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12.ダンスダンス-2

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「魔術乱用し過ぎじゃない?」

カリーナは抜け出そうとしたが、アルフレッドは離さない。

「何度だって踊れるよ。君が僕の側に居てくれるんならね」

カリーナは黙った。
アルフレッドが真剣に自分を好いてくれている事はもうわかっている。
強引なやり方でカリーナを留めたことには腹が立ったが、自分は何故、あの時はっきりと拒めなかったのか。

(だって…)

「思い出にしないでくれ」

背後から聞こえた懇願するような声にカリーナの胸はひどく疼き、思わず胸を押さえた。
呼吸がくるしい。

だって…私は商人に嫁ぐんだもの。
…もう、長く誰かを想い続けるのはつらくて嫌なんだもの。

自分でも気付かなかった本音が顔を出して、カリーナは戸惑った。

「会えなくなれば、忘れるわ」

そう、人の気持ちは変わるのだ。
そうやって変わっていかなければ先に進めない。
ミルトだってカレンを思い出にしたから、運命の人と出会えたのだ。
アルフレッドはさらに強く抱く締め、カリーナの頭に顔をすり寄せて答えた。

「僕は絶対忘れない。しつこくて諦めが悪いのは自分でも良くわかってる」

髪に触れるアルフレッドの熱と回された腕の強さがカリーナを追い詰めていく。
アルフレッドは言葉を継いだ。

「それに、僕は知っている。君が僕の運命だと。ずっと前から」

ずっと前から?カリーナはアルフレッドの抱擁に身を任せながら考える。
ほんの4日前に会ったばかりでお互い初対面だったはずよね…?
その時、突然上がったバチバチという爆発音によってカリーナの思考は遮られた。
カリーナはアルフレッドの腕を掴んで後方上に振り向いた。

「なに!?今の音!」

そして、すぐそこにアルフレッドの鼻先があったのでそっちにも驚いた。
固まるカリーナに、アルフレッドは目を細め、口角を上げてカリーナを見つめた。
いつの間にか、身体に回されていた右腕は、カリーナの後頭部に移動している。
カリーナは少し仰け反るが、アルフレッドはそれを許さない。
そして、頬に唇が当たるような距離で囁いた。

「下を見てご覧」

カリーナはゆるゆると視線を左下に向けた。
再び聞こえて来た音と同時に黄金色の火花が勢い良く散っている。
身をのりだして見入るカリーナにアルフレッドは説明した。

「爆竹だよ。城下町の前夜祭は今からが本番だ。これから町民達のダンスが始まるんだ」

手摺を掴むカリーナを囲むように両側にアルフレッドの手が置かれる。
休む間も無く打ち上げられる爆竹の音と爆せる光。
吹き上げるぬるい風が火薬の匂いを運び、カリーナのベールを揺らした。
爆竹の光が消えると、階下に広がる城下町を色とりどりのランプの光が照らしている光景が浮かび上がって見えてきた。
一際明るく、人が集まっている場所がダンスが催される広場だろうか。
カリーナは幻想的な夜の風景を飽くことなく見詰めていた。
ガルシア国にきて数日しか経ってないのに、たくさんの風景を見た。
そして、いつも側にいたのは、夜空のようなネイビーブルーの瞳の騎士。
見上げると星空が広がっていた。
カリーナは何故だか泣きたい気持ちになってきた。
あの頃いつも隣にいた少年を思い出す。
そう、その体温と安心感と少しの切ない気持ちの欠片。
今と、とても似ている、と思った。
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