おむすび娘と縁切り侍

すなぎ もりこ

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提案

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「言っとくけどな、他言無用だから」
「こら!もっと言い方があるだろうが」

ぶすっとした表情で告げる蒼士の頭を隣の浅緋が叩く。

「ごめんね、モカちゃん。こいつ口下手でさ」
「大丈夫です。何となく理解してます」

浅緋は瞬きをして蒼士をちらりと見た。

「やっぱり間違いなさそうだな?」
「黙れ」

間違いない?何のことだろう。
モカは首を傾げた。

「ねえ、モカちゃん、今から話すことは公に出来ないことなんだ。信じる信じないは別にしても広まると方々に迷惑がかかるし、俺たちの日常生活にも支障が出る」

モカはごくりと唾を呑み込んだ。
そんな大事なの?
どうしよう、今からでも、やっぱり良いですって言おうかな…
口を開きかけたモカに浅緋が言う。

「でも、これも何かの縁だよね。僕達と繋がりを持つことは、君にとっても悪いことじゃないと思うんだ」
「…私にとっても?」
「お前は普通じゃないだろ」

遂に呼び方が『お前』にまで格下げされた…。
しかし、普通じゃないとは。
先日は普通に見えると言ったのに!

「あー、あのね、モカちゃんさ、人間関係に於いて何か悩みを抱えてない?」

モカは目を見開いた。
まさか、あのこと?
口に出した記憶はないし、誰かに聞いたのか?

「…俺達は見えるんだよ。人の縁を結ぶ紐が」

モカは蒼士の顔を凝視した。

「お前の周りで異常なくらい紐が結ばれてるのが見える…ていうか、お前が媒体になって相性の良い奴同士を惹き付けてる。お前は縁結び人間なの」
「縁結び人間…」
「その呼び名は無いだろ。本当にデリカシー無いね、お前」

浅緋に睨まれて、蒼士はふんと顔を背けた。

「心当たりあるでしょ」

浅緋に問われて、モカはおずおずと頷いた。

「あります。物心ついてからずっと感じてました」

周りの人達が幸せになるのは嬉しい。
しかし、それだけでは済まない感情も生まれた。
皆、はじめはモカと親しくなる。
けれど、その内にモカの周りでもっと相性の良い人を見つけて去っていくのだ。
常に独りぼっちであったわけではないが、大概に於いて、モカは一番ではなかった。
友人にとっても、そして恋人にとっても。
自分がいた場所に、他の誰かが現れ、自分は途端に背景か観客になる。
ずっーーーと、その繰り返しだった。

「誰が悪いって事じゃないことはわかってたけど、やっぱり、辛かった」

モカの目から涙が溢れ出た。
周囲の人達は、モカの事を福の神様だと言う。
モカの側にいると運が向いてくると。
そうやって利用されるのは流石にムカつくので、最近では図太くなって、先日のように飲み会や商談などに付き合わされる際には必ず対価を貰うようにしている。

「好きで縁結び人間なんかやってる訳じゃないの、私は普通に人と付き合いたいの、何でいつも置いてかれなきゃなんないのよぉ、わぁん」

溜め込んでいた感情が溢れて、モカは目前のイケメン二人の前で号泣した。

「一般的に出会いと別れはつきものだけどな」

ボソッと呟いた蒼士をキッと睨み付け、モカはテーブルを叩いた。

「あのね、出会いも別れも常に半径数メートル以内というぐらい近くで、それも頻繁に起こる私の身になってみなよ!それまで持ってた肉まんが、知らぬ間に隣の人の手の中に移動してんの、そんで食べてるのを黙って見てなくちゃなんないんだよ?!」
「取り返せば良かったんじゃん」
「肉まんが私より隣の人に食べられたいって言ってるんだからしょうがないでしょ!!」

モカはテーブルに突っ伏した。

「…たいへんな人生を送ってきたんだね。可哀想」

浅緋が気の毒そうに言う。
モカはテーブルを涙で濡らした。

「ずっと我慢してきたんでしょ。誰にも言わずに。だったら尚更俺達といれば良い。理解してあげられるし…その力をもっと有効利用できるかも」
「有効利用ってどういうことですか?」

モカはグシャグシャの顔を上げた。
蒼士がそっとボックスティッシュを差し出す。
モカはティッシュを引き抜いて鼻をかみ、涙も拭いた。

「田出呂神社はね、縁切り縁結びのご利益がある神社なんだ。実のところは縁切り専門なんだけど」
「縁切り…?」
「悪い縁を断ち切るんだよ。この神社の縁続きの人間はその能力を引き継ぐんだ。全員じゃないけどね。現在は、俺と蒼士、それとここの宮司で俺達の伯父さんとその息子が持ってる」
「縁切りの儀式は伯父さん一人でやってたんだけど、大怪我しちゃって入院中なんだよ。息子はまだ学生で県外にいるし。それで、俺と浅緋が手伝ってるってわけ」

モカは蒼士と浅緋を交互に見た。
雰囲気は全く違うけど、良く見たら顔の作りは良く似ている。
この二人は従兄弟同士ということか。

「はあ、それで、縁切りに私の力が必要ってどういうことでしょう。真逆の効力だと思うんですが」

浅緋は顎の下で手を組んでモカを見つめる。
蒼士はそんな浅緋を睨んでいる。

「おい、俺は反対だぞ、コイツを巻き込むのは」
「嫌なら断ってくれれば良いんだから、ね?」

モカは訳がわからないまま頷いた。

「モカちゃんは周りの良い縁を引き付けると共に、悪い縁を寄せ付けない力もある。お祓いや祈祷の場にいてくれるだけで、俺達の負担がかなり軽くなると思うんだ」
「はあ」
「俺達も他に本職があるし、ここに来るのは土日だけなんだ。モカちゃんも手伝ってみない?」
「おい」
「勿論、伯父さんに掛け合ってアルバイト代は出して貰う。結構割りの良い仕事だと思うよ?」

浅緋はにっこりと微笑んだ。
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