星の誓い〜異国の姫はアイスブルーの騎士に溺愛される〜

すなぎ もりこ

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16.愛情と対価-3

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急遽用意してもらった騎士団御用達レストランの個室で、3人がテーブルを囲んでいる。
ジスペイン王女とガルシア王国騎士団副団長、そして、プール帝国の外交大臣という豪華な顔触れだ。
緊張感が漂う空気の中、カリーナの正面座っているマルコが目を細めて魅惑的に笑いかけた。

「カリーナ姫のお顔を拝見出来て光栄です。たいへんお可愛らしい」

隣に座るアルフレッドのこめかみに青筋がたつのを目の端に捉えた。
カリーナはなるべく事を荒立てないよう、淡々と言葉を返した。

「お世辞は結構ですわ。女性の私より貴殿方の方がよほどお美しいではないですか。女性達の視線が釘付けでしたわよ」
「へぇ、全く気になりませんでした。私は貴女しか見ていなかったので」

アルフレッドが舌打ちして呟く。

「…気障な男だ」

カリーナはマルコの発言を無視して話を続ける事にした。
この居心地の悪い場所からさっさと退散したい。

「お気付きだと思いますが、今日はお忍びで祭に参加しておりますの。バイオレット殿に無理を言って連れ出してもらったんです。ですから、マルコ殿が見聞きした事は内密にお願いしますね」

マルコは、ニッコリ笑う。

「承知しました。だけど、条件があります」

カリーナはうんざりした。
この男がすんなり「うん」と言うはずはないと思っていた。
あの場に居たことさえ偶然ではないかもしれない。
アルフレッドは憮然と言い放つ。

「無粋なお方ですね。王女の楽しい時間に水を差すおつもりか」

マルコはアルフレッドに一切視線を向けず、カリーナだけを見つめる。

「水を差したと思うかどうかはカリーナ姫に判断していただければ良いでしょう。カリーナ姫、これから暫くのお時間をご一緒出来ませんか?」
「許可できません」
「貴方にカリーナ姫の行動を決める権利がお有りなんですか?」
「国王よりエスコート役を任命されております。カリーナ姫に何かあったらどう責任をとられるおつもりか」
「貴方ほどではないかもしれないが、私とて軍の出身ですから、姫をお守りすることは出来ます。仮にも王国騎士団の目下であるガルシアの城下町で何が起ころうというのです?」

再び火花を散らす美形2人。
こうなるともうカリーナはそっちのけである。

「そもそも貴方の行動はエスコート役を逸している。あのように囲い込む必要があるのだろうか。カリーナ姫は、もっと他の来賓とも交流を深めるべきだ」
「お預かりしている大切なお方ですので、おかしな虫がつかないようにお守りしているだけですが?」
「青いですな。バイオレット殿」

マルコは顎をあげ、笑みを浮かべてアルフレッドを挑発的に見た。

「大事に真綿に包んで、恋情の檻に閉じ込めては、小鳥は輝けない」

アルフレッドは拳を握ってマルコを睨んでいる。

「鳥は自由に空を羽ばたくもの。その根城となる愛もあることを知るべきですね。貴方は姫に何を与えられるのです?」

アルフレッドは、絞り出すようにマルコに問いかけた。

「貴方は姫が望むものを与えられるというのか」
マルコは自信ありげに微笑む。
「ええ。そう確信しています」

見てられない。

「もう、お止めください」

カリーナの静止の言葉にマルコはこちらを向いたが、アルフレッドは真正面を睨んだままである。

「マルコ殿、城外での行動は控えましょう。来賓としてガルシア王国にご迷惑をお掛けしてはならないので、ここは弁えるべきでしょう。今夜のディナーを共に取らせていただいても?」
「お誘いいただけて光栄です。カリーナ姫の仰せのままに」

マルコはカリーナの手を取ると口付けた。
アルフレッドはピクと反応したが、制止はしない。

「それでは夕刻、侍従に迎えに行かせます。楽しみにしています姫」

マルコは颯爽と部屋を去り、黙り込むアルフレッドと2人残された。
カリーナは、恐る恐るアルフレッドに声を掛ける。

「噂通りの食えないお方だったわね」

アルフレッドは言葉を発さず、いきなり立ち上がった。

「悪いけど、今日はこれで失礼するよ。この後の護衛は他の者に頼んでおく。呼んでくるのでここで待っていて」

カリーナは唖然として部屋を出ていくアルフレッドを見送った。
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