14 / 95
6.迷惑なエスコート-1
しおりを挟む
カリーナは、このまま部屋に引きこもろうと思っていたが、部屋のテーブルの上に兄からのメッセージが記されたカードを見つけてしまった。
「紹介したい人物があるので、必ず園遊会に戻るように」
……婚活かー。
カリーナはうんざりしながら汚れたベールを椅子に掛けて、ドレスを緩めながらクローゼットに向かった。
カリーナは自ら手早く着替えた。
侍女は連れて来ていない。
あの里での生活で大概の事は1人でできるようになっていたし、使用人も最小限の小国の王宮において身重の王妃の側を手薄にすることも憚られたのだ。
厚みのあるレースのペチコートに淡い黄色のドレスを合わせて裾を整える。
下ろしていた髪を緩く纏めると、ベールを被りドレスと同系色の花飾りのピンで止めた。
少しメイクを直して、鏡の前でくるくる回ってチェックする。
気は進まないが、腐っても王女である。国の代表として恥ずかしい格好は出来ない。
深呼吸して、気合いを入れて扉を開けた。
扉を開けた瞬間、壁に寄りかかっていたアルフレッドの姿が目に入った。
アルフレッドはカリーナを見ると、背筋を伸ばしてまたもや手を差し出してきた。
「もしかして、ずっと待っていたの?」
カリーナは呆れながらもその手を取った。
「当然です。僕は姫のエスコートを仰せつかったのですから」
「貴方のように見目麗しい騎士様と居たら私なんて引き立て役じゃないの」
アルフレッドはキョトンとした顔をしてカリーナを見た。
「まさか、貴女の美しさには誰も敵いません。貴女ほどの方を、園遊会などという野獣の巣窟に1人で行かせるなんて出来る訳がない。私が命を掛けてお守りします」
冗談を言っているようでもないから、アルフレッドは美の基準がどうにかなっているんだろう。
毎日整った自分の顔を鏡で見るうちに少しずつずれていったのかも。
カリーナの見た目は特に目立ちもしないせいぜい十人並みだ。
身内からは「親しみやすい」とは言われるが、誉め言葉かどうかは微妙である。
まあ、公の場ではベールを着けているので素顔は滅多に晒すことはないのだが。
アルフレッドは高官で、しかもまだ独身だという。
利用価値がなく、特に美しくもない小国の王女より、よっぽど人が群がりそうだ。
特にご婦人が。
「わかったわ。兄がどなたかお知り合いを紹介して下さるようなので、兄のところまでエスコートしていただける?」
アルフレッドは頷いた。
「ジスペイン国王といえばたいへんな愛妻家であるときいています。今回の式典にもてっきり奥様を同伴されると思っていました」
愛妻家で有名なのか…。
確かに間違いではないけども、身内としてはもっとこう政策とか外交とかで有名になって欲しいわよね。
「王妃が今臨月なの。初産なので無理はさせられないということで、急遽私が同伴したのよ。兄も心配でたまらないようなので、明日の式典が終わったら翌日朝にはお暇するつもりなの」
アルフレッドはピタリと歩みを止めてしまった。
「明後日には国にお帰りになる…と?」
「そうよ」
他の招待国の来賓は、明後日の夜に行われる舞踏会に出席した後、城下町の祭を見学するなどして5~7日間滞在するようだが、兄もカリーナも早々に帰国するという点では当初から意見が一致していた。
カリーナとて初恋を吹っ切るために来たのであって、失恋した相手の身近にいつまでも居たくはなかった。
「アルフレッド様、どうしたの?」
動こうとしないアルフレッドを見上げると、右手で口を覆って何事か真剣に思案しているようだ。
再度、声を掛けてやっと我に返ったアルフレッドは、愛想笑いをしてから歩みを再開した。
「紹介したい人物があるので、必ず園遊会に戻るように」
……婚活かー。
カリーナはうんざりしながら汚れたベールを椅子に掛けて、ドレスを緩めながらクローゼットに向かった。
カリーナは自ら手早く着替えた。
侍女は連れて来ていない。
あの里での生活で大概の事は1人でできるようになっていたし、使用人も最小限の小国の王宮において身重の王妃の側を手薄にすることも憚られたのだ。
厚みのあるレースのペチコートに淡い黄色のドレスを合わせて裾を整える。
下ろしていた髪を緩く纏めると、ベールを被りドレスと同系色の花飾りのピンで止めた。
少しメイクを直して、鏡の前でくるくる回ってチェックする。
気は進まないが、腐っても王女である。国の代表として恥ずかしい格好は出来ない。
深呼吸して、気合いを入れて扉を開けた。
扉を開けた瞬間、壁に寄りかかっていたアルフレッドの姿が目に入った。
アルフレッドはカリーナを見ると、背筋を伸ばしてまたもや手を差し出してきた。
「もしかして、ずっと待っていたの?」
カリーナは呆れながらもその手を取った。
「当然です。僕は姫のエスコートを仰せつかったのですから」
「貴方のように見目麗しい騎士様と居たら私なんて引き立て役じゃないの」
アルフレッドはキョトンとした顔をしてカリーナを見た。
「まさか、貴女の美しさには誰も敵いません。貴女ほどの方を、園遊会などという野獣の巣窟に1人で行かせるなんて出来る訳がない。私が命を掛けてお守りします」
冗談を言っているようでもないから、アルフレッドは美の基準がどうにかなっているんだろう。
毎日整った自分の顔を鏡で見るうちに少しずつずれていったのかも。
カリーナの見た目は特に目立ちもしないせいぜい十人並みだ。
身内からは「親しみやすい」とは言われるが、誉め言葉かどうかは微妙である。
まあ、公の場ではベールを着けているので素顔は滅多に晒すことはないのだが。
アルフレッドは高官で、しかもまだ独身だという。
利用価値がなく、特に美しくもない小国の王女より、よっぽど人が群がりそうだ。
特にご婦人が。
「わかったわ。兄がどなたかお知り合いを紹介して下さるようなので、兄のところまでエスコートしていただける?」
アルフレッドは頷いた。
「ジスペイン国王といえばたいへんな愛妻家であるときいています。今回の式典にもてっきり奥様を同伴されると思っていました」
愛妻家で有名なのか…。
確かに間違いではないけども、身内としてはもっとこう政策とか外交とかで有名になって欲しいわよね。
「王妃が今臨月なの。初産なので無理はさせられないということで、急遽私が同伴したのよ。兄も心配でたまらないようなので、明日の式典が終わったら翌日朝にはお暇するつもりなの」
アルフレッドはピタリと歩みを止めてしまった。
「明後日には国にお帰りになる…と?」
「そうよ」
他の招待国の来賓は、明後日の夜に行われる舞踏会に出席した後、城下町の祭を見学するなどして5~7日間滞在するようだが、兄もカリーナも早々に帰国するという点では当初から意見が一致していた。
カリーナとて初恋を吹っ切るために来たのであって、失恋した相手の身近にいつまでも居たくはなかった。
「アルフレッド様、どうしたの?」
動こうとしないアルフレッドを見上げると、右手で口を覆って何事か真剣に思案しているようだ。
再度、声を掛けてやっと我に返ったアルフレッドは、愛想笑いをしてから歩みを再開した。
3
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる