オレの優しい幼馴染

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 また黙り込んだままシャワー室へ向かう。

「謝れよ。そしたら、許してやらんこともない」

 先輩のからかいをかわした後も続く沈黙に耐えきれずそう言った。
 まあ、歩きながらする話でもないけど。それにオレが折れる話でもないだろうとは思うんだけど。
 きっと、コルムも若気の至りってやつだったんだろうし。最後まではなかったし。
 オレにとっては今まで生きてきた中で一番に衝撃的な出来事ではあったけど、ま、まあ、同じ男だし、わかる部分もあるような、ないような。
 
「イヤだ」 
「──はあ?」
「謝りたくない」

 まさかの返答だった。
 何だよそれ、つまり、もうオレとはこのままでいいってことか?沈黙のままで?

「・・・いやなんで強気?被害者オレだからな?今なら頭下げれば許してやるって言ってんだぞ?
 というか、さっきの、先輩に言ったアレ、なんだよ。オレはお前のものじゃないだろう」
「それは・・・」

 ムカムカしてきた。
 待てよ?そういやこいつは小さい頃からこうだった。いつもニコニコしてオレの後を付いて来てたけど、従順なようで、自分の意見を絶対に曲げないようなところがあった。
 あの時もあの時もあの時も。
 子供の頃からの付き合いだから思い出そうと思えばわんさかと出てくる。

「いや、謝れよ。オレ、お前に力任せにされてあちこち痛いんだからな」
「え、嘘。どこが?見せて!──ごめんな」
「え、あ、うん」

 謝った。簡単に。
 それどころか、オレが何気なく尻に手を当てたら撫でようとしてくる。その手を払い除けたらぎゅ、と手を握られた。
 あ、尻の痛みはコルムじゃなかった。

「ベイラ、俺が謝りたくないのは、ベイラに対する俺の気持ちだ。なかったことにされたくない」
 
 手を握られたまま至近距離でじっと見つめられる。近い近い。
 それに立ち止まった場所が良くない。

「コルム待て、」
「俺はベイラが好きだ。
 今日みたいなことがあったら俺はまた絶対に襲う。でも痛いことはしない。優しくする。誓う。今日はごめんな、痛い思いさせて。興奮しすぎて力加減が出来なかった」
「ちょ、ちょっ。コ、コルムやめろって」

 待て!!この場所では!!
 優しくする、じゃねえんだよ!
 手が、振りほどけない!
 馬鹿力か!!!

「おーいコルム!無理矢理はイカンぞ、無理矢理は」
「そうそ、合意の上なら見て見ぬふりをしてやろう」
「ってかまだ手、つけてなかったのかぁ?」

 ワハハハという下衆な笑い声とピィピィと間の抜けた指笛の音が響きわたった。
 一階には寮生の部屋はなく、シャワー室のほかにランドリー室、食堂等の公共の場が固まっている。
 
 そしてここは食堂前。
 夕食の時間にはまだ少し早いが、シャワーをしてそのまま部屋に戻らず夕食にしようという考えの寮生たちで食堂は賑わっていた。
 オレたちもいつもならそうしてる。
 食堂の廊下に面した壁には、開放的に大きな窓が嵌めてありいつでも開いている。窓の向こうには面白そうにオレたちを見ている顔顔顔。
 
「コルム、手、離せ」

 部屋での自分の痴態をみんなに知られた気がして、羞恥で全身熱くなった。

「顔真っ赤にして可愛いなあ。俺も彼氏に立候補しちゃおっかなー」
「止めとけよ。コルムに殺されるぞ」

 どっと場が沸く。
 なんなのだ。他に面白い話題はないのか。いたたまれない。

「ベイラ、行こう」

 コルムがオレを背に庇う。促されるままぎくしゃくと歩き食堂から離れた。
 だが気付けば手を繋いで歩いてて、すれ違う寮生が繋がれた手と顔をガン見してくる。

「ンがあっ!」

 思いっ切り手を振りほどいてコルムに向かい合う。

「なんであんな場所であんなこと言うんだよ!?」

 寮内の恋愛は禁止、なんて規則はないがどう考えても気まずいだろう。
 波風立てず学園生活を終わらせたかったのに、今後寮でも学園でもどう過ごせばいいのか。

「宣戦布告だ」
「は・・・?だ、誰に?なんの?」
「ベイラを狙う奴ら全員に。そしてベイラにも」
「は?・・・・・頭いて」

 オレは頭を抱えながらコルムを放置して歩き出した。
 こんなに話がかみ合わないやつだったか?

「ベイラ!」

 追いかけてきたコルムが隣に並ぶ。

「お前さ、騎士科に進んでから頭悪くなってないか?」

 あ、違うか。鍛錬のし過ぎで脳みそまで筋肉になっちゃったんだな、うん。

「──あの場所でああいう話をすれば、俺がベイラを好きだと学園中に広まるだろう」
 
 広める必要が?

「俺より弱い奴はベイラに手を出してこなくなる。さっきので相当な数が減った。今後ベイラに手を出してくる奴らは一人ずつシメていけばいい」

 なぜ皆んながオレを狙っている前提なのか。

「・・・オレは今まで手を出されたことなんて一度もないぞ?」

 しばし睨み合う。

「──うん、まだ、ね。
 本当はこんなはずじゃなかった。ずっとベイラの側にいて、──学園を卒業した後も護衛になってずっと側にいて、少しずつ俺の気持ちをわかってもらおうと思っていた」

 長期計画っ。

「オレの護衛になるつもりだったの?いやいや、お前、キャンベル家の長男だろ、跡継ぎ!」
「ベイラがうちに嫁いでくれるなら跡を継いでもいい」
「よくわからない上から目線はやめろ。・・・かわいそうに、騎士科に入って頭の中おかしくなっちゃったんだな」

 ここにきて、オレの怒りは哀れみに変わった。
 
「おかしい、かな。だとしたら、もっとずっと前からだよ。ベイラに初めて会った、あの時から」

 コルムが懐かしそうに目を眇めた。




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