淑女教育で自分の性格や立ち振舞いを徹底的に矯正した経緯がある。だが、とても嬉しかったり、悲しかったりすると、もともとの性格が表に出てきてしまう。

「騎士団に入れば、騎士宿舎で生活するのよね!私、この屋敷以外の場所で寝泊まりするのは初めてなの。セレーナはどんな場所か知ってる?」
「…そうですね。馬小屋のような場所だと思っていただければ。」
「そんな…。」
「お嬢様…。」

 ショックを受けてしまったのかとセレーナが慰めるために荷物の整理の手を止めた。しかし、セレーナの予想とは真逆に、アリアネスの瞳はさらに爛々と輝きを増していた。

「藁で寝れるのね!本で読んだことが実際にできるなんて!」

きゃあ!と可愛らしい悲鳴を上げて喜ぶアリアネスを見ながら、セレーナは安心してほっと息をはく。

「あなたとは少しお別れだけど、すぐに騎士団長になるから、待っていてちょうだい。しばらくはお父様かお母様のメイドとして働けるようにメイド長に指示を出しておくわ!」

 アリアネスがそう言って、セレーナに笑顔を向ける。しかし、セレーナは手を止めずに「何をおっしゃっているのですか?」と無表情で返した。

「だって、あなたは入団できないわ?あなたの事に関してはお手紙には書いてなかったもの。」
「お嬢様、第10支団は実力さえあれば誰でも入団できるのです。もちろん私も…。」

 できましたとアリアネスのカバンを閉めたセレーナが荷物を抱える。

「早速、第10支団に向かいましょう。」


「…本当に行くの、アリアネス?」

 屋敷の玄関でイグニスに支えられたモリアンが心配そうに尋ねる。

「お母様、わたくしラシード様としか結婚したくありませんの。…迷惑をおかけしていることは承知ですわ。ですから1年。1年で騎士団長になれなければ騎士団を除隊して家に帰ってきますわ。」
「1年で本当に騎士団長になれると思っているのか?」

イグニスが口を開く。

「えぇ、私が今まで学んできた全てを出し切って騎士団長になってみせますわ。騎士団長ごとき、1年でなれなければラシード様の妻など務まりません。」
「お前は…ほんとうに変わった子だ。」
「…淑女にあるまじき振舞いでお父様とお母様の評判を落としてしまったことをお詫びいたしいたします。もしお望みであれば親子の縁を切っていただいても…。」
「どんなことをしてもあなたは私たちの娘です。」

 アリアネスがうつ向きながら言うと、イグニスに寄りかかっていたモリアンがその手を離れ、アリアネスの前に立った。

「いいですか。騎士団に入れば、あなたを守ってくれる人など周囲にはおりません。心ないことを言われたり、されたりすることも多々あるでしょう。それでもいいのですか?あなたは、そんな生活でも我慢ができるのですか?」

 アリアネスは優雅にドレスをつかんで一礼する。

「そんなこと、これまでの10年間ですっかり慣れてしまいましたわ。見ていて下さい、お父様、お母様!わたくし、1年でこの国の騎士団を乗っ取ってみせますわ!」

 ぎゅっと両親に抱きついた後、小走りで馬車に向かう娘にイグニスは「物騒なことをいうものではない!」と怒鳴ったのだった。
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