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ポッコチーヌ様のお世話係
旅立つヴードゥの鳥①
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ゲルダは国境近くの宿場町で乗合馬車を降りた。町はやたらと人で溢れかえっている。よく見れば、身につけた民族服と褐色の肌からオクトパール人だと解った。
ゲルダは首を捻る。ここはオクトパールとは国を挟んで真逆の方向にある国スクウィラとの国境である。オクトパールとは国交が無く、難民の受け入れをしたという情報も聞いていない。
荷物を肩に掛け、辺りを見回しながら出国手続きの為に管理施設へ向かう。国境警備の騎士が走り回り、オクトパール人を誘導していた。ゲルダはそのひとりを捕まえ、訊ねる。
「ここにいるオクトパールの人達はスクウィラへ行くのですか?」
「いいや、スクウィラで和平交渉が行われるんだよ。その結果が知りたくて集まってる」
騎士は額の汗を拭いながら答えると、ゲルダの出で立ちを見て訊ねた。
「君は出国するのかい? 安心して、管理局は空いてるよ。直ぐに手続きをしてくれる」
ゲルダは礼を言うと、また歩き始める。騎士は笑顔で送り出してくれた。
「良い旅を! スクウィラは少しばかり寒いが綺麗な国だよ」
手を挙げて応えながら、ゲルダは苦笑いする。スクウィラには旅行に行く訳では無い。移住するのだ。
ニコライから手続きが整ったと知らされ、ゲルダは即日宿舎を出た。騎士を辞することは団内ではニコライしか知らぬ事であり、後の始末はすべてハナクソ神に押し付けてやった。
そして、徒歩と乗り合い馬車を利用して十日余り。漸く目当てのここに辿り着いた。
ゲルダは空を見上げる。雲ひとつない秋の空は高く澄んでいた。
ゲルダの人生に忘れられない思い出を刻んだニコライには感謝している。けれど、少しばかり恨んでもいる。苦労して掴んだ騎士の職を辞めることになったし、こうして国を出る羽目にもなった。
それになにより……
生涯一度きりしか経験しないような恋を失った。
あのような人に想われることも、出会うことも、この先無いだろう。
ゲルダは空を仰いだまま深呼吸をした。
とはいえ、後悔などしていない。
美貌の最強騎士を周りが埋もれさせる筈はない。
その鮮やかな活躍の噂は国境を越えて隣国へも届くだろう。
その度に空を見上げよう。悠々と飛ぶ白い鳥を想像するのだ。
いずれは、伴侶を得たとの知らせもあるかもしれない。その時は少しばかり胸は痛むだろうが、きっと祝福出来る。今のマクシミリアンが選ぶ人ならおそらく……。
そうやって物思いに耽けるゲルダの腕を、誰かが掴んだ。
ゲルダはその気配に視線を下げる。
手首を掴み、こちらを見上げる琥珀の瞳と目が合った。
ゲルダは首を捻る。ここはオクトパールとは国を挟んで真逆の方向にある国スクウィラとの国境である。オクトパールとは国交が無く、難民の受け入れをしたという情報も聞いていない。
荷物を肩に掛け、辺りを見回しながら出国手続きの為に管理施設へ向かう。国境警備の騎士が走り回り、オクトパール人を誘導していた。ゲルダはそのひとりを捕まえ、訊ねる。
「ここにいるオクトパールの人達はスクウィラへ行くのですか?」
「いいや、スクウィラで和平交渉が行われるんだよ。その結果が知りたくて集まってる」
騎士は額の汗を拭いながら答えると、ゲルダの出で立ちを見て訊ねた。
「君は出国するのかい? 安心して、管理局は空いてるよ。直ぐに手続きをしてくれる」
ゲルダは礼を言うと、また歩き始める。騎士は笑顔で送り出してくれた。
「良い旅を! スクウィラは少しばかり寒いが綺麗な国だよ」
手を挙げて応えながら、ゲルダは苦笑いする。スクウィラには旅行に行く訳では無い。移住するのだ。
ニコライから手続きが整ったと知らされ、ゲルダは即日宿舎を出た。騎士を辞することは団内ではニコライしか知らぬ事であり、後の始末はすべてハナクソ神に押し付けてやった。
そして、徒歩と乗り合い馬車を利用して十日余り。漸く目当てのここに辿り着いた。
ゲルダは空を見上げる。雲ひとつない秋の空は高く澄んでいた。
ゲルダの人生に忘れられない思い出を刻んだニコライには感謝している。けれど、少しばかり恨んでもいる。苦労して掴んだ騎士の職を辞めることになったし、こうして国を出る羽目にもなった。
それになにより……
生涯一度きりしか経験しないような恋を失った。
あのような人に想われることも、出会うことも、この先無いだろう。
ゲルダは空を仰いだまま深呼吸をした。
とはいえ、後悔などしていない。
美貌の最強騎士を周りが埋もれさせる筈はない。
その鮮やかな活躍の噂は国境を越えて隣国へも届くだろう。
その度に空を見上げよう。悠々と飛ぶ白い鳥を想像するのだ。
いずれは、伴侶を得たとの知らせもあるかもしれない。その時は少しばかり胸は痛むだろうが、きっと祝福出来る。今のマクシミリアンが選ぶ人ならおそらく……。
そうやって物思いに耽けるゲルダの腕を、誰かが掴んだ。
ゲルダはその気配に視線を下げる。
手首を掴み、こちらを見上げる琥珀の瞳と目が合った。
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