終わる世界と、花乙女。

まえ。

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外伝 フアニータの憂鬱

効かねえな

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失礼なケダモノ。
私が力の使い方を知らないって?

一瞬、怒りで我を忘れそうになって、踏みとどまった。
そうだ。その通りだ。
図星だから腹が立つんだ。

今まで私は、他人ひとと喧嘩する時に花の力を使ったことがない。
使えばちょっと力加減を間違えただけで、相手を殺してしまうから。

まずは、私の攻撃が効かない理由を知らなきゃ。
「金色の力!」
力の方向を揃えて範囲を狭めて、私の力がケダモノにぶつかるようにする。

(効かねえな)
涼しい顔のケダモノ。
ほんとに効いていないみたい。
なぜ?

金色の光の粒子にシンクロしてみる。
相当な勢いで、ケダモノに向かってる。
なのに、その少し手前で見えない壁にぶつかって、いなされてる。

そう。
空気の壁を金色の力に対して斜めに張り、私の花の力をそのまま受け止めていない。

(お前とは頭の出来が違うようだな)
う~!
確かに図星だけどコイツムカつく!

もっと強くマス フエルテ!」
更に出力を上げる。
それに耐えるケダモノが身動きできなくなるくらいの強さ。

手応えがぐにゅぐにゅして、力が定まらない。
空気の壁が私の力をあちこちに散らして、ケダモノの体に届かない。

もっと熱くマス カリエンテ!」
私の、金色の光の粒子がまばゆく輝いた。
太陽の光のイメージ。
ものすごく熱い光の攻撃が、ケダモノに襲いかかった。
なのに。

(やっぱり、効かねえな)
ケダモノは、見下したようにニヤリと笑った。
ケダモノを守る空気の壁が、ぐるぐる回り始めた。

ケダモノは、空気を循環させてる。
ちょうど私の「金色の力」みたいな形の、嵐のような力。
それで「金色の力」の熱を散らして、涼しい顔をしてる。
この私の力を!
許せない!

顔が赤くなってるのが自分でもわかる。
私は、舐められた。
ケダモノごときが私のことを下に見て、ニヤニヤ笑った。

「私を誰か知らないのか?」
(知らねえな、こんな小娘)
「なら教えてやる! 私はフアニータ! 太陽の力を持つフアニータ! これから最強の花乙女になる予定なの!」
(最強、ねえ…)

そのニヤニヤ笑いを消してやる!
私は金色の光の温度を更に上げた。
「焼け死んじゃえ!」
(ちょうどいい火加減だねぇ)

余裕の笑顔がムカつく。
悔しいけど私の花の力は、このケダモノの能力と相性が悪い。どっちかというと最悪。

ケダモノが使う「空気を操る能力」は熱を一瞬で循環させて、冷たい空気に入れ替えてしまう。
だから私がどんなに熱量を増やしても効かない。

だったら!

私は、手に持ったヒマワリをケダモノに投げつけた。
(何のつもりだ?)
ヒマワリはケダモノのすぐ目の前の空中に静止して、そこを中心に金色の光の嵐がぐるぐる周り始めた。

熱すぎるでしょデマシアード カリエンテ?」
ケダモノを中心にした小さな金色の力。
その温度は最上級に上がって、上がって。

(この野郎!)
ケダモノは、目の前の小さなヒマワリを拳で叩き落とそうとしてる。
でも、金色の光の粒子に邪魔されて拳は届かない。

(ちくしょう!)
ケダモノが循環させる、空気の渦。
でも循環させた空気は全部、私の金色の力で熱くなってる。

循環させても循環させても熱い空気しかない、ケダモノにとっては地獄のような熱い環境。
(付き合ってられるか!)
ケダモノは一歩奥に足を踏み入れた。

やられた!

何で、ケダモノが仮想空間に逃げる想定をしていなかったのだろう。
慌てて、私も仮想空間の第一階層に足を踏み入れた。

ケダモノもまだ環境を構築する時間がなかったみたい。
薄暗くて何もない空間。

「逃げるな!」
私ヒマワリを上に投げあげて辺りを照らすと、視界の隅で、ケダモノが走って逃げているのが見えた。

逃がすものか。
空を駆けて、その背中に向かって走る。

(しつこいな!)
「どっちが!」

ケダモノは、また一階層、仮想空間の奥に入った。
止まれぇパラァ!」
叫んだからって止まってくれるわけじゃないけど、叫ばずにいられない。
ケダモノは仮想空間を走り回り、あちこちでもう一階層奥に潜りながら逃げ回る。

もうイヤ!
もうたくさん!

こんな時のための「とっておき」をぶつけてやる!
私は、左手に新しいヒマワリを作り、その花の中にありったけの力を込めた。
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