おむすび娘と縁切り侍

すなぎ もりこ

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過去と未来

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帰宅したモカはベッドに腰掛け、田出呂神社で交わされた先程の会話を思い返していた。
モカは、結局その場では返事はせずに、考えさせて欲しいと答えた。
浅緋から連絡先を訊いてスマートフォンに登録する様子を、蒼士は不満そうに見ていた。
どうやら蒼士はモカに引き受けさせたくないようだ。

さて、浅緋からの勧誘を受けるべきか。

モカはベットに仰向けに寝転んだ。
正直いって、興味はある。
今までは、この境遇を嘆きつつも黙って受け入れるだけだった。
利用するなど考えたこともなかった。
しかし、勝手に誰かを幸せにしているのと、そうしようと思ってやるのとでは全然違う。

…やってみたい。

成果が目に見えるものでなくても、自分にしか出来ないことを試せるのなら…
この縁結び体質に対しての考え方が変わるかもしれない。
もっと自分に自信が持てるようになるかもしれない。

久しぶりに胸が沸き立ち、モカは体を起こしてスマートフォンを手にとった。


「ありがとねー、玉森。お陰で楽しい週末を過ごせたわぁ。幹事としての顔も立ったし。さすが“縁結びモカ神”様々だわ」

先輩は満面の笑みを浮かべて抱きついてきた。

「そのあだ名は止めて貰って良いですか。そんで、彼氏が出来たとは言え、奢る約束はちゃんと守ってくださいよ」
「わかってるってぇ」

先輩はモカの肩を抱く。

「そう言えばさあ、向こうの来れなかった人」

モカの鼓動が鳴る。
あの夜、広瀬との間にあった事は言うつもりはなかったし、神社のバイトの事も誰にも明かさないつもりだった。

「凄いイケメンだったらしいわよ。仕事も出来るしでモテすぎて困ってる程だって。滅多に誘いには乗らないのに、何故か今回は乗り気だったんだって」
「へぇ」
「残念だったね、玉森に回ってきてたかもしれないのに」
「そうですね」
「ホント、冷めてるよね?彼氏ほしくないの?」

先輩はモカの顔を覗き込む。

「欲しいとは思いますけど、何せ今まであまり良い目にあってないので、次もそうなるかと思うと二の足踏んじゃうんですよ」
「誰か良い人を紹介してあげよっか?」

モカは苦笑いをして首を振った。
蒼士の言ったように出会いに別れはつきもので、皆、多かれ少なかれ経験していることなのだろう。
けど、またあんな切ない思いをしなければならないかと思うと足がすくむ。

「やっぱり今は彼氏は良いです。片思いくらいがちょうど良いかも。推し活で盛り上がりたい気分です」
「まあ、それも楽しいだろうけどさ」

先輩はつまらなそうに口を尖らせた。
その時、ポケットの中でスマートフォンが震えた。
取り出して画面を見ると、思いも寄らぬ人物からの着信が入っていた。
モカは暫し呆けた。

「どうした?」
「あ、いや、高校の時の知り合いから久しぶりに連絡が来たので吃驚して」
「ふうん?男?」

モカはメッセージを見ることなく、スマートフォンをポケットに戻した。

「まあ、友達の彼氏だった人です」
「なにそれ、何で連絡先知ってんの?」

だって、私の元カレですから。

「友達ぐるみの付き合いだったんで。多分仲間内で集まろうとかそんな話ですよ」

高校卒業と同時に付き合い始めた彼らだったが、一年ほど付き合って別れたらしい。
友人とは今でも通話やメッセージのやり取りがある。
しかし、元カレとは一切連絡を取っていない。
進学した大学の地元で就職したと人伝に聞いていたし、もう会うことも無いだろうと思っていた。
それが何で今になって連絡をしてくるのか?

モカは少し沈鬱になった気持ちをもて余しつつ、とぼとぼと廊下を歩く。

はっきり言ってあの頃の事は思い返したくもない。
それまで付き合っていた恋人が、モカを通じて友人と縁が結ばれる。
それは、長く恐れていたことが、遂に現実になった瞬間でもあった。
あまりに苦くて痛い経験だった。
モカは自分の縁結び体質を、深く疎んだ。
本当は友人とも連絡を断ってしまいたかったが、
モカはそうしなかった。
暫く交際の相談にまで乗っていたくらいだ。
さすがに三人で遊ぼうという、神経を疑う誘いは断ったが、今から思えば馬鹿だった。

休憩を終えて自分の席へ戻る途中、モカは先程先輩から聞かされた話を思い出した。

蒼士は何故、あの時の飲み会に乗り気だったのだろう。
事情がある、と言っていたが、それはいったいどういった…
そうやって考えている内に、モカはポケットの中にあるスマートフォンの存在を忘れてしまった。
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