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朝の鍛錬に出てこれなくなったココに女性兵士が護衛に付いたことを聞いた。
そうさ、それこそが令嬢の過ごし方だ。ヤロー共に混じって鍛錬など正気の沙汰じゃない。──そうは思うものの、ココの姿をもう見ることがなくなるのかと、毎朝やる気が出なくなった。
たまに屋敷の護衛任務に着き、中庭で読書や剣の鍛錬をするココの姿を薔薇の垣根の隙間から見かけると、その日は一日体に力が漲った。
だが、ココはいつも一人だった。
辺境のこの地ではココと交友を結べる貴族は少ない。いや、ほぼいないな。先の領主を追い出しているわけだからなおさらだ。将軍は褒美にこの地をもらっただけで、追い出したのは王だけど。
女性兵士は離れたところで静かに立つだけで、ココと関わろうとはしなかった。
たまに、ココは自分の小さな手のひらに、さらに小さなうさぎのぬいぐるみをのせ、じっと見つめていることがある。そのうさぎが唯一の友だちで、心の中で話しかけている、といったふうに。
そんなココをなんとかしてやりたかったが、その頃の俺に出来ることは何もなかった。
母親と王都に帰してやるのが一番幸せに思えたが、将軍がここの方が安全だと判断したのだからどうしようもない。それに、ココと離れるのは俺も耐えられそうになかった。
せめてもと、ココにストーカーをする兵士や兵士見習いをどんどん捕まえて将軍に突き出してやったが。
そんな時、あの事件は起こったのだ。
将軍は2週間の予定で奥方と第1部隊を連れ、王都に出向いていた。領と屋敷の守りは第2から第5までの部隊と俺達兵士見習いに任された。
将軍はいないが万全の体制だった。確率は低いが他領や他国からの攻めや盗賊等、不測の事態が起きてもどうとでもなる、そう強気でいた。
だから、俺はのんきに構えていたんだ。
夕方、早朝からの町の見回りを終えて寮に戻った。寮は屋敷の敷地内にある。もうこの時間は中庭にいないとわかっていたが、薔薇の垣根から中庭を覗いた。そこにはココの姿はなかった。──だが、ココの護衛についているはずの女性兵士の姿はあった。
「お嬢様はどこだ!」
垣根を突っ切り女性兵士の胸ぐらを掴んだ。
「・・・う、お嬢様は、部屋に」
「だったらなぜお前はここにいるんだ」
「・・・」
「お嬢様はどこだ。──言うまで指を一本ずつ落とす」
ナイフを動きが取れないように固定した女性兵士の小指の付け根に当てた。
「し、知らない!」
「俺は将軍のように優しくはないぜ」
ナイフを握る手に力を込めた。
「・・あ、あ、指が」
女性兵士は先の領主の親戚筋の娘だ。
ココに対する頑なな態度を不思議に思い、独自に調べたのだ。先の領主とその親戚の貴族たちが脱税やらの悪事で捕まった際、やる気があるならと将軍が令嬢や子息たちを引き取ったのだった。
お陰で孤児院育ちの学がない俺だが新聞や法的な書類を読む力がついたぜ。スキルアップだ。
「やめて!言うから!──今頃、ヒースっていう娼館でやられているわ」
頭に一瞬で血がのぼった。
「──なんてことを!」
「あの娘!いまいましいのよ!私が兵士にまで身を落としたっていうのに、いつものんきにして!」
「・・・お前のやったことは逆恨みだ」
手早くいつも持ち歩いている革紐で、女性兵士の両手と両足を繋げて後ろで括り、転がした。こんなのに関わっている時間はない。
馬を調達し、町まで駆けた。
娼館の裏口に乗り付け、押し入る。その勢いで裏口にたむろっていた用心棒共を叩きのめした。
「女の子が連れてこられただろう。どこだ!」
「し、知らねえ」
「言わねえなら切り落とす」
叩きのめしたうちの一人を締め上げ、ナイフを股間に当てた。ぷつっ、と切っ先が布を裂いた。
「わわっ、あっちだ!女の子かは知らねえ!小麦の袋を担いだ奴が、従業員用の部屋に入って行った!」
白状した用心棒を投げ捨て、部屋へ向かう。扉を蹴り上げ、開けた。
そこには、まさに、ベッドの上でココに覆いかぶさる男がいた。
ぎょっ、として身を起こす男を何も言わず素早く殴りつける。
一発殴りつけただけで、男はひいひい言いながら、床に蹲った。プロじゃない。おそらく、こいつも先の領主の親戚だかのご令息なのだろう。
革紐を出して女性兵士にしたように両手と両足を後ろで一緒に縛り上げた。
ぽい、と床に転がして、ようやくココに向きあった。
「クズ野郎がっ!」
ベッドの上で、ココは半裸の状態で横たわっていた。
気を失って、抵抗などするわけもないココの服は、めちゃくちゃに破かれている。
申し訳程度に体にまとわりつく服。
オレは手早くシーツをココの体に巻き付けた。
ココが起きる気配はない。
「──薬を使ったのか?」
クズ野郎を蹴り上げる。
「答えろ!」
ココを抱き上げ、クズ野郎の顔を踏みつけた。
「・・はひ、使いまひた。睡眠薬、れす」
そこまで聞き、部屋を後にした。薬の効いているうちにココの体を清め、医者に診せ、何事もなかったかのように服を着せてやりたかった。
そうさ、それこそが令嬢の過ごし方だ。ヤロー共に混じって鍛錬など正気の沙汰じゃない。──そうは思うものの、ココの姿をもう見ることがなくなるのかと、毎朝やる気が出なくなった。
たまに屋敷の護衛任務に着き、中庭で読書や剣の鍛錬をするココの姿を薔薇の垣根の隙間から見かけると、その日は一日体に力が漲った。
だが、ココはいつも一人だった。
辺境のこの地ではココと交友を結べる貴族は少ない。いや、ほぼいないな。先の領主を追い出しているわけだからなおさらだ。将軍は褒美にこの地をもらっただけで、追い出したのは王だけど。
女性兵士は離れたところで静かに立つだけで、ココと関わろうとはしなかった。
たまに、ココは自分の小さな手のひらに、さらに小さなうさぎのぬいぐるみをのせ、じっと見つめていることがある。そのうさぎが唯一の友だちで、心の中で話しかけている、といったふうに。
そんなココをなんとかしてやりたかったが、その頃の俺に出来ることは何もなかった。
母親と王都に帰してやるのが一番幸せに思えたが、将軍がここの方が安全だと判断したのだからどうしようもない。それに、ココと離れるのは俺も耐えられそうになかった。
せめてもと、ココにストーカーをする兵士や兵士見習いをどんどん捕まえて将軍に突き出してやったが。
そんな時、あの事件は起こったのだ。
将軍は2週間の予定で奥方と第1部隊を連れ、王都に出向いていた。領と屋敷の守りは第2から第5までの部隊と俺達兵士見習いに任された。
将軍はいないが万全の体制だった。確率は低いが他領や他国からの攻めや盗賊等、不測の事態が起きてもどうとでもなる、そう強気でいた。
だから、俺はのんきに構えていたんだ。
夕方、早朝からの町の見回りを終えて寮に戻った。寮は屋敷の敷地内にある。もうこの時間は中庭にいないとわかっていたが、薔薇の垣根から中庭を覗いた。そこにはココの姿はなかった。──だが、ココの護衛についているはずの女性兵士の姿はあった。
「お嬢様はどこだ!」
垣根を突っ切り女性兵士の胸ぐらを掴んだ。
「・・・う、お嬢様は、部屋に」
「だったらなぜお前はここにいるんだ」
「・・・」
「お嬢様はどこだ。──言うまで指を一本ずつ落とす」
ナイフを動きが取れないように固定した女性兵士の小指の付け根に当てた。
「し、知らない!」
「俺は将軍のように優しくはないぜ」
ナイフを握る手に力を込めた。
「・・あ、あ、指が」
女性兵士は先の領主の親戚筋の娘だ。
ココに対する頑なな態度を不思議に思い、独自に調べたのだ。先の領主とその親戚の貴族たちが脱税やらの悪事で捕まった際、やる気があるならと将軍が令嬢や子息たちを引き取ったのだった。
お陰で孤児院育ちの学がない俺だが新聞や法的な書類を読む力がついたぜ。スキルアップだ。
「やめて!言うから!──今頃、ヒースっていう娼館でやられているわ」
頭に一瞬で血がのぼった。
「──なんてことを!」
「あの娘!いまいましいのよ!私が兵士にまで身を落としたっていうのに、いつものんきにして!」
「・・・お前のやったことは逆恨みだ」
手早くいつも持ち歩いている革紐で、女性兵士の両手と両足を繋げて後ろで括り、転がした。こんなのに関わっている時間はない。
馬を調達し、町まで駆けた。
娼館の裏口に乗り付け、押し入る。その勢いで裏口にたむろっていた用心棒共を叩きのめした。
「女の子が連れてこられただろう。どこだ!」
「し、知らねえ」
「言わねえなら切り落とす」
叩きのめしたうちの一人を締め上げ、ナイフを股間に当てた。ぷつっ、と切っ先が布を裂いた。
「わわっ、あっちだ!女の子かは知らねえ!小麦の袋を担いだ奴が、従業員用の部屋に入って行った!」
白状した用心棒を投げ捨て、部屋へ向かう。扉を蹴り上げ、開けた。
そこには、まさに、ベッドの上でココに覆いかぶさる男がいた。
ぎょっ、として身を起こす男を何も言わず素早く殴りつける。
一発殴りつけただけで、男はひいひい言いながら、床に蹲った。プロじゃない。おそらく、こいつも先の領主の親戚だかのご令息なのだろう。
革紐を出して女性兵士にしたように両手と両足を後ろで一緒に縛り上げた。
ぽい、と床に転がして、ようやくココに向きあった。
「クズ野郎がっ!」
ベッドの上で、ココは半裸の状態で横たわっていた。
気を失って、抵抗などするわけもないココの服は、めちゃくちゃに破かれている。
申し訳程度に体にまとわりつく服。
オレは手早くシーツをココの体に巻き付けた。
ココが起きる気配はない。
「──薬を使ったのか?」
クズ野郎を蹴り上げる。
「答えろ!」
ココを抱き上げ、クズ野郎の顔を踏みつけた。
「・・はひ、使いまひた。睡眠薬、れす」
そこまで聞き、部屋を後にした。薬の効いているうちにココの体を清め、医者に診せ、何事もなかったかのように服を着せてやりたかった。
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