赤ずきんと猟師

すなぎ もりこ

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森で出会った少女③

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「て、わけでよ、俺はこの森に狼を探しに来たんだ」
 メイジーは僅かに身体を強張らせ、膝を抱き寄せた。
「数年前の乱獲が原因で、狼は人里にはすっかり姿を現さなくなった。山越えして隣の国に移動しちまったって噂もある。俺もここ何年も見たことがねぇ。だから、眉唾もんの情報だって言ってやったんだ」
 男は肩をすくめて両手を上げる。
「だけども旦那様は聞き入れねぇんだ。猟師で旧知の俺より付き合いの浅い素人の言葉を信じるってんだからやりきれねぇよな。アイツもすっかりお貴族様になっちまって……まあ、そんなことはいいけどよ。すっかり話し込んじまって忘れるとこだったぜ。お嬢ちゃん、ここいらで狼を見なかったか?」
 メイジーは頭巾を引き寄せ唇を噛んだ。再び心臓が騒ぎ出す。
「はぐれ狼ってやつかな、どうやら一匹で行動しているらしい。たまに子羊やら鶏を攫って行くんだと。芋やキャベツも一緒に無くなるっていうから、それは狼の仕業じゃねぇだろって俺は言ってやったんだ。近所のやつが狼に罪をなすりつけて盗んでるんだろって。狼よりよっぽど人間の方がずる賢くて意地汚ぇんだからよ……て、また脱線しちまった。いけねぇいけねぇ……で、見たことあるか? 狼。こう、耳がピンとして鼻面が長え獣だよ。四つ足で灰色の毛が生えてる。尻尾は太くて長い」
 身振り手振りで説明する男を見つめながら、メイジーは迷っていた。
 男は無害に見えるが、はたして信用していいものか。
 しかし、このタイミングで現れたのは偶然とは思えない。
 森の神様が憐れなメイジーの望みを聞きつけ、決意のほどを試しているのだろうか。メイジーの心に今一度問いかけ、選択を促しているのだろうか。
 だとしても、そう簡単にこの男がそうだと信じることは出来ない。なにより、男が狼を撃つつもりなら、この先へと進ませるわけにはいかない。
 しかし、ここで「知らない」と言ってしまえば、機会を失う。再び、いつ訪れるかわからない奇跡を待つ日々を送らねばならない。
 メイジーは葛藤の末、若い猟師が神の使者にしかるべき者か試してみることを決めた。
 彼女はキッと顔を上げ、声を張る。
「狼を見たことがある。居場所も知っている」
 男は動きを止め、直後に指を鳴らした。
「ホントかよ! やったぜ、これで帰れる!」
 腰を上げ猟銃を肩に掛けた男がこちらに呼びかける。
「お嬢ちゃん頼む、俺をそこまで案内してくれよ」
「いいけど、私も貴方にお願いしたいことがある」
「難しいことじゃなきゃ構わねぇぞ。たんまり報酬を要求するつもりだしな」
 メイジーは立ち上がり、籠を腕に掛けた。
「ついてこい」
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