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【番外編☆側近達の番物語☆フォルクス編】子ぎつねはお団子を食べて恋を知る
人気者の彼女
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それからは公務の合間にサリエの甘味屋に行くのが日課になった。
団子の味に惚れたのが理由だ。
毎回十二本を注文し、ペロリと平らげるフォルクスは甘味屋の常連となり、サリエの両親とも直ぐ顔見知りとなった。
「なんとフォルクスさんは次期側近なのかい、それは偉い方とお知り合いになったものだなぁ!」
「ええ、でもまだ見習いなので」
「今のうちに売り込んでおかなくちゃ!」
「現金だなぁ二人とも」
先程から姿が見えなかったサリエの声がして、フォルクスはそちらに目を向ける。
一瞬、別人かと思い、フォルクスは目を瞬いた。
サリエはいつもの半纏姿ではなく、小花柄のワンピースの装いで立っていた。
赤い髪は下ろして片側だけ少し編み込まれ、白い花の飾りが付いたヘアピンで止めている。
「でも側近に就任してもお団子は食べに来てよね」
サリエは髪を耳にかけながら微笑む。
フォルクスは言葉を忘れ、ただサリエを見ていた。
しかし、サリエはフォルクスのおかしな様子に気付くことなくワンピースの胸元を整えている。
「遅くならないようにね。最近酔っ払って女の子に絡む輩がいるから」
「イーギスに送って貰うわ」
「そうしな。楽しんでこいよ」
サリエは頷き手を振って歩き出す。
フォルクスは両親と共にサリエの後ろ姿を見送った。
サリエの先に手を上げる雄の姿が見え、やがて二人は並んで歩き始めた。
サリエが男の腕に掴まったところで、フォルクスは視線を元に戻した。
「あの方は…」
「サリエのボーイフレンドの一人ってとこかしら。我が娘ながら、結構人気があるのよ」
「へぇ…サリエさん、お綺麗ですものね」
そりゃそうだ。
サリエは年頃の娘なのだから、番探しは当たり前のこと。
フォルクスは、何故か自分に言い聞かせる。
「フォルクスさんはいないのかい?誰か良い人。番といっても簡単に判別出来るものではないからね。色んな雌と試すことをおすすめするよ」
店主が屈託なく笑いながら、あけすけに雌遊びを勧めてきたが、フォルクスは視線を泳がせて首を振る。
「私は…まだ、そんな余裕はありません。仕事を覚えるのに精一杯で」
「フォルクスさんなら焦らなくても雌が群がるわ。今だってほら、遠巻きに見ている子達がたくさん」
女将が指差す方向を見ると、数人の若い雌が通りの端に固まってこちらを見ていた。
フォルクスが視線を向けた事に気付いて、嬌声が上がる。
「選び放題じゃないか、フォルクスさん」
店主に肩を叩かれ、フォルクスは曖昧に笑った。
その後も何度かサリエが雄と一緒に歩いているところを見掛けた。
いつも違う雄だった。
サリエは王城内の独身雄の間でも有名で、デートをした事がある者もいるらしい。
フォルクスは、何となく面白くない気持ちでそれを聞いていた。
「お前もサリエの甘味屋に足繁く通っているそうじゃないか。デートにはもう誘ったのか?」
シメオンに問われ、フォルクスは即座に否定した。
「私はお団子を食べに通っているのです。サリエさんが目当てではありません」
シメオンはふぅん、と面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「真面目なのは結構だがな、お前には少々情緒が不足している。それは番探しにも不利に働く。少しは雌の扱いを学んだ方が良いと思うぞ」
「シメオン様こそ雌の匂いを嗅ぎすぎて嗅覚が麻痺しないようにお気を付け下さい」
「可愛くない」
口をへの字に結ぶ王子を無視して、フォルクスは公務に集中する。
今は余計な事を考えたくない。
フォルクスには、他の側近達が登城するまでに雑多に散らかった公務を整理し、問題点を抽出するという任がある。
公務を学びつつそれをこなさなければならないのだ。
色恋にうつつを抜かしている暇などない。
そもそも恋など必要無いとフォルクスは思っていた。
獣人の若者には珍しく性欲もさほど強くない。
性行為の経験はあるが、きっかけは単なる好奇心だったし、それなりに気持ちは良かったが夢中になるほどのものでは無かった。
番に関しても焦る気は更々ない。
その内見つかれば良い、いや、なんなら見つからなくたって困らないぐらいに考えていたのだ。
団子の味に惚れたのが理由だ。
毎回十二本を注文し、ペロリと平らげるフォルクスは甘味屋の常連となり、サリエの両親とも直ぐ顔見知りとなった。
「なんとフォルクスさんは次期側近なのかい、それは偉い方とお知り合いになったものだなぁ!」
「ええ、でもまだ見習いなので」
「今のうちに売り込んでおかなくちゃ!」
「現金だなぁ二人とも」
先程から姿が見えなかったサリエの声がして、フォルクスはそちらに目を向ける。
一瞬、別人かと思い、フォルクスは目を瞬いた。
サリエはいつもの半纏姿ではなく、小花柄のワンピースの装いで立っていた。
赤い髪は下ろして片側だけ少し編み込まれ、白い花の飾りが付いたヘアピンで止めている。
「でも側近に就任してもお団子は食べに来てよね」
サリエは髪を耳にかけながら微笑む。
フォルクスは言葉を忘れ、ただサリエを見ていた。
しかし、サリエはフォルクスのおかしな様子に気付くことなくワンピースの胸元を整えている。
「遅くならないようにね。最近酔っ払って女の子に絡む輩がいるから」
「イーギスに送って貰うわ」
「そうしな。楽しんでこいよ」
サリエは頷き手を振って歩き出す。
フォルクスは両親と共にサリエの後ろ姿を見送った。
サリエの先に手を上げる雄の姿が見え、やがて二人は並んで歩き始めた。
サリエが男の腕に掴まったところで、フォルクスは視線を元に戻した。
「あの方は…」
「サリエのボーイフレンドの一人ってとこかしら。我が娘ながら、結構人気があるのよ」
「へぇ…サリエさん、お綺麗ですものね」
そりゃそうだ。
サリエは年頃の娘なのだから、番探しは当たり前のこと。
フォルクスは、何故か自分に言い聞かせる。
「フォルクスさんはいないのかい?誰か良い人。番といっても簡単に判別出来るものではないからね。色んな雌と試すことをおすすめするよ」
店主が屈託なく笑いながら、あけすけに雌遊びを勧めてきたが、フォルクスは視線を泳がせて首を振る。
「私は…まだ、そんな余裕はありません。仕事を覚えるのに精一杯で」
「フォルクスさんなら焦らなくても雌が群がるわ。今だってほら、遠巻きに見ている子達がたくさん」
女将が指差す方向を見ると、数人の若い雌が通りの端に固まってこちらを見ていた。
フォルクスが視線を向けた事に気付いて、嬌声が上がる。
「選び放題じゃないか、フォルクスさん」
店主に肩を叩かれ、フォルクスは曖昧に笑った。
その後も何度かサリエが雄と一緒に歩いているところを見掛けた。
いつも違う雄だった。
サリエは王城内の独身雄の間でも有名で、デートをした事がある者もいるらしい。
フォルクスは、何となく面白くない気持ちでそれを聞いていた。
「お前もサリエの甘味屋に足繁く通っているそうじゃないか。デートにはもう誘ったのか?」
シメオンに問われ、フォルクスは即座に否定した。
「私はお団子を食べに通っているのです。サリエさんが目当てではありません」
シメオンはふぅん、と面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「真面目なのは結構だがな、お前には少々情緒が不足している。それは番探しにも不利に働く。少しは雌の扱いを学んだ方が良いと思うぞ」
「シメオン様こそ雌の匂いを嗅ぎすぎて嗅覚が麻痺しないようにお気を付け下さい」
「可愛くない」
口をへの字に結ぶ王子を無視して、フォルクスは公務に集中する。
今は余計な事を考えたくない。
フォルクスには、他の側近達が登城するまでに雑多に散らかった公務を整理し、問題点を抽出するという任がある。
公務を学びつつそれをこなさなければならないのだ。
色恋にうつつを抜かしている暇などない。
そもそも恋など必要無いとフォルクスは思っていた。
獣人の若者には珍しく性欲もさほど強くない。
性行為の経験はあるが、きっかけは単なる好奇心だったし、それなりに気持ちは良かったが夢中になるほどのものでは無かった。
番に関しても焦る気は更々ない。
その内見つかれば良い、いや、なんなら見つからなくたって困らないぐらいに考えていたのだ。
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