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11.舞踏会-4
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「ちょっと!聞いてらっしゃるの!」
背後から響いてきたキンキン声に驚いてゆっくり振り向くと、きらびやかに着飾った令嬢らが6人ばかし、ひときわ豪奢な装いの令嬢を中心に並んでいた。
ああ、ついに来たか。
アルフレッドが側を離れる瞬間を虎視眈々と狙っていたのだ。
大国の令嬢だけあって尊大な態度だ。
羽付の彩りの扇子で口元を隠して、それぞれに見下すような視線を向けてくる。
さりとて、カリーナとて一国の王女である。
へりくだる必要などない。
「何かありまして?」
すると、リーダー格の令嬢が一歩前に出て答えた。
「どちらの未開の国のご出身の方か知りませんけど、我がガルシア国にきて間もない方が、何故バイオレット閣下のエスコートを受けておいでになるのかしら?」
回りくどいなあ。
「まあ、私、おっしゃる通りこちらに数日前に来たばかりですので、わかりませんの。バイオレット閣下にエスコートしていただくのはいけませんの?」
令嬢らは扇子をバッサバッサさせながら、口々に高い声でカリーナに向かって抗議し始めた。
「当然ですわ!閣下は騎士団の神剣、すなわち我国の宝です。隣に並ばれる方はそれ相応の方でないとなりません!」
「大方、同盟国の笠にきて、強要されたのでしょう。浅ましい」
「揃いのピアスなど直ぐに用意出来るものではありませんわ。自国でこっそり造らせていたのじゃなくて?」
「ということは、閣下の事を以前から狙っていたということ?嫌だ怖いわ」
妄想も甚だしいな。
カリーナはやれやれと立ち上がり胸を張って令嬢らに対峙した。
カリーナは女性にしては少し長身な上に、ドレスに合わせてヒール付のダンスシューズを履いている。
すなわち、一転してカリーナが見下ろす構図になった。
令嬢らは怯んだ表情で一歩後退った。
「大国の常識は良くわかりませんけれど、気になるのなら閣下に直接お聞きになれば宜しいんじゃありません?その様子では、わたくしが何を言ったところで信じては貰えないようですし」
ふと見ると、遠くでアルフレッドが令嬢らにすがりつかれているのが目に入った。
両手にグラスを持っているので、うまく振り切れないようだ。
二手に分かれ、片方は足止めをするという計画か。
かなりの数の会員がいるようだなアルフレッド親衛隊、恐るべし。
カリーナは腕を組み、顎をそらせた。
「申し上げますわ。バイオレット閣下を私のエスコート役に任命されたのは、ガルシア国王です。その真意などわたくしには計り知れないこと、尋ねることも畏れ多いことです。それを邪推して根拠のないお話をされることは陛下への不敬に当たりませんの? 不用意な発言はお控えになった方が宜しいのではないかしら」
令嬢達は明らかに動揺しはじめたが、中央のリーダー格の令嬢は、果敢にも言い返した。
「そ、それこそ貴女の狂言ですわ!」
「ほお、私のパートナーを嘘つき呼ばわりとは。どういった了見でしょうか」
令嬢達の後ろから絶対零度の瞳で見下ろす男が現れた。
取り巻き達はサーッと青ざめ下を向いた。
しかし、1人息巻いていた令嬢は、瞬時に清楚な少女を装って、アルフレッドを下から可愛らしく見上げてみせた。
「閣下、私は我が国のマナーについてお話していただけなのです。それなのにこの方が責められていると勘違いなさって…」
カリーナは呆れを通り越して、感心していた。
変わり身の早さとスラスラ出てくる虚言、かなり優秀だ。
是非とも他の分野で活躍してほしい。
「今夜は国内外の来賓がいらっしゃっていることですし、少し控えめになさった方がよろしいと……」
「貴女が控えて下さい」
アルフレッドは被せぎみに会話をぶった切った。
なおも諦めない令嬢は、アルフレッドの腕に手を伸ばした。
「閣下、お願いがありますの。一度だけ私とダンスを…」
「今宵はパートナー以外と踊る予定はありません」
アルフレッドは無情にも令嬢の腕を振り払い、斜め上から無表情に見下ろし、抑揚のない声で続ける。
「邪魔しないで頂けますか。パートナーとの大切な時間を削られてたいへん不愉快です。二度と話し掛けないでいただきたい」
ぶるぶる震えながら踵を返す令嬢の後を取り巻きがぞろぞろ付いていくのをカリーナは見送った。
「さすがアイスブルーの騎士。そして、さすがはその親衛隊」
アルフレッドはカリーナにグラスを渡すと、隣に腰かけ、溜め息を付いた。
「いや、もう本当に迷惑だから」
アルフレッドは、カリーナの左手を握った。
「酷いことを言われなかった?守れなくてごめん。あれだけ言っておいて不甲斐ないよ」
カリーナは首を振った。
私の反論など可愛らしいものだった。
アイスブルーの騎士に比較すれば。
背後から響いてきたキンキン声に驚いてゆっくり振り向くと、きらびやかに着飾った令嬢らが6人ばかし、ひときわ豪奢な装いの令嬢を中心に並んでいた。
ああ、ついに来たか。
アルフレッドが側を離れる瞬間を虎視眈々と狙っていたのだ。
大国の令嬢だけあって尊大な態度だ。
羽付の彩りの扇子で口元を隠して、それぞれに見下すような視線を向けてくる。
さりとて、カリーナとて一国の王女である。
へりくだる必要などない。
「何かありまして?」
すると、リーダー格の令嬢が一歩前に出て答えた。
「どちらの未開の国のご出身の方か知りませんけど、我がガルシア国にきて間もない方が、何故バイオレット閣下のエスコートを受けておいでになるのかしら?」
回りくどいなあ。
「まあ、私、おっしゃる通りこちらに数日前に来たばかりですので、わかりませんの。バイオレット閣下にエスコートしていただくのはいけませんの?」
令嬢らは扇子をバッサバッサさせながら、口々に高い声でカリーナに向かって抗議し始めた。
「当然ですわ!閣下は騎士団の神剣、すなわち我国の宝です。隣に並ばれる方はそれ相応の方でないとなりません!」
「大方、同盟国の笠にきて、強要されたのでしょう。浅ましい」
「揃いのピアスなど直ぐに用意出来るものではありませんわ。自国でこっそり造らせていたのじゃなくて?」
「ということは、閣下の事を以前から狙っていたということ?嫌だ怖いわ」
妄想も甚だしいな。
カリーナはやれやれと立ち上がり胸を張って令嬢らに対峙した。
カリーナは女性にしては少し長身な上に、ドレスに合わせてヒール付のダンスシューズを履いている。
すなわち、一転してカリーナが見下ろす構図になった。
令嬢らは怯んだ表情で一歩後退った。
「大国の常識は良くわかりませんけれど、気になるのなら閣下に直接お聞きになれば宜しいんじゃありません?その様子では、わたくしが何を言ったところで信じては貰えないようですし」
ふと見ると、遠くでアルフレッドが令嬢らにすがりつかれているのが目に入った。
両手にグラスを持っているので、うまく振り切れないようだ。
二手に分かれ、片方は足止めをするという計画か。
かなりの数の会員がいるようだなアルフレッド親衛隊、恐るべし。
カリーナは腕を組み、顎をそらせた。
「申し上げますわ。バイオレット閣下を私のエスコート役に任命されたのは、ガルシア国王です。その真意などわたくしには計り知れないこと、尋ねることも畏れ多いことです。それを邪推して根拠のないお話をされることは陛下への不敬に当たりませんの? 不用意な発言はお控えになった方が宜しいのではないかしら」
令嬢達は明らかに動揺しはじめたが、中央のリーダー格の令嬢は、果敢にも言い返した。
「そ、それこそ貴女の狂言ですわ!」
「ほお、私のパートナーを嘘つき呼ばわりとは。どういった了見でしょうか」
令嬢達の後ろから絶対零度の瞳で見下ろす男が現れた。
取り巻き達はサーッと青ざめ下を向いた。
しかし、1人息巻いていた令嬢は、瞬時に清楚な少女を装って、アルフレッドを下から可愛らしく見上げてみせた。
「閣下、私は我が国のマナーについてお話していただけなのです。それなのにこの方が責められていると勘違いなさって…」
カリーナは呆れを通り越して、感心していた。
変わり身の早さとスラスラ出てくる虚言、かなり優秀だ。
是非とも他の分野で活躍してほしい。
「今夜は国内外の来賓がいらっしゃっていることですし、少し控えめになさった方がよろしいと……」
「貴女が控えて下さい」
アルフレッドは被せぎみに会話をぶった切った。
なおも諦めない令嬢は、アルフレッドの腕に手を伸ばした。
「閣下、お願いがありますの。一度だけ私とダンスを…」
「今宵はパートナー以外と踊る予定はありません」
アルフレッドは無情にも令嬢の腕を振り払い、斜め上から無表情に見下ろし、抑揚のない声で続ける。
「邪魔しないで頂けますか。パートナーとの大切な時間を削られてたいへん不愉快です。二度と話し掛けないでいただきたい」
ぶるぶる震えながら踵を返す令嬢の後を取り巻きがぞろぞろ付いていくのをカリーナは見送った。
「さすがアイスブルーの騎士。そして、さすがはその親衛隊」
アルフレッドはカリーナにグラスを渡すと、隣に腰かけ、溜め息を付いた。
「いや、もう本当に迷惑だから」
アルフレッドは、カリーナの左手を握った。
「酷いことを言われなかった?守れなくてごめん。あれだけ言っておいて不甲斐ないよ」
カリーナは首を振った。
私の反論など可愛らしいものだった。
アイスブルーの騎士に比較すれば。
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