おむすび娘と縁切り侍

すなぎ もりこ

文字の大きさ
11 / 35

偶然じゃない

しおりを挟む
浅緋がナタを振り下ろした瞬間、御神体が奉られている方向からブワッと強い風が吹いた。
モカは思わずよろめいたが、参拝者は何も感じなかったようで、ただ、俯いて手を合わせている。
浅緋も蒼士も動じる様子はない。
モカは不思議な心地で鈴を握る。
蒼士がこちらを向き、目を合わせて頷いた。

「それでは巫女による鈴払いを行います」

モカは唇をきゅっと引き締めると、しずしずと祭壇の向こうへ進み出た。
蒼士が脇へ移動する。
モカは奥様に教えられた通りに鈴を振った。
涼しげな音が本殿に響き、浅緋により開け放たれた戸口から外へ流れていく。
モカは自ら鈴を振るいながらもその音に心が清められている心地がしていた。
参拝者が更に深く頭を垂れた。


お札を受け取り、深々とお礼をしつつ去っていく参拝者を見送り、モカは蒼士と共に社務所に入った。

「まあ、及第点だな」
「へへ、ありがとうございます~」
「着替えたら帰って良いぞ」

モカは隣を歩く蒼士を見上げた。

「やっぱり見学しちゃだめ?」
「駄目~」
「蒼士の縁切り儀式見たいなぁ」
「前に見ただろ」
「神主の格好でナタを振るとこ見たいんじゃん。浅緋さんの儀式カッコ良かったし~」
「そんな浮わついた気持ちで見学してもらったら迷惑~」
「ちぇー」

モカはブスッとして前を向いた。
浅緋は知らぬ間に姿を消していた。
今は社務所の離れに籠っているらしい。
反動がどのようなものなのか気になるが、モカに出来ることがない以上、踏み込むことは控えた方が良いのだろう。
疎外感は感じるが、モカはこの神社の新参者だ。
まだ役に立っている実感もないのだから。

「来週の予約は入ってるの?」
「ああ。この神社は結構その筋じゃ有名だからな。伯父さんが戻ってくるまで休みなしだよ」

悪縁を切りたいと悩んでる人がそんなにいるのか。
モカは少し辛い気持ちになる。
幸いにも、自分の周りは良縁に恵まれて幸せそうな人ばかりだった。
そのせいでちょっとばかし寂しい思いはしたが、今となれば、それすら贅沢に思えてしまう。
悪縁の紐に縛られてしまうのは、きっと、とてつもなく恐ろしいことなのだ。
思った以上に厳かな儀式を目の当たりにし、モカは深く感じ入っていた。

「まあ、せっかく授かった力だし、人様のお役に立てる機会があるなら使った方が良いだろうと俺も浅緋も思ってるからな」
「そっか、偉いね、二人とも」

自分の幸せを優先したい、と望む私とは真逆だな、とモカは思う。
誘われて、軽薄にこの場にいる自分を少し恥じた。

「本当は巻き込むのは反対だったけど、お前がここに来たのは偶然じゃねぇよ。鈴払いも確実に効いてたし、悪縁の戻りを防いでた。お前が居てくれた方が俺達は助かる。参拝者もな」
「そうなの?…役に立ってたんだ」

蒼士は前を向いたまま頷いた。

「お前は良い気の加護を受けてる。そんな奴が不幸になるわけが無いよ。お前を幸せにしてくれる存在はきっといるし、幸せになる方法も絶対みつかる」

蒼士の真剣な表情を目にして、モカは茶化すことも出来ず、俯いた。
幸せになる方法…見つかるだろうか。
ただ、蒼士の言葉を信じたい、と強く思った。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

4番目の許婚候補

富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや

静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。 朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。 「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。 この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか? 甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!

一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~

椿蛍
恋愛
念願のデザイナーとして働き始めた私に、『家のためにお見合いしろ』と言い出した父と継母。 断りたかったけれど、病弱な妹を守るため、好きでもない相手と結婚することになってしまった……。 夢だったデザイナーの仕事を諦められない私――そんな私の前に現れたのは、有名な美女モデル、【リセ】だった。 パリで出会ったその美人モデル。 女性だと思っていたら――まさかの男!? 酔った勢いで一夜を共にしてしまう……。 けれど、彼の本当の姿はモデルではなく―― (モデル)御曹司×駆け出しデザイナー 【サクセスシンデレラストーリー!】 清中琉永(きよなかるな)新人デザイナー 麻王理世(あさおりせ)麻王グループ御曹司(モデル) 初出2021.11.26 改稿2023.10

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

処理中です...