星の誓い〜異国の姫はアイスブルーの騎士に溺愛される〜

すなぎ もりこ

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21.諦めるな-2

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「ちょっ、マルコ殿、何を…」

言いかけたところで、今度は後方に引っ張られて背後から抱き込まれた。

「何をしているんです?」

聞き慣れた絶対零度の声が頭上から降ってきた。

「君こそ、姫とのせっかくの時間を邪魔するなど無粋ではないですか?」

マルコは肩肘をつき、笑いながらカリーナの背後を見ている。

「貴方が無理矢理引き寄せたように見えましたが」
「その前に、ノックも無しに部屋に入る行為がマナー違反だろう?」

カリーナは顔を上げて、マルコを見た。

マルコはカリーナの視線に気付くと、苦笑いし、席を立った。

「ちょっとした意地悪ですよ。これくらい許してください」

カリーナは去っていくマルコの背中に向かい、声を掛けた。

「マルコ殿!ありがとうございました。また、きっとお会いしましょう」

マルコは振り返り、胸に手を当てて優雅に礼をした。

ドアの閉まる音が部屋に響いた。



カリーナは、胸の下で組まれた手を外し、後ろを振り返った。
3日ぶりに見るその顔は、心なしかやつれているようだ。
視線を反らして少し項垂れている、その頬に思わず手を伸ばした。

「アルフレッド、何だか疲れているようだけど、大丈夫?」

触れると、えも知れない感情が胸に込み上げてきた。
ほんの3日会わないだけなのに、何故こんなに心が震えるのだろう?
アルフレッドは、カリーナの手を握ると、目を閉じて呼吸を整えた後、口を開いた。

「マルコ殿との縁談を受けるの?」

少し声が震えている。
カリーナは慌てて否定した。

「たった今、お断りしたところだったのよ!」

アルフレッドはカリーナをがばと抱き締め、その肩に額を付けて深呼吸をした。

「はぁ…良かった。…心臓が止まりそうだよ」

カリーナは落ち着かせるように、大きな背中をとんとんと叩いた。
こうやって慰めるのは、城下町で大立まわりを演じた以来2回目だなぁ。
こんなに感情豊かな人が、冷静沈着でアイスブルーの異名を持つ騎士だなんて信じられない。

(可愛いなぁ)

カリーナは思わずにやけてしまう。
自分に対してだけ、こんな風に甘えるのかと思うと、愛しさが湧いてくる。

「ふふっ…」

カリーナはアルフレッドをきゅっと抱き締めた。
肩に顔を埋めながら、アルフレッドが問いかける。

「何が可笑しいの」
「何だろう?久しぶりに顔を見れたから嬉しいのかな」
「たったの3日ぶりだよ」
「そうだけど」
「僕も嬉しいけど」

ふふっ…だめだ。なんだこれ。ニヤケが治まらない。

「カリーナ、ずっとこうしていたいんだけど、話したい事があるから一旦、離れてくれる?」

まずい。今離れたらにやけた顔を見られてしまう…

「う、うーん」

誤魔化すように、アルフレッドの胸に顔を擦りつけた。
とたんに、肩を掴んで引き離された。
見上げると、顔を真っ赤に染めたアルフレッドがいた。

「そういうのは止めて。何なの、カリーナ」

自分からやるのは良くて、こっちからは駄目なのかよ。
釈然としないながらも、カリーナは背筋を伸ばしてアルフレッドに視線を合わせた。

「ちょうど良かった。私も話したいことがあったの。まずは、貴方からどうぞ」

アルフレッドは、目元を赤く染めながらも、真剣な表情で言った。

「明後日の夜、一緒に…」

しかし、言い終わらぬ内にドアのノックの音に中断された。
アルフレッドは小さくため息をつくと、入室の許可を出した。
ドアを開けて姿を現したのは、いつぞやの国王専属の白髪の執事だった。
初老の執事は、恭しく一礼すると、カリーナの名を呼んだ。
カリーナは、怪訝な表情で執事の元へ向かう。

「おめでとうございます。今朝、ジスペインに皇太子が誕生されたとのことでございます。ジスペイン国王陛下より、5日後の誕生式典に出席されたしとのご通達が届きました。カリーナ姫におかれましては、直ぐに帰国の準備をされますよう」

カリーナは、甥っ子の誕生に浮き足だった。
が、すぐに背後のアルフレッドのことを思い出した。
先ほど、確か、明後日の夜…と言いかけた。
カリーナが振り向くと、僅かに笑みを浮かべた美貌の騎士がこちらを見ていた。

「皇太子の誕生、おめでとうございます。ジスペイン国の一層の発展と栄華をお喜び申し上げます」

彼は胸に手を当て、上体を倒した。

「直ぐに帰国の手配を致します」
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