九番姫は獣人王の最愛となる

すなぎ もりこ

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【番外編☆側近達の番物語☆フォルクス編】子ぎつねはお団子を食べて恋を知る

救出

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程なく裏通りで揉み合う二人を見つけた。
フォルクスは音もなくサッと走りよると、雄の襟首を掴み、後方へ投げた。

「わあっ!」

雄は砂埃を上げて尻もちをつく。

「何だ!てめぇ!」
「今、こちらのご婦人に無体を強いていたように見えましたが?」
「は?そんなんじゃねぇよ、良い雰囲気になってただけだ。邪魔するなよ」

男は立ち上がり、砂にまみれた尻を叩く。

「なあ、サリエ」

雄に呼びかけられたサリエは、フォルクスの袖を掴みフルフルと首を振った。
縋るようにフォルクスを見上げるグレーの瞳は潤み、掴んだ手は小刻みに震えている。
フォルクスの頭にカッと血が昇った。
サリエの手をそっと外し安心させるように肩に手を置いてから、雄に向き合う。

「とてもそうは見えません。ご婦人には優しくせよと学びませんでしたか?」
「優しくしてたさ。だから見返りに口付けのひとつでもしてくれるのかと期待したら、その雌はさっさと帰ろうとした。人の心を弄んだのはそっちだぜ?」
「それで無理やり、という訳ですか。何という品のない。貴方のような野獣にはこの方は勿体ない」

雄は灰色の耳を立て、グルルと唸る。

「フン、ソイツは色んな雄と遊んでる。番を見つけるために簡単に股を開くような雌だ。それが何故、俺だけ駄目なんだ?!おかしいだろ?」

フォルクスは目を細め、牙を舐めた。
凶暴な本能がじわじわとせり上がる。

「サリエさんを侮辱するような発言は許せません」

背後で息を呑む音がした。

パタパタとしっぽが道を打ち、砂埃が上がる。

目の前の男は首を鳴らし、長い舌をダラリと出して不潔な唾液を垂らす。
漂ってきた雄特有の匂いが不快で、フォルクスは鼻に皺を寄せた。

「僕ちゃん、そんな雌みてぇなお綺麗な形(なり)をして、喧嘩出来んのかぁ?」

フォルクスは顎を上げ、せせら笑う男に向かい、手を差し出した。

「試してみます?」

揃えた指をクイ、と曲げれば、男は笑みを引っ込め、目を血走らせた。

「この餓鬼·····!!」

フォルクスは掴みかかろうとする男の腕をスっと避けると、瞬時に首を手刀で打つ。
前屈みによろめく男の腹に膝を入れ、遂には膝を付いた男の背後に回り込み、蹴り倒した。
道に倒れた男の首をギリギリと踏みつけ、苦しそうにもがく様を無表情に見下ろす。

「おや、口ほどにもない。それとも手を抜いてくれたのでしょうか?」
「ぐはっ、やめ····っ」

フォルクスは咳き込む雄の傍にしゃがみこむと、ゆっくりと告げる。

「よく覚えておきなさい。私の名はフォルクス。次期国王の側近と定められた者です」
「ひっ····!!」

男は目を見開き、青ざめ震えた。

「私と親しい者に仇なし辱めるのは得策とは思えませんね。貴方を牢獄にぶち込むことなど造作もない。いや、なんなら跡形もなく消し去ることだって出来る」

男はヨロヨロとふらつきながらも起き上がり正座をすると、道にガバッと額を付けた。

「す、すいませんでした···っ、そ、側近候補のお方だとはいざ知らず····っ、ぶ、無礼な態度をお詫び致します」
「金輪際この方に近付かないように」
「はっ、心得ました!!」

フォルクスは膝を上げ、壁に背をつけて固まっているサリエに身体を向ける。
サリエは肩で息をしながら、ゆっくりとフォルクスを見上げた。

「すいませんサリエさん。怯えさせてしまいましたか」

サリエは小さく首を振ると、恐る恐るフォルクスに近付き、両腕を掴んだ。

「フ、フォル君は、怪我は、ない?」
「かすり傷ひとつありません」
「そ、そっか良かった」
「送ります」

フォルクスはサリエに腕を差し出す。
サリエはそれをハッとしたように見つめた後、そっとつかまった。


甘味屋の裏口に回り、橙の灯りが漏れ出る扉の前に着くと、サリエはフォルクスに向かい合い頭を下げた。

「フォル君、今夜は巻き込んでしまってごめんなさい」
「謝る必要はありません。サリエさんは悪くない」

サリエは俯いたままポツポツと話す。

「私、酷いことをしていたのかもしれないわ。真剣に番を探している訳でも無いのに誘われるままにデートをして」
「サリエさんは人気があるので仕方がありません。それに、きちんと節度を持ってお付き合いされていたのでしょう?」
「そうだけど、気を持たせていたのは確かかも…暫くお誘いは断ることにするわ」
「そうですか」

フォルクスは不思議と胸が軽くなる心地がした。
背後でしっぽが左右に揺れている。
サリエはまだ顔を上げぬまま視線を斜め下に向けている。

「あの、フォル君、ここのところお店に来なくなったのは仕事が忙しいからなのよね?」
「え?ええまあ…」
「そうか、良かった。…デートをした後から姿を見せなくなったから、もしかしたら嫌われるようなことをしたのかもって心配してたの」

サリエは漸く顔を上げて、ホッとしたように微笑んだ。

「明日からは…!また通えると思います!」
「本当?…じゃあ、待ってる」

サリエは最後にお礼を言うと、名残惜しそうに家に入っていった。
フォルクスはサリエのたてる物音と両親と話す声に耳を澄ます。
暫くそれを聞いたあと、そっと立ち去った。
その口元がほころんでいた事に、本人は全く気づいていなかった。
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