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「これまでのことは黙っているように言い含めたけれど、逃亡先で話されでもしたら……」
お母様とお姉様はゴクリと唾を呑み込んだ。
じっとしていられなくなったお母様は、スカートを両手で持ち上げ、大股で扉に向かう。
「直ぐに連れ戻さなければ!」
「ええ……私たち3人で見つけ出せるかしら。お母様なんて走れもしないでしょう?木の枝につまづいて転んで骨でも折ったらどうするの?即寝たきりじゃないの。私は介護なんてできないからね」
ソファの背に身体を預け、お姉様がのんびりとした口調で言う。どうやら早くも開き直ったらしい。
「お前は面倒なだけでしょう?その巨体じゃ直ぐに息が上がってしまうものね!……ぶくぶく肥え太ってみっともない。縁談が来ないのも当たり前よ」
お姉様は頬の肉を揺らして憤った。
「私の美しさは少しばかりお肉がついたところで揺らがないわ!」
「お前の美しさのピークは13歳だったわ。それ以降は下り坂。成人するのを心待ちにしていたザクセン卿もガッカリしていらっしゃったわ。あの方に取り入れれば多額の融資が期待できたのに」
口を引き結び黙り込むお姉様。お母様はそんな娘を憎々しげに睨み付け、わざと聞かせるように大きな溜め息をつく。
「能無しの穀潰し。お前の餌代を稼ぐためにどんな苦労をしたかしれないわ」
期待していた娘が使い物にならないと気付いたお母様は、自分を商品にすると決めた。化粧品や怪しい薬を買い漁りアンチエイジングに没頭する。貴金属やドレスを集め、着飾って夜会に出掛けた。有望そうな男を片っ端から誘惑し寝所に連れ込むそのうちに、淫らな行為の虜になった。
「お母様は楽しんでいただけでしょ。社交界でなんて呼ばれているか知ってる?誰にでも股を開く狂い咲きの老い花ですって!私たちがどんな恥ずかしい思いをしているか知らないんでしょ!」
お母様は顔色を変え、お姉様に詰め寄る。右手を大きく振り上げ、パフスリーブが食い込む太い腕を打った。ボンボンと弾む音が部屋に鳴り響く。お母様の心情を嘲笑うかのような間抜けな音だった。
「二人とも止めて。こんなこと時間の無駄よ。こうしてる間にも刻一刻と破滅の瞬間が近付いているんだから」
動きを止めたお母様はヨロヨロとお姉様の隣に腰を下ろす。肘掛に腕を乗せ、疲れきったように上体を預けた。
「……だったら、どうすればいいというの?こんな良いお話を棒に振るなんて出来ないわ。これまで散々蔑んできた奴らを見返す千載一遇のチャンスなのに……!」
「アナスタシア、何かいい案がある?」
お姉様が縋るように私を見る。隣のお母様も顔を上げた。
お母様とお姉様はゴクリと唾を呑み込んだ。
じっとしていられなくなったお母様は、スカートを両手で持ち上げ、大股で扉に向かう。
「直ぐに連れ戻さなければ!」
「ええ……私たち3人で見つけ出せるかしら。お母様なんて走れもしないでしょう?木の枝につまづいて転んで骨でも折ったらどうするの?即寝たきりじゃないの。私は介護なんてできないからね」
ソファの背に身体を預け、お姉様がのんびりとした口調で言う。どうやら早くも開き直ったらしい。
「お前は面倒なだけでしょう?その巨体じゃ直ぐに息が上がってしまうものね!……ぶくぶく肥え太ってみっともない。縁談が来ないのも当たり前よ」
お姉様は頬の肉を揺らして憤った。
「私の美しさは少しばかりお肉がついたところで揺らがないわ!」
「お前の美しさのピークは13歳だったわ。それ以降は下り坂。成人するのを心待ちにしていたザクセン卿もガッカリしていらっしゃったわ。あの方に取り入れれば多額の融資が期待できたのに」
口を引き結び黙り込むお姉様。お母様はそんな娘を憎々しげに睨み付け、わざと聞かせるように大きな溜め息をつく。
「能無しの穀潰し。お前の餌代を稼ぐためにどんな苦労をしたかしれないわ」
期待していた娘が使い物にならないと気付いたお母様は、自分を商品にすると決めた。化粧品や怪しい薬を買い漁りアンチエイジングに没頭する。貴金属やドレスを集め、着飾って夜会に出掛けた。有望そうな男を片っ端から誘惑し寝所に連れ込むそのうちに、淫らな行為の虜になった。
「お母様は楽しんでいただけでしょ。社交界でなんて呼ばれているか知ってる?誰にでも股を開く狂い咲きの老い花ですって!私たちがどんな恥ずかしい思いをしているか知らないんでしょ!」
お母様は顔色を変え、お姉様に詰め寄る。右手を大きく振り上げ、パフスリーブが食い込む太い腕を打った。ボンボンと弾む音が部屋に鳴り響く。お母様の心情を嘲笑うかのような間抜けな音だった。
「二人とも止めて。こんなこと時間の無駄よ。こうしてる間にも刻一刻と破滅の瞬間が近付いているんだから」
動きを止めたお母様はヨロヨロとお姉様の隣に腰を下ろす。肘掛に腕を乗せ、疲れきったように上体を預けた。
「……だったら、どうすればいいというの?こんな良いお話を棒に振るなんて出来ないわ。これまで散々蔑んできた奴らを見返す千載一遇のチャンスなのに……!」
「アナスタシア、何かいい案がある?」
お姉様が縋るように私を見る。隣のお母様も顔を上げた。
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