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2.南の国の王女-2

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基本的に妹には甘い兄だったが、いつまでたっても嫁ごうとしないカリーナには、いつからか良からぬ噂が囁かれるようになっていた。

噂の出所は予想がついたし、なんの根拠もないくだらないものだったので、カリーナはさほど気にしてはいなかったが、宰相や大臣からも忠告された兄はさすがに心配になったようだ。

小国の王女とはいえ、その婚姻には政治的な思惑や制約が少なからず絡むもの。

いずれは他国に嫁ぐことも覚悟はしていたが、なかなか踏み切れなかったのには理由がある。


「隠れ里」での仮初めの婚約者の存在だ。

彼は、不確かな未来に怯えていた幼いカリーナの支えであった。

常に側にあり、明るく純粋に彼女を慕ってくれたミルト。

偽りの姿に上手く立ち回れず、無口で無表情になりがちなカリーナを唯一笑顔にしてくれた。

つまり、初恋を忘れられなかったのだ。


カリーナは帰国後、こっそりとミルトのことを調べていた。

しかし、それは予想通り難航した。

「隠れ里」はその名の通り、要人が一定期間だけ隠れ住むことのできる場所である。

その存在を知るのは相当な身分のもののみに限られる。

村にいる間は、身分も名前も偽ること、村から出たら決して情報は漏らさぬことを約束させられる。

村に入るには、大金を支払わねばならないが、元より地図無くして村までたどり着ける者など不可能に近い辺境にあり、万が一侵入者があっても村人達によって徹底的に排除される。

そうやって長く成り立ってきた村なのである。

ミルトに関しては、高貴な身分であるということとおおよその年齢しか分からない上に、カリーナのように髪や瞳の色を薬品や魔術で変えている可能性もあるため、外見の情報も役に立たない。

そもそも、「隠れ里」に関する調査自体がタブーなのだ。


カリーナは積極的に他国を行き来する商人に会って話をした。

幾つもの国を渡り歩く商人は各国の内情にも精通している。

しかし、彼らにとっては情報も商品のひとつであるから、重要なことを聞き出すには一筋縄ではいかない。

そうして交渉力と独自の人脈を意図せず身に付けたカリーナは、『ジスペイン商会姫』などと色気のない渾名をつけられ、ジスペインの交易におおいに貢献し、それをやっかんだ貴族の一部から噂を立てられることになるのである。
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