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翌日は朝早くに出発することになった。荷物を旅行鞄に詰め、村長に滞在のお礼を言い、屋敷の前に出ると、御者兼護衛兼リーダー(?)のルーさんが馬車と共に絶妙なタイミングで現れた。
「おはようございます。坊っちゃん方」
爽やかに挨拶をして荷物を積み込んでくれる。見た目も中身も男前な人なのだ。
今までどこにいたのかだが、どうやらルーさんにはここドワーフの村に現地妻がいるらしく、ここに来るといつも寝泊まりはそこでしているそうなのだ。
「・・・現地妻」
なんかいやらしい響き。でもちょっと憧れもあるというか・・・。
「坊っちゃん方、現地妻とは失礼な。私はまだ独りもんですよ。普通に馴染みがいる、でいいでしょうが」
荷物を積み込みながら、当人から突っ込みが入った。
ん?そういえば、ここに来てから女性を目にしていないのだが。工房でも村長の屋敷でも、──そうだ、地底でも。
ちなみにトールのお母様は男性だった。
「ドワーフは女性の数が極端に少ないからなあ」
「ルーの相手も、もちろん男だ」
「・・・そう」
ドワーフの男女比率は深刻だな。あれ・・・?んじゃ、テムとトールは誰から産まれたの?というかドワーフ自体。・・・うーん、不思議な話だ。
「ラブラドライト、これ、話していた例のブツだ」
考え込んでいるとトールが大きな皮の鞄を渡してきた。
「れ、れ、例の、って!」
こ、これは“浄化と潤滑、ちょっぴり媚薬”の例のラブグッズ?急速に顔に熱が集まる。
「使い方はメモしておいたからな」
「あ、ありがとう」
本当にありがたいが、こっそり渡してほしかった!すぐ隣でギヴが不思議そうな顔でこちらを見ているんだ。絶対後で聞かれるやつだ。
「それと、これは俺たちからの結婚祝いだべ」
テムからギヴへ、小さなビロードの巾着が渡された。
「これは“命の種”だ。男同士はそのままじゃ子供はできないからな。子供を授かりたくなったらこれを母となる方が飲むといいべ」
「ヤる前が効果的だ」
それって、つまり!男でも妊娠、出産が出来ると?ドワーフに女性がいなくても繁栄している理由が明らかになった。
それで、母となる方が口に、って、オレか?オレだよな?うん、なんかもう諦めた。オレが嫁。掘られる方。
「・・・ありがとう」
すごすぎる贈り物に、口をぱくぱくとするしかできないオレ。だがギヴは感動した面持ちでテムとトールに抱き着いていた。
「必ずまた二人で来いよ!」
「ありがとう!必ずまた来るよ!二人も王都にぜひ遊びに来て!」
そんなふうに、別れを惜しみながらオレたちはドワーフの村を後にした。
「王都に戻ったらすぐ結婚式ですね」
「──だな」
今まであまり結婚に対する実感がなかったのだが、テムとトールの夫婦と接したせいか、トール先生の閨ごとの教えのせいか、ギヴとの結婚をすごく考えてしまう。式の後の生活の方を。
やれやれ、政略結婚で式だけ挙げたら後はお互い自由に、って思っていたんだけどな。今や、二人で幸せになるにはどうしようかなんて考えちゃってるんだ。
結婚はゴールじゃなくてスタートだ、とはホント名言だと思う。
「先ほどトールから渡されていた鞄の中身ですが・・・」
「あ、あれは・・!」
「とても気になりますが聞かないでおきます。あまり詮索して独占欲を出して貴方に嫌われたくない」
「も、もうすぐわかるから!」
「はい」
顔に集まった熱を気付かれないように、窓の方へ顔を向けた。
ああ、いい天気だ。そして、のどかな風景に心が癒やされる。・・・しょ、初夜のことは一旦置いておこう。
「坊っちゃん方~、宿はどうします?」
御者台のルーさんから声が掛かった。
「ラド、色々あって疲れているでしょう?帰りは宿に泊まることにしましょうか?」
ギヴが気遣わしげに言った。
「オレ、平気!式に間に合わなかったら大事だし行きと同じ、野宿で全然いいよ。むしろ楽しいし!」
「ハハハ!了解しました!」
オレたちの会話が聞こえていたのか、豪快な笑い声と共にルーさんが応えた。
「きのこ狩りは任せて」
えへん、と胸を張るオレにギヴも笑う。
──ずっと、自分の生まれを疎ましく、悔しく思ってきた。
貧乏と名ばかりの爵位に押し潰されないよう、誰も寄せ付けず勉強ばかりしてきた。やればやった分、成果も出してきたと思う。
今までの生き方を否定するつもりはないけども。
気付いたんだ。
今まで、一人で長い長いトンネルを歩いていたんだ、ってことに。
トンネルを抜けた先にはギヴがいて、オレと手をつないでくれて。
「しかし、“命の種”を貰えるとは思ってもみませんでした。貴方は本当に彼らに愛されているんですね」
うん、主にエメラルドの瞳がね。
ギヴの話によると“命の種”はドワーフ族の間でもとても貴重なものらしい。テムは次代の長だから優先的に手に入れたのだろう、とのことだ。
そ、そんなに大切なものだったのか・・・。
「ラド、私との間に子をなすことを、貴方はどう思いますか?」
「んー、出産って怖いよ、やっぱり。オレが産む方だろうし」
「・・・それは」
「でも、がんばっちゃおうかなー、って思うよ。ギヴとの間に出来る子だもん。今からすごく会いたいよ」
「ラド・・・!」
「愛してるよ」
オレは感動で打ち震えるギヴにそっと口づけをした。
──まさか、って考え付きもしなかったことが起こる。不安に思うし、立ち止まってしまったりする。
けど、今はそれら全てが幸せに繋がっている、って確信しているんだ。
──そう、例えば、政略結婚で幸せになるとか、ね。
******
完結致しました。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました!
「おはようございます。坊っちゃん方」
爽やかに挨拶をして荷物を積み込んでくれる。見た目も中身も男前な人なのだ。
今までどこにいたのかだが、どうやらルーさんにはここドワーフの村に現地妻がいるらしく、ここに来るといつも寝泊まりはそこでしているそうなのだ。
「・・・現地妻」
なんかいやらしい響き。でもちょっと憧れもあるというか・・・。
「坊っちゃん方、現地妻とは失礼な。私はまだ独りもんですよ。普通に馴染みがいる、でいいでしょうが」
荷物を積み込みながら、当人から突っ込みが入った。
ん?そういえば、ここに来てから女性を目にしていないのだが。工房でも村長の屋敷でも、──そうだ、地底でも。
ちなみにトールのお母様は男性だった。
「ドワーフは女性の数が極端に少ないからなあ」
「ルーの相手も、もちろん男だ」
「・・・そう」
ドワーフの男女比率は深刻だな。あれ・・・?んじゃ、テムとトールは誰から産まれたの?というかドワーフ自体。・・・うーん、不思議な話だ。
「ラブラドライト、これ、話していた例のブツだ」
考え込んでいるとトールが大きな皮の鞄を渡してきた。
「れ、れ、例の、って!」
こ、これは“浄化と潤滑、ちょっぴり媚薬”の例のラブグッズ?急速に顔に熱が集まる。
「使い方はメモしておいたからな」
「あ、ありがとう」
本当にありがたいが、こっそり渡してほしかった!すぐ隣でギヴが不思議そうな顔でこちらを見ているんだ。絶対後で聞かれるやつだ。
「それと、これは俺たちからの結婚祝いだべ」
テムからギヴへ、小さなビロードの巾着が渡された。
「これは“命の種”だ。男同士はそのままじゃ子供はできないからな。子供を授かりたくなったらこれを母となる方が飲むといいべ」
「ヤる前が効果的だ」
それって、つまり!男でも妊娠、出産が出来ると?ドワーフに女性がいなくても繁栄している理由が明らかになった。
それで、母となる方が口に、って、オレか?オレだよな?うん、なんかもう諦めた。オレが嫁。掘られる方。
「・・・ありがとう」
すごすぎる贈り物に、口をぱくぱくとするしかできないオレ。だがギヴは感動した面持ちでテムとトールに抱き着いていた。
「必ずまた二人で来いよ!」
「ありがとう!必ずまた来るよ!二人も王都にぜひ遊びに来て!」
そんなふうに、別れを惜しみながらオレたちはドワーフの村を後にした。
「王都に戻ったらすぐ結婚式ですね」
「──だな」
今まであまり結婚に対する実感がなかったのだが、テムとトールの夫婦と接したせいか、トール先生の閨ごとの教えのせいか、ギヴとの結婚をすごく考えてしまう。式の後の生活の方を。
やれやれ、政略結婚で式だけ挙げたら後はお互い自由に、って思っていたんだけどな。今や、二人で幸せになるにはどうしようかなんて考えちゃってるんだ。
結婚はゴールじゃなくてスタートだ、とはホント名言だと思う。
「先ほどトールから渡されていた鞄の中身ですが・・・」
「あ、あれは・・!」
「とても気になりますが聞かないでおきます。あまり詮索して独占欲を出して貴方に嫌われたくない」
「も、もうすぐわかるから!」
「はい」
顔に集まった熱を気付かれないように、窓の方へ顔を向けた。
ああ、いい天気だ。そして、のどかな風景に心が癒やされる。・・・しょ、初夜のことは一旦置いておこう。
「坊っちゃん方~、宿はどうします?」
御者台のルーさんから声が掛かった。
「ラド、色々あって疲れているでしょう?帰りは宿に泊まることにしましょうか?」
ギヴが気遣わしげに言った。
「オレ、平気!式に間に合わなかったら大事だし行きと同じ、野宿で全然いいよ。むしろ楽しいし!」
「ハハハ!了解しました!」
オレたちの会話が聞こえていたのか、豪快な笑い声と共にルーさんが応えた。
「きのこ狩りは任せて」
えへん、と胸を張るオレにギヴも笑う。
──ずっと、自分の生まれを疎ましく、悔しく思ってきた。
貧乏と名ばかりの爵位に押し潰されないよう、誰も寄せ付けず勉強ばかりしてきた。やればやった分、成果も出してきたと思う。
今までの生き方を否定するつもりはないけども。
気付いたんだ。
今まで、一人で長い長いトンネルを歩いていたんだ、ってことに。
トンネルを抜けた先にはギヴがいて、オレと手をつないでくれて。
「しかし、“命の種”を貰えるとは思ってもみませんでした。貴方は本当に彼らに愛されているんですね」
うん、主にエメラルドの瞳がね。
ギヴの話によると“命の種”はドワーフ族の間でもとても貴重なものらしい。テムは次代の長だから優先的に手に入れたのだろう、とのことだ。
そ、そんなに大切なものだったのか・・・。
「ラド、私との間に子をなすことを、貴方はどう思いますか?」
「んー、出産って怖いよ、やっぱり。オレが産む方だろうし」
「・・・それは」
「でも、がんばっちゃおうかなー、って思うよ。ギヴとの間に出来る子だもん。今からすごく会いたいよ」
「ラド・・・!」
「愛してるよ」
オレは感動で打ち震えるギヴにそっと口づけをした。
──まさか、って考え付きもしなかったことが起こる。不安に思うし、立ち止まってしまったりする。
けど、今はそれら全てが幸せに繋がっている、って確信しているんだ。
──そう、例えば、政略結婚で幸せになるとか、ね。
******
完結致しました。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました!
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