九番姫は獣人王の最愛となる

すなぎ もりこ

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【番外編☆側近達の番物語☆フォルクス編】子ぎつねはお団子を食べて恋を知る

甘いタレ

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再び甘味屋に通い始めたフォルクスは、ついこの間までの不調が嘘のように、とても気分が良かった。
良いどころか舞い上がってしまいそうな心地だ。

サリエはあの晩の言葉通り誰の誘いも受けなくなった。
たまに雄に口説かれていても、フォルクスの姿に気付くと、サッとあしらい傍に駆けつける。
そして、縁台の隣に座ってお茶を淹れてくれる。
サリエと並んで話す時間は、何よりフォルクスの心を満たした。
美味しいお団子と美味しいお茶、そしてサリエの存在。
何にも替え難い至福の時だった。
フォルクスの意識はサリエに集中する。
余すことなく表情の変化を捉えようと目を凝らし、僅かの声も聞き漏らすことの無きように耳を澄ます。
研ぎ澄ます感覚とは裏腹に二人を取り巻く空気はトロリと甘い。
まるでみたらしのタレが掛かったかのように。

「フォル君、タレが口の端に…」

サリエが手を伸ばし、フォルクスは自然とそちらに屈む。
指先が触れるその瞬間…

「あの、フォルクス様…!」

振り向けば、萌葱色のワンピースにグレーのエプロンをした雌がこちらを見ていた。

「なにか?」

フォルクスは口元を手で拭うと、居住まいを正した。

「私、五軒先の煎餅屋のチェカと言います。いつも、フォルクス様をお見掛けしてて、それで…」
「はあ」

フォルクスは首を傾げて雌を見上げる。

「それで、素敵だなぁって」

チェカは手を握り合わせ、モジモジと身体を揺らしている。
背後に丸い耳と同じ灰茶のしっぽが見えた。

「ありがとうございます。可愛らしいお嬢さんにそう言って頂けて光栄です」

フォルクスにとっては単なる社交辞令だった。
しかし、隣のサリエからは息を呑む音が聞こえ、正面のチェカは感極まったように声を上げた。

「可愛らしいだなんて!!嬉しい!!」

サリエが席を立つ気配がして、フォルクスはそちらへ顔を向けようとするが、チェカが視線の先に回り込む。

「フォルクス様、良ければ私の店にもお寄り頂けませんか?お煎餅をサービスします!お煎餅好きですか?」
「え?あ、そうですね。お煎餅は好きですが…」
「では!参りましょう!」

チェカはフォルクスの手を掴み、引っ張る。

「あの、でもまだ食べている途中なので」
「良いわよ、フォル君。残りは包んでおくから行ってらっしゃいよ」

何故かツンケンした態度のサリエが団子の乗った皿をサッと引き上げた。
フォルクスは困惑してサリエを見るが、視線を逸らした彼女はドスドスと砂埃を上げて店の中に引っ込んでしまった。
例のごとく一部始終を見ていたサリエの両親が眉を下げてフォルクスを振り返る。
フォルクスはその意を汲めないまま、チェカに引きずられていく。
どんどんと遠ざかる甘味屋。
サリエの姿は見えないまま。
フォルクスは諦めて前を向いた。
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