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無理な体勢で尻を見るが、痛むわりにはアザになっているわけではなかった。
しかし、湿布を貼りづらい場所だ。
立って貼ったほうが良いだろうか。
あれこれ考えているうちに面倒になった。入ってくる爽やかな風に湿布を貼らなくても尻の痛みがひいていく気がする。
風に吹かれながら、じんわり涙が浮かんだ。心の痛みのせいだ。尻の痛みは関係ない。多分。
──これがいいきっかけになる。
そう切なく思った。
オレから離れてやるのがコルムの為になるんだ。
隣の領同士仲良くしているとはいっても、やはり超えられない身分差は存在していて。うちは伯爵、向こうはひとつ下の子爵。しかも小さい頃のオレは体が大きかったこともあり、近くの貴族の子息たちの中でガキ大将的な存在だった。
オレは何も知らずやりたいように振る舞っていただけだが、思い返してみれば、みんなうちより家格の低い子息たちだった。多分、親からオレの機嫌を損ねないように言い含められていたんだろうな。どの子息もオレに従順だったが、オレのわがままな暴君っぷりに嫌気が差したのか、色々な都合を理由に一人減り二人減り、と疎遠になっていく中、コルムだけは付き合いが続いた。領、隣だし、同い年だしな。家同士で業務提携なんかもしていたようだから逃げられなかったんだな。
コルムはいつもニコニコして、当時は体も小さくて可愛いかった。オレはまるでコルムの兄になったように接した。
まぁ、つまり、偉そうにしてた。実際はコルムの世話をしているつもりが、されていたのだが。
こんなことを考え始めたのは学園に入学してからだ。
王都には年に一、二回遊びに来る程度で普段は領地での田舎暮らしだったから、先ずは人付き合いのあらゆる面で衝撃を受けた。
主に言えば、友達同士の適正な距離、とか。
オレとコルムはなんていうか、距離が近かった。領地では誰にも指摘されることがなかったからわからなかったんだ。
これに関しては、入学式の際、オレの曲がったネクタイをいそいそとコルムが直してくれている時だ。一つ上の女子の先輩に「神様、ありがとう!!」と目の前で拝まれたことがある。その時は何のことかわからなかったが、後日コルムと一緒に入った部活(余談だが歴史部だ)にその先輩がいて事情を聞くことができた。
コルムが独占欲丸出しにしてオレに近づく奴らを牽制するかのように頬に口づけていた、ように見えたそうだ。なんじゃそりゃ。
先輩は男同士の恋愛を好む腐女子だった。
オレは、世間には同性同士の恋愛を美化して楽しむ人たちが一定数いることを知った。
女の子へのときめきも初恋も知ることなく育ったオレはそんな世界があることに驚いたが、そもそもこの国は同性婚を認めている。オレとコルムがそう見られることもあるんだな、とけっこうすぐに納得した。
だが、クラスメイトからも“ニコイチ”なんて言われるようになって、オレはようやく気付いた。コルムの笑顔が不自然なことに。
コルムは本当は嫌だったのだ。
オレに話を合わせること。オレの側にいること。オレがコルムに対して接する全てのことが。
入学して、半年ほどでそのことに気付いたが、離れる勇気がなくて、見ないふりでずるずるとここまで来た。
コルムの側はオレにとって、とても居心地の良い場所だったから。
気付かないふりでずっと側にいたい気持ちと、コルムをオレから解放してあげなければという思いに挟まれ、どっちつかずでいたがそれも、もう終わる。
なんの因果か、寮の部屋まで一緒とは、コルムも気を使って大変だっただろう。しかも二人部屋だし。
最近のよそよそしくオレを避ける、部屋でのコルムが脳裏をよぎった。
「ごめんな、コルム」
コルムが来る前に湿布を貼ろうと思っていた事をすっかり忘れ、オレは目を閉じた。考え過ぎからか、急な眠気に襲われていた。
まだコルムが部屋に戻るまでに時間がある。少しだけ。
湿布どころか尻を出していることさえ忘れ、オレは本格的に眠りの世界に入った。
「ベイラ・・・」
遠くでコルムに何度も呼ばれたような気がして、ようやく意識が浮上してくる。
もう、朝かと薄目を開けるが、いまだ薄暗い室内が不思議だった。
「ベイラ・・・」
コルムの声が耳のすぐ側で響き、背筋を何かが走った。
少しずつ覚醒し、固いものに巻き付かれ、身動きが取れないことに気付いた。
うなじに柔らかいものが押し当てられ、大きな熱い、多分手のひらが体を這い回る。
「あ、・・・なに・・?」
オレ、襲われてる?
恐怖に体がすくむ。
「ベイラ、・・・」
「コ、コルム・・・?」
荒い息遣いに別人かとも思ったが、コルムだと確信してもいた。
「何してんだよっ、離せって!」
ようやく目がはっきり覚め、体を捻った。
「ただでさえ限界だったのに。ずっと我慢してあげてたんだよ?なのに」
いつの間にかボタンを全て外されているシャツの中に後ろから手が入り、乳首をきゅっと抓まれた。
「っ、あっ!」
思わず仰け反る首筋にむしゃぶりつかれ、吸われる。
「こんなに可愛いお尻を見せられて我慢できる奴いる?──それとも、俺にこうして欲しくてわざと出してたの?」
「そんなわけ・・・」
「どっちでもいいよ。やることは一つだから」
どういうことだ。何をやるんだ。
「今までの俺たちの関係性を終わりにしよう」
しかし、湿布を貼りづらい場所だ。
立って貼ったほうが良いだろうか。
あれこれ考えているうちに面倒になった。入ってくる爽やかな風に湿布を貼らなくても尻の痛みがひいていく気がする。
風に吹かれながら、じんわり涙が浮かんだ。心の痛みのせいだ。尻の痛みは関係ない。多分。
──これがいいきっかけになる。
そう切なく思った。
オレから離れてやるのがコルムの為になるんだ。
隣の領同士仲良くしているとはいっても、やはり超えられない身分差は存在していて。うちは伯爵、向こうはひとつ下の子爵。しかも小さい頃のオレは体が大きかったこともあり、近くの貴族の子息たちの中でガキ大将的な存在だった。
オレは何も知らずやりたいように振る舞っていただけだが、思い返してみれば、みんなうちより家格の低い子息たちだった。多分、親からオレの機嫌を損ねないように言い含められていたんだろうな。どの子息もオレに従順だったが、オレのわがままな暴君っぷりに嫌気が差したのか、色々な都合を理由に一人減り二人減り、と疎遠になっていく中、コルムだけは付き合いが続いた。領、隣だし、同い年だしな。家同士で業務提携なんかもしていたようだから逃げられなかったんだな。
コルムはいつもニコニコして、当時は体も小さくて可愛いかった。オレはまるでコルムの兄になったように接した。
まぁ、つまり、偉そうにしてた。実際はコルムの世話をしているつもりが、されていたのだが。
こんなことを考え始めたのは学園に入学してからだ。
王都には年に一、二回遊びに来る程度で普段は領地での田舎暮らしだったから、先ずは人付き合いのあらゆる面で衝撃を受けた。
主に言えば、友達同士の適正な距離、とか。
オレとコルムはなんていうか、距離が近かった。領地では誰にも指摘されることがなかったからわからなかったんだ。
これに関しては、入学式の際、オレの曲がったネクタイをいそいそとコルムが直してくれている時だ。一つ上の女子の先輩に「神様、ありがとう!!」と目の前で拝まれたことがある。その時は何のことかわからなかったが、後日コルムと一緒に入った部活(余談だが歴史部だ)にその先輩がいて事情を聞くことができた。
コルムが独占欲丸出しにしてオレに近づく奴らを牽制するかのように頬に口づけていた、ように見えたそうだ。なんじゃそりゃ。
先輩は男同士の恋愛を好む腐女子だった。
オレは、世間には同性同士の恋愛を美化して楽しむ人たちが一定数いることを知った。
女の子へのときめきも初恋も知ることなく育ったオレはそんな世界があることに驚いたが、そもそもこの国は同性婚を認めている。オレとコルムがそう見られることもあるんだな、とけっこうすぐに納得した。
だが、クラスメイトからも“ニコイチ”なんて言われるようになって、オレはようやく気付いた。コルムの笑顔が不自然なことに。
コルムは本当は嫌だったのだ。
オレに話を合わせること。オレの側にいること。オレがコルムに対して接する全てのことが。
入学して、半年ほどでそのことに気付いたが、離れる勇気がなくて、見ないふりでずるずるとここまで来た。
コルムの側はオレにとって、とても居心地の良い場所だったから。
気付かないふりでずっと側にいたい気持ちと、コルムをオレから解放してあげなければという思いに挟まれ、どっちつかずでいたがそれも、もう終わる。
なんの因果か、寮の部屋まで一緒とは、コルムも気を使って大変だっただろう。しかも二人部屋だし。
最近のよそよそしくオレを避ける、部屋でのコルムが脳裏をよぎった。
「ごめんな、コルム」
コルムが来る前に湿布を貼ろうと思っていた事をすっかり忘れ、オレは目を閉じた。考え過ぎからか、急な眠気に襲われていた。
まだコルムが部屋に戻るまでに時間がある。少しだけ。
湿布どころか尻を出していることさえ忘れ、オレは本格的に眠りの世界に入った。
「ベイラ・・・」
遠くでコルムに何度も呼ばれたような気がして、ようやく意識が浮上してくる。
もう、朝かと薄目を開けるが、いまだ薄暗い室内が不思議だった。
「ベイラ・・・」
コルムの声が耳のすぐ側で響き、背筋を何かが走った。
少しずつ覚醒し、固いものに巻き付かれ、身動きが取れないことに気付いた。
うなじに柔らかいものが押し当てられ、大きな熱い、多分手のひらが体を這い回る。
「あ、・・・なに・・?」
オレ、襲われてる?
恐怖に体がすくむ。
「ベイラ、・・・」
「コ、コルム・・・?」
荒い息遣いに別人かとも思ったが、コルムだと確信してもいた。
「何してんだよっ、離せって!」
ようやく目がはっきり覚め、体を捻った。
「ただでさえ限界だったのに。ずっと我慢してあげてたんだよ?なのに」
いつの間にかボタンを全て外されているシャツの中に後ろから手が入り、乳首をきゅっと抓まれた。
「っ、あっ!」
思わず仰け反る首筋にむしゃぶりつかれ、吸われる。
「こんなに可愛いお尻を見せられて我慢できる奴いる?──それとも、俺にこうして欲しくてわざと出してたの?」
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どういうことだ。何をやるんだ。
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