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13.偽装魔道騎士-3
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近くから怒号が聞こえて、カリーナの思考は遮られた。
どうやら屋台で客同士が揉めているらしい。
2人の男が取っ組み合っている。
キースはやれやれといった表情だ。
「面倒くさいことになってるようなんで、ちょっと行ってきますわ。姫はここを動かないで下さいね」
カリーナは頷いた。
キースは颯爽と屋台に向かっていった。
カリーナは、なかなか解決しない喧嘩を見守っていたが、大通りから聞こえる拍手と歓声に視線をパレードに移した。
張りぼてが通りすぎて、聖人の扮装をした子供達の行列が続いてやってきた。
星の錫杖を掲げて、聖人を讃える歌を歌っている。
沿道からほのぼのとした空気が漂ってきた。
その時、突如腕を掴まれた。
カリーナが驚いて左腕を見ると、若い娘が真っ青な顔ですがり付いている。
「た、助けて下さい。騎士様!」
カリーナは慌てた。
自分は偽の騎士なのだ。
しかし、娘はぐいぐいカリーナを引っ張っていく。
キースに伝えようと思ったが、男達の小競り合いはまだ続いているらしく、キースが間に入って両側の男達を引き剥がしているのが見えた。
娘に引っ張られながら、手を懸命に振ってみたが、キースは気付かない。
(まずい…何処かに騎士はいないの)
応援を頼もうと騎士の姿を探すが、人が多すぎて見付けられない。
娘は雑踏を掻い潜り、細い路地を曲がり、どんどん進んで行く。
そして、路地の抜け口手前で急停止し、片側の壁に貼り付いて、右前方を指差した。
緑の屋根の家屋の前で、男が女性を羽交い締めにして刃物を突きつけているのが見えた。
近所の人達だろうか5~6人ほど遠巻きに心配そうに見ている。
「貴女のご家族ですか?」
カリーナが尋ねると、娘は頷き、声を震わせて答えた。
「母です」
男にも面識があるという。
以前からしつこく言い寄られていたのだが、この度、別の男性との縁談が決まり、それをどこかで聞きつけて押し掛けてきたらしい。
母親は娘を裏口から逃がし、逆上した男に捕まった。男が叫んでいるのは娘の名前だろう。
(どうしよう)
カリーナは考える。
カリーナは武器も拘束具も持っていない。
説得を試みて誰か他の騎士が来るまで時間を稼ぐか…
しかし、失敗して暴れられたら為す術がない。
魔術を使えないことを周囲に知られれば、騎士団の名を落とすことにも繋がりかねない。
カリーナは、何か無いか懐を探ってみる。
そこで、閃いた。
上手く行くかわからないが、やるしかない。
「実は私はまだ見習いの魔道騎士で、単独行動は禁止されているの。申し訳ないけど貴女は他の騎士を呼んできてもらえるかしら」
娘は不安そうに頷いた。
「大丈夫。絶対に貴女のお母様は傷つけさせないわ」
娘の手を両手で握って眼を会わせた。
娘はもう一度頷いて、路地を走って戻っていく。
カリーナは、その後ろ姿を暫し見送った後、辺りを観察し始めた。
どうやら屋台で客同士が揉めているらしい。
2人の男が取っ組み合っている。
キースはやれやれといった表情だ。
「面倒くさいことになってるようなんで、ちょっと行ってきますわ。姫はここを動かないで下さいね」
カリーナは頷いた。
キースは颯爽と屋台に向かっていった。
カリーナは、なかなか解決しない喧嘩を見守っていたが、大通りから聞こえる拍手と歓声に視線をパレードに移した。
張りぼてが通りすぎて、聖人の扮装をした子供達の行列が続いてやってきた。
星の錫杖を掲げて、聖人を讃える歌を歌っている。
沿道からほのぼのとした空気が漂ってきた。
その時、突如腕を掴まれた。
カリーナが驚いて左腕を見ると、若い娘が真っ青な顔ですがり付いている。
「た、助けて下さい。騎士様!」
カリーナは慌てた。
自分は偽の騎士なのだ。
しかし、娘はぐいぐいカリーナを引っ張っていく。
キースに伝えようと思ったが、男達の小競り合いはまだ続いているらしく、キースが間に入って両側の男達を引き剥がしているのが見えた。
娘に引っ張られながら、手を懸命に振ってみたが、キースは気付かない。
(まずい…何処かに騎士はいないの)
応援を頼もうと騎士の姿を探すが、人が多すぎて見付けられない。
娘は雑踏を掻い潜り、細い路地を曲がり、どんどん進んで行く。
そして、路地の抜け口手前で急停止し、片側の壁に貼り付いて、右前方を指差した。
緑の屋根の家屋の前で、男が女性を羽交い締めにして刃物を突きつけているのが見えた。
近所の人達だろうか5~6人ほど遠巻きに心配そうに見ている。
「貴女のご家族ですか?」
カリーナが尋ねると、娘は頷き、声を震わせて答えた。
「母です」
男にも面識があるという。
以前からしつこく言い寄られていたのだが、この度、別の男性との縁談が決まり、それをどこかで聞きつけて押し掛けてきたらしい。
母親は娘を裏口から逃がし、逆上した男に捕まった。男が叫んでいるのは娘の名前だろう。
(どうしよう)
カリーナは考える。
カリーナは武器も拘束具も持っていない。
説得を試みて誰か他の騎士が来るまで時間を稼ぐか…
しかし、失敗して暴れられたら為す術がない。
魔術を使えないことを周囲に知られれば、騎士団の名を落とすことにも繋がりかねない。
カリーナは、何か無いか懐を探ってみる。
そこで、閃いた。
上手く行くかわからないが、やるしかない。
「実は私はまだ見習いの魔道騎士で、単独行動は禁止されているの。申し訳ないけど貴女は他の騎士を呼んできてもらえるかしら」
娘は不安そうに頷いた。
「大丈夫。絶対に貴女のお母様は傷つけさせないわ」
娘の手を両手で握って眼を会わせた。
娘はもう一度頷いて、路地を走って戻っていく。
カリーナは、その後ろ姿を暫し見送った後、辺りを観察し始めた。
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