Room 510

ひふみ しごろく

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コスプレ妄想話:婦警さん編(1/4)

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わたしと私のイメージプレイ
~婦警さん編~

えらく長くなったので幕ごとに分割しました。
全4幕になります。

***


「制服って想像、いや妄想の翼が羽ばたきますよね」

また彼が訳のわからないことをいい出した。
最近お酒を教えたのだが楽しいらしく事あるごとに飲みたがる。
そして飲むとべらべらと脳内妄想が垂れ流されるのだ。
わたしも楽しいんだけど、時々ついていけなくなることがある。
この日もそうだった。

「そうなの?」

「そうなんです。制服を着ている貴女をこんな風に犯したい、辱めたい!って妄想が羽ばたくんです」

「じゃあ、聞くだけきいてあげるわ。さ、コップを空けて。もう1杯飲みながら語ってよ。貴方のド変態な妄想を」

「えー、いいんですか?」

「聞くだけだからね!」

グラスのサングリアを空けると、彼は語りだした。



「登場人物の紹介です。
新米婦警さん。想定はもちろん貴女です。
犯人。私です。
センパイ。貴女のセンパイです。私は貴女の恥ずかしい姿を他のヤツに見られるのが死ぬほどイヤなのですぐ退場します。物語の小道具です。

舞台設定は現代、日本。
警察に詳しくないので設定はガバガバです」

酔っ払っているわりにしっかりした語り口と設定。
そう思って身構えたが導入こそ警察と犯人だが話の大半は警察である必要もない、わたしの想像を超える超ド変態な妄想で占められていた。
だが、ペラペラとうれしそうに話す彼を見ているのはおもしろいので語るに任せてみた。

***

<一幕>
秋の夕暮れ。
ふと見かけた現場から物語は始まりますよ。
何事もきっかけは些細なものですよね。

かわいいくまちゃんのぬいぐるみが、不審な男性に連れ去られる瞬間。
それが私の不幸の始まりだった。

「センパイ、今の…まさか、誘拐?」

「オレたちで片付けちまおうぜ」

「え、でもそれって服務規程違反で」

「大丈夫。一刻を争う状況だ。行こう!」

男が向かったのは古いアパートの一室。
特に尾行に気づいた様子もない。
挙動からみてプロじゃない。素人による出来心の犯罪と思われる。
こじれると偶発的に悲劇を生みかねない。
緊張で頭がしびれる。

何事もなかったように平然と帰宅する犯人の後を追い部屋を確認。
今どき珍しい、映像なしのインターホンをピンポン。
はいはい、どちらさまですか?宅配かな?と気の抜けるような一言から今に至る。

***

「…なんでくまちゃん?とお思いでしょうが、私と貴女以外はどうでもいいので聞き流してください。
あ、それと貴女は防音を気にされるので鉄筋コンクリート造のマンションに変更です。
これならどれだけ叫んでも安心です」

「…よくわからない配慮をありがとう。それよりも続きを聞かせて」

自家製サングリアを一口飲み、彼が続ける。

***

新築のマンション。防音もしっかりしたプライバシーに敏感な昨今の事情に即した建物。
室内は清潔に保たれている。
ゴミもまとめられ、流し台もキレイ。
某家具量販店でコーディネートしたと思われる家具類。
キチンと収納されており、犯人は几帳面な性格なのだろう。
部屋は今いるリビングに奥に寝室だろうか、もうひと部屋ありそうだ。間取りは広い。
連れ去ったくまちゃんはリビングのソファーに座らされていて、乱暴に扱われた形跡はない。

「ゆ、許してください。ほんの出来心だったんです。この通りくまちゃんは無事です。見逃してください!」

やはり素人の衝動的な犯行だった。
と言っても許されるものではない。

「そうはいかない。あなたは悪そうなタイプに見えないが、有ったことを無かったことにはできなんだ。すまない。詳しいことは署で聞くよ」

「そうですか…。って、あれ?これっていわゆる…」

「ん?」

犯人が何か思いついた顔をした。
閃いた!ってやつ。

あちゃー。

センパイは良い人なんだけど要領が悪いと言うか直球勝負過ぎると言うか。
もうちょっとタイミングを考えて言ってくれたら、この事件はここで終わっていたかもしれない。
しかし現実は最悪で最悪な方向に転がっていった。

「こ、この人質がどうなってもいいのか!それ以上近づいたら、こいつを殺すぞ!」

くまちゃんを盾にとりヤケクソ気味に叫ぶ犯人。
あのように言われたら、そうなりますよね、うん。


「センパイ…人質を確保してから言えばよかったのでは…」

「そうだったな、すまない。どうもオレは機転が利かない」

「いつものことですけどね」

「おまわりさん達、ふたりは仲良しなんですね」

「そうでもないですよ?
私は新米でセンパイが初ペアなんだけど、この半年間センパイがいいとこ見せようとしてそそっかしいばかりで苦労ばかりです」

思わずため息が出る。

「婦警さんも大変なんだ。ちょっとわかります」

「あら、あなたの上司もちょっと困ったひとなの?」

「ええ、まぁ、ちょっと…」

「苦労するわよねー」

「え?ねぇ、ちょっと!何ふたりで理解しあってるの?!」

せっかく油断させようとしているのに、この人は本当に空気が読めない。
このひとがペア長じゃなかったら…そもそもこの現場に今ふたりでいないか。

「おっとそうでした。どちらかというと敵・味方でした。センパイの言う通り馴れ合っている場合じゃない。
えっとですね、新米さん。まず武器をこっちにください。ベルトごと、まとめて全部です。無線機とかそう言った装備も一式お願いします」

ずしりと重い装備を渡す。
まずい。どんどん悪化していっている。

「これが本物の銃か。思ったより小さい」

「あのー、やけに手慣れた感じがするんですが…」

「え?ああ。子供の頃西部劇が好きだったんですよ。モデルガンでガンスピンの練習もずいぶんしました。ですから銃の構造は熟知しています。ドラマであるような『安全装備が…』とかは無駄です」

犯人が饒舌になってきている。
ふだんはおとなしいのに自動車を運転したり、凶器を持つと気が大きくなるタイプかもしれない。

「人に銃口を向けるのはとても気が引けるのですが、状況が状況なのでご容赦を」

手慣れた手付きで銃を握り、センパイに向ける。

「すいませんがセンパイも装備一式こちらへお願いします。くれぐれも、くれぐれも余計なことは控えてください。ボク、殺人犯とかイヤです」

…センパイがヘマしないように忠告してくれてありがとう。

「うーん。これは後戻りできない感じだ。これって最後は追い詰められて自殺したり、おふたりを巻き添えに無理心中とか、スナイパーに射殺されるとか悲惨な結末しかない気がする」

「そうだ!そうならないように自首しろ!それが一番だ!早い方がいい」

「すごく正論だと思うんですが、迂闊を連発するセンパイに言われるとなんだか腹が立ちますね」

そのとおり。
犯人の言うように私たちは迂闊だったとしか言いようがない。

閉じられたカーテンの隙間からみえる西日。
日が落ちていく。
私の気分のように。
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