おむすび娘と縁切り侍

すなぎ もりこ

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傍観

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花枝は毎週モカを捕まえ、目を輝かせて蒼士の情報を語る。

「蒼士さんって剣道部だったんだって、個人戦で県大会三位らしいよ、すごいよね。他に合気道と弓道とそろばん教室にも通ってたって!」
「最後のやつ並べる必要あったかな?」
「ところが甘いもの好きだって知ってた?ギャップが堪んないよね?ね?」
「私は辛党だからなあ、合わないかもねえ」

毎回新しい蒼士情報を仕入れてくる花枝は、すっかり蒼士に嵌ったらしい。
そうなると、必然的に花枝と蒼士が頻繁に話す姿を目にするようになる。
モデル並みのスタイルと美貌を備えた二人はどの角度からどう見たってお似合いだ。
時たまそれに浅緋が加わったりもするとそれはもう圧巻で、思わずシャッターを押してインスタに投稿したくなる気持ちもわからんでもない。

モカはどんどんと存在が薄くなる自分を意識する。
離れで蒼士に触れられるのも辛くなりつつあった。
しかし、それと反比例するように蒼士はますます激しくモカを抱いた。
止めて、と懇願するまで執拗に高められ、起き上がれないほど何度も絶頂に導く。
まるで必死で繋ぎ止めるように。


「花枝ちゃんが巫女舞いをするらしいよ、見学に行かない?」

離れから戻った浅緋が、厨房で昼食の手伝いをしていたモカを誘いに来た。
花枝ちゃんの巫女舞い…それは相当美しいに違いない。
奥様も勧めてくれたので、モカは割烹着を脱いで浅緋と共に拝殿へ向かった。

「アオも先に行ってるよ。うちの神社で巫女舞いをやるのは久しぶりなんだ」

ちょうど禰宜さんが祝詞を終えたところで、戸口の端で蒼士が柱に凭れてじっと中をみつめていた。
モカはその視線を辿る。
巫女服に千早と呼ばれる白い羽織ものを被り、花簪をつけた花枝が祭壇の前へゆっくり進み出ていく。
片手に扇、片手に神楽鈴を持ち、禰宜さんの笛に合わせてゆっくり、くるくると舞い始めた。

「これは、綺麗だなぁ…」

隣の浅緋が感心したように呟く。
長身の花枝が長い手足をしなやかに操り、衣と長い髪を翻し踊る姿は凛として美しく、その場にいる誰もが釘付けになっていた。
モカもその神秘的で華麗な舞に見惚れ、思わずため息をつく。
ふと視線を戻せば、蒼士が食い入るように花枝を見ていた。

モカはそれを見て改めて悟る。
ああ…これは敵わない。
縁結び以外の取り柄など持ち合わせない平凡な自分が、太刀打ちできるような相手ではない。
花枝は圧倒的な魅力と縁の紐で、蒼士の心を惹き付けていく。
本人達の意が追い付かぬままに、二人は結びつけられていく。
自分を媒介にして。
いや、既にモカは媒介ですら無いのだろう。
だって、二人は出会ってしまった。
これからのモカは傍観者でしかあり得ない。
彼らにとって、早々に背景になってしまう事だろう。


「蒼士さんってさ、サーフィンやるんだって、モカ一緒に見学にいかない?」

花枝が箱におみくじを追加しながらモカを誘った。

へぇ、サーフィンなんかするんだ、侍のくせに。
変なの、ふんどし締めて乗るのかな。

モカは紙垂をカッターで切りながら、くだらない想像をする。
そう言えば、蒼士のプライベートな部分って殆ど知らないな。

「うーん、そうだねぇ……」
「教えてくれるって、ねえ、どうよ」
「止めとく。海怖いし。そもそも土日はここのバイトがあるから行けなくない?」
「平日の早朝に行ってるみたいよ」
「朝弱いから起きれない。花枝ちゃん行ってきなよ」

花枝はモカの腕を掴む。

「一人なんて緊張するじゃん、一緒に行ってよ」

モカは懇願する花枝に驚く。
誰であろうと直ぐ打ち解けてしまう花枝がそんな風に緊張するなど珍しい。
それは、蒼士は特別だということで、つまり、そういう事なのだろう。
モカは花枝の中で芽生え始めている感情に確信を持つ。
しかし、二人の間を積極的に取り持つ事まではしたくない、そこまでは出来る気がしない。

「うーん、やっぱり興味ないから止めとく」
「…それは、蒼士さんに?」

花枝はモカをじっと見つめる。
そうか、花枝は探っているのだ。
モカの蒼士に対する気持ちを。
モカは何気ないふりを装って答えた。

「蒼士はただのバイト仲間だよ」

「おい、そろそろ行くぞ」

モカはハッとして顔を上げた。
蒼士が憮然とした表情で見下ろしていた。
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