上 下
31 / 95

12.ダンスダンス-1

しおりを挟む
少し落ち込んでいる隣の男に声をかけた。

「あの、せっかくだから一曲踊る?」

気持ちは疲れているが、身体を動かせば気分転換になるかもしれない。
実を言えばダンスは余り自信がない。
一通りはマナーとして学んだが、実践経験がほとんどないのだ。

「出席した手前、一曲は踊った方が良いと思うけど…カリーナは大丈夫なの?」
「少なくともダンスをしている間は、呼び止められないわよね。といっても自信はないから、失敗しそうになったら、魔術で何とかしてよ」

カリーナは人差し指をくるくる回した。

「そんな使い方をしたことないなぁ」

アルフレッドは苦笑いした。
もちろんカリーナも冗談のつもりだった。


アルフレッドとのダンスは思いの外楽しかった。他のペアらが大人しく身体を揺らしている傍らで、アルフレッドはカリーナを独楽を回すが如く、くるくるターンさせた。
一回やったところ、カリーナが面白がってねだったのだ。
そんなわけで当然の如く周囲の注目を浴びているのだが、ダンスに集中しているカリーナは全く気にならなかった。
カリーナのベールとドレスがターンする度に揺れる。
表情はベールではっきり見えないが、羽のように軽くステップを踏む異国の姫君は明らかに楽しそうで、見ているこっちまで笑顔になるほどなのだが、隣で姿勢も表情も崩さず姫を回し続ける騎士が異様に怖い。
曲の終盤に差し掛かった時、アルフレッドはカリーナを空中に放り投げた。
周囲から驚いた声や悲鳴が上がる。
カリーナは驚く間もなく身体を空中でクルクル回転させられ、3回転したところでスポッとアルフレッドの腕に収まった。
大歓声が鳴り響く中で、何が起きたのかわからないカリーナは呆けていた。

アルフレッドはカリーナを抱えたまま、猛スピードで走りだした。


階段を駆け上がり、着いたのは人気の無い宮殿の展望台だった。
アルフレッドはカリーナの腰を掴んで、そっと地面に下ろした。

「本当にやるとは思わなかった」

カリーナは目の前の男を見上げ、堪えきれずに吹き出した。

「君がやれって言ったんじゃないか」

アルフレッドは少し乱れた呼吸を整えながら嘯いている。
カリーナはひとしきり笑った後、その場でクルクル回り出した。

「あー、でも楽しかったな。あんなダンス初めて」

アルフレッドは手摺に凭れてその様子を眺めている。

「大誤算だよ。あんなに注目を集める予定じゃなかった」

カリーナは回転を止めてアルフレッドを見た。

「確かにまたご令嬢達の恨みを買ったかもしれないけど、私は良い思い出が出来て満足よ。こんなダンス、アルフレッドとじゃなきゃ二度と出来ないわ」

途端、急に吹いてきた風に背中を押されて運ばれた。
一回転して気付けば、再びアルフレッドの腕の中で背後から抱き締められていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

BL / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:240

同期の姫は、あなどれない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:803pt お気に入り:18

【R18】私の担当は、永遠にリア恋です!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:376

離縁するので構いません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:92,819pt お気に入り:1,155

穢された令嬢は元婚約者の心をゴリゴリ削る

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,572

僕の番が怖すぎる。〜旦那様は神様です!〜

msg
BL / 連載中 24h.ポイント:454pt お気に入り:385

【完結】あなたは優しい嘘を吐いた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:582pt お気に入り:571

9歳の彼を9年後に私の夫にするために私がするべきこと

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,437pt お気に入り:103

処理中です...