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初対面といえば今から10年以上前の話になるよ?そんな前からこんなアホな話を考えていたのかお前は。
脳筋は騎士科に入ったからじゃなかった。昔からだった。
懐かしそうに目を細めるコルムは、白銀に輝くプラチナのさらさら髮と針葉樹の森を思わせる深緑の瞳、彫りの深い目鼻立ちの誰が見ても美形に育った。
そして小さい頃は、そりゃもう可愛くて天使のようだった。なのにそんな爛れたことを考えていたとは。
「あ、あのさ。コルムのこと好きな女の子、いっぱい、いる。可愛い子も、いっぱい、いる。えと、オレみたいな平凡な奴にかまってないでさ、もっと広い視野を持って、コルムなら、」
なぜか薄ら寒くなって震えた。
「ベイラは平凡じゃない。でもそれは俺だけが知っていればいいことだったのに。最近周りが騒がしくなってきた。
ベイラ俺ね、もう自分の気持ちを隠さないことに決めたよ。というか、ベイラのあんな姿を見てしまったらもうなんか我慢出来ないというか」
いつでも淡々と、あまり感情を表に出さない瞳に熱が宿っていた。怖い。
「誰にも俺からベイラを奪わせない。それがベイラ自身だとしても。今は俺の片思いだけど、必ず俺のこと好きにさせてみせる」
両腕をがっちり捕まれ見下ろされる。部屋でも思ったけど、こいつってこんなにデカかったっけ。
「コルム、わ、わかった。わかったから放してっ!」
圧が強くて怖すぎる。
「ん、わかってくれてありがとう」
「ど、いたしまして」
これは、なんかやばい。押されまくってコルムと恋人になる未来が見えてきた。
「あ、ベイラー、コルムー。シャワーこれから?」
「───アル」
シャワー室近くで声を掛けられた。
人当たりの良い赤毛の彼はアルヴィン=メイヤー。オレと同じ経営学科の2年生で、よくつるむ友達だ。1年の時はオレともコルムとも同じクラスで仲良くしていた。
連れ立って歩いているのはアルと同室の、寮長でもある文科の3年生だ。
オレはとっさに二人に駆け寄り、ガシッとアルの腕を掴んでいた。
「泊まらせて!」
「へ?」
「泊まらせて!泊まりたい!」
「ベイラ!」
後ろからコルムの焦った声にぎゅっと目を瞑った。
「え?え?で、でも、・・・先輩、こういうのって」
「駄目に決まっているだろう。だが、事情にもよる。僕は一応寮長だからね、困っている寮生の一時的避難場所として泊まらせるなら構わないだろう」
「こ、困ってます!」
「わかった。んじゃ、シャワー後に、「シャワー、今日はいいです。汚れてません」そうか。そこのイケメンくん、ってことでこの子鹿ちゃんは連れて行くから、今晩は頭を冷やすことだな」
さすが3年生。さすが寮長。
オレはありがたくアルの腕に縋り付いたまま、二人の背に隠れながらその場を離れたのだった。
後ろから、“子鹿じゃない子兎だ”と声がしたのは聞き間違いだと思いたい。
───翌朝。
頭の中が混乱したまま迎えた朝。
昨日の制服を着る気になれず、パジャマのまま制服を取りに一旦自分の部屋へ戻ろうと、ドアを開けた。
反射的に閉めた。
廊下にコルムがいたのだ。
ドアがノックされる。
「ベイラ、必要なもの持ってきたから開けてくれ」
うーむ。どうしようかとしばし戸惑ったが、開けないと意地を張るわけにはいかないかと、もう一度ドアを開けた。
「おはよう、ベイラ」
「うん、おはようコルム」
爽やかに入ってきたコルムは奥にいるアルと先輩にも声をかけ、オレに向き直った。
「仕度、手伝うよ」
まだパジャマのままのオレに言う。「え、手伝うって?」と奥からアルの声。その声にオレはもじもじしてしまう。
基本、学園に従者を連れてくることはできない。なので階級が上の貴族ほど入学してまずは生活面でつまづくわけだが。流石に2年になっても一人で着替えができないのはオレだけだろう。
「はい、シャツ。俺はむこう向いているから羽織ったら教えて。──ああ、歯磨きが先がいいかな」
「歯磨きはさっき終わらせた。アルが新しい歯ブラシを貸してくれたから」
「・・・そう。その歯ブラシはこれ、かな。アルには後で新しいのを渡しておくよ」
洗面所でかいがいしく世話を焼かれる。わかっているんだ。自分のことは自分でしないとって。
やろうと思えばちゃんとできるんだ。ただ時間がかかるというだけで。
──ボタンの穴は何故あんなに小さいのだろうか。
「君たち、ケンカしてるんじゃなかったの?」
介助してもらっての着替えが終わり、今度は髪にオイルを揉み込まれ櫛で何度も梳かしてもらっていると、先輩が声を掛けてきた。
「ケンカはしてません。少し、気持ちの整理が必要だったんです。ね、ベイラ」
「う、うん・・・」
ケンカじゃないのは確か、だな。
「コルムー、ベイラを甘やかし過ぎ!ベイラってば一人でなんにも出来ないんだぞ!」
昨夜のあれこれを思い出したのか、アルがぷんぷんしてる。
「──アル。まさか、ベイラに食べさせてやった、とか?」
「さすがにそこまではしない」
「やめろよコルム!ちゃんと自分で食べた!」
「そうか。偉かったな」
こくん、と頷く。昨夜はアルと寮長が、食堂に行く気になれないオレに、わざわざ食事を部屋まで運んでくれたのだ。
学園のナイフはあまり切れ味が良くない。だが、時間はかかったがチキンを全部一人で切ったし、コーンのポタージュは熱いから少しずつスプーンですくって飲んだ。
いつもコルムに切ってもらったり、ふうふうしてもらったりしなくてもできたのだ。褒められて当然のレベル。オレ頑張った。
「あー、仕度ができたなら朝食に行こうか」
先輩の一言で、四人そろって部屋を出た。
「ベイラ、君、今日は自分の部屋に帰るように」
「え、そんな」
先輩からの無情の一言。
その隣でアルが大きく頷いていた。
脳筋は騎士科に入ったからじゃなかった。昔からだった。
懐かしそうに目を細めるコルムは、白銀に輝くプラチナのさらさら髮と針葉樹の森を思わせる深緑の瞳、彫りの深い目鼻立ちの誰が見ても美形に育った。
そして小さい頃は、そりゃもう可愛くて天使のようだった。なのにそんな爛れたことを考えていたとは。
「あ、あのさ。コルムのこと好きな女の子、いっぱい、いる。可愛い子も、いっぱい、いる。えと、オレみたいな平凡な奴にかまってないでさ、もっと広い視野を持って、コルムなら、」
なぜか薄ら寒くなって震えた。
「ベイラは平凡じゃない。でもそれは俺だけが知っていればいいことだったのに。最近周りが騒がしくなってきた。
ベイラ俺ね、もう自分の気持ちを隠さないことに決めたよ。というか、ベイラのあんな姿を見てしまったらもうなんか我慢出来ないというか」
いつでも淡々と、あまり感情を表に出さない瞳に熱が宿っていた。怖い。
「誰にも俺からベイラを奪わせない。それがベイラ自身だとしても。今は俺の片思いだけど、必ず俺のこと好きにさせてみせる」
両腕をがっちり捕まれ見下ろされる。部屋でも思ったけど、こいつってこんなにデカかったっけ。
「コルム、わ、わかった。わかったから放してっ!」
圧が強くて怖すぎる。
「ん、わかってくれてありがとう」
「ど、いたしまして」
これは、なんかやばい。押されまくってコルムと恋人になる未来が見えてきた。
「あ、ベイラー、コルムー。シャワーこれから?」
「───アル」
シャワー室近くで声を掛けられた。
人当たりの良い赤毛の彼はアルヴィン=メイヤー。オレと同じ経営学科の2年生で、よくつるむ友達だ。1年の時はオレともコルムとも同じクラスで仲良くしていた。
連れ立って歩いているのはアルと同室の、寮長でもある文科の3年生だ。
オレはとっさに二人に駆け寄り、ガシッとアルの腕を掴んでいた。
「泊まらせて!」
「へ?」
「泊まらせて!泊まりたい!」
「ベイラ!」
後ろからコルムの焦った声にぎゅっと目を瞑った。
「え?え?で、でも、・・・先輩、こういうのって」
「駄目に決まっているだろう。だが、事情にもよる。僕は一応寮長だからね、困っている寮生の一時的避難場所として泊まらせるなら構わないだろう」
「こ、困ってます!」
「わかった。んじゃ、シャワー後に、「シャワー、今日はいいです。汚れてません」そうか。そこのイケメンくん、ってことでこの子鹿ちゃんは連れて行くから、今晩は頭を冷やすことだな」
さすが3年生。さすが寮長。
オレはありがたくアルの腕に縋り付いたまま、二人の背に隠れながらその場を離れたのだった。
後ろから、“子鹿じゃない子兎だ”と声がしたのは聞き間違いだと思いたい。
───翌朝。
頭の中が混乱したまま迎えた朝。
昨日の制服を着る気になれず、パジャマのまま制服を取りに一旦自分の部屋へ戻ろうと、ドアを開けた。
反射的に閉めた。
廊下にコルムがいたのだ。
ドアがノックされる。
「ベイラ、必要なもの持ってきたから開けてくれ」
うーむ。どうしようかとしばし戸惑ったが、開けないと意地を張るわけにはいかないかと、もう一度ドアを開けた。
「おはよう、ベイラ」
「うん、おはようコルム」
爽やかに入ってきたコルムは奥にいるアルと先輩にも声をかけ、オレに向き直った。
「仕度、手伝うよ」
まだパジャマのままのオレに言う。「え、手伝うって?」と奥からアルの声。その声にオレはもじもじしてしまう。
基本、学園に従者を連れてくることはできない。なので階級が上の貴族ほど入学してまずは生活面でつまづくわけだが。流石に2年になっても一人で着替えができないのはオレだけだろう。
「はい、シャツ。俺はむこう向いているから羽織ったら教えて。──ああ、歯磨きが先がいいかな」
「歯磨きはさっき終わらせた。アルが新しい歯ブラシを貸してくれたから」
「・・・そう。その歯ブラシはこれ、かな。アルには後で新しいのを渡しておくよ」
洗面所でかいがいしく世話を焼かれる。わかっているんだ。自分のことは自分でしないとって。
やろうと思えばちゃんとできるんだ。ただ時間がかかるというだけで。
──ボタンの穴は何故あんなに小さいのだろうか。
「君たち、ケンカしてるんじゃなかったの?」
介助してもらっての着替えが終わり、今度は髪にオイルを揉み込まれ櫛で何度も梳かしてもらっていると、先輩が声を掛けてきた。
「ケンカはしてません。少し、気持ちの整理が必要だったんです。ね、ベイラ」
「う、うん・・・」
ケンカじゃないのは確か、だな。
「コルムー、ベイラを甘やかし過ぎ!ベイラってば一人でなんにも出来ないんだぞ!」
昨夜のあれこれを思い出したのか、アルがぷんぷんしてる。
「──アル。まさか、ベイラに食べさせてやった、とか?」
「さすがにそこまではしない」
「やめろよコルム!ちゃんと自分で食べた!」
「そうか。偉かったな」
こくん、と頷く。昨夜はアルと寮長が、食堂に行く気になれないオレに、わざわざ食事を部屋まで運んでくれたのだ。
学園のナイフはあまり切れ味が良くない。だが、時間はかかったがチキンを全部一人で切ったし、コーンのポタージュは熱いから少しずつスプーンですくって飲んだ。
いつもコルムに切ってもらったり、ふうふうしてもらったりしなくてもできたのだ。褒められて当然のレベル。オレ頑張った。
「あー、仕度ができたなら朝食に行こうか」
先輩の一言で、四人そろって部屋を出た。
「ベイラ、君、今日は自分の部屋に帰るように」
「え、そんな」
先輩からの無情の一言。
その隣でアルが大きく頷いていた。
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