終わる世界と、花乙女。

まえ。

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外伝 フアニータの憂鬱

あばよ。

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「あばよ」
ケダモノはそう言うと、仮想空間の更に奥に逃げた。
「ま、待て!」
そう言い終わる前に、彼は私の目の前から、すっと消えた。

冷静に考えて、私とケダモノの力の差は大きい。
ケダモノには勝てる可能性がほとんどない。
とすれば、ここで逃げるのも悪くない。
だって、ケダモノの目的は地上の人々を沢山殺すことだから。
私と闘う理由なんてないのだから。

でも、私は違う。
このケダモノを倒さないとメキシコシティーや、他の街の住民がたくさん犠牲になる。

いや、ちょっと違う。
私は、誰よりも私の家族を守りたい。
ケダモノに家族を傷付けられたくない。
そういう不安を、少しでも持ちたくない。
だからこいつは、ここで息の根を止める!

「奥」に、踏み込む。
ケダモノがいる限り、どこまでも追い掛ける!

ものすごい勢いで飛んで逃げる、ケダモノの後ろ姿。
私も花の力で空を飛びながら、その背中に向かって私は特大のヒマワリの花を投げつけた。
これは私が今作れる、めいっぱいのエネルギーを込めた花。

「だあっ!」
ヘトヘトだ。
1キロ以上全力で走った後みたいに、ヘトヘトだ。
これ以上空を飛べなくなって、その場に完全に止まった。
この技は、滅多に使うもんじゃない。
使うとしばらく反撃もできなくなる。

(お前の力も、そこまでか)
ケダモノは空中に止まってこちらを振り返って、ニヤリと笑って見せた。
(ついでにお前とも、これまでだ)

「あなたはもう、逃げられない」
(負け惜しみか? 哀れだな。あばよ)
ケダモノの、その余裕が命取りだった。
私のヒマワリは、金色に輝きながら灼熱の光の粒子をケダモノに向かって放射した。

(あちっ!)
急いで空気の壁を作ってヒマワリを食い止めるケダモノ。
もう遅い。
もう、手遅れ。

命の弾丸バラス デラ ヴィダ!」
私が命令すると、ヒマワリの花の中心から、無数の茶色い弾丸が勢いよく飛び出した。
(弾丸!?)
ケダモノは、その弾丸を全て空気の壁で食い止めた。
残念だけど、どれも当たらなかった。

(種じゃねえか。ヒマワリの)
ケダモノの顔のすぐ前、ヒマワリの弾丸。
「そう。その弾丸はヒマワリの種。そして」

沢山の種から一瞬で芽を出したヒマワリは、見る見る成長して茎と葉を伸ばし、ツボミをふくらませた。

(ま、まさか!)
「そう。そのまさか」
ケダモノの顔の至近距離でヒマワリの花が次々に花開き、それぞれが金色の光の粒子を放った。
金色の力エル ポデール デ オーロ!」
それぞれの花は小さいけど、それぞれケダモノを倒すには充分な熱を放つ。

ケダモノは、至近距離で放たれた金色の光と熱に当たって燃やされ、のたうちながら地面に落ちた。
恨めしげな瞳、私の方に伸ばされた腕。

(なぜ地球人の味方をする!? 誇り高きケンタウルの末裔が、なぜ虫ケラの味方をする!)
「はぁ?」

なぜかこの人の中では私は地球人じゃないみたいなことになってる。
アホらし。
あえて、言ってやる。
あばよアディオス!」

(うわああああっ!)
全身を炎に包まれたケダモノが、のたうちながら苦しみ、暴れ、やがて動かなくなった。
残されたのは真っ黒な死骸。

ケダモノって、死ぬんだ。
まるで人間みたいだ。

とにかく、このケダモノがこれ以上人々を傷付けたり殺したりすることはなくなった。
そこは、良かった。
本当に。

気づけばここは、仮想空間の第32層。
一歩ずつ現実世界に戻るには、かなり体力を使う。

私はヘトヘトになった体を鞭打って一歩ずつ仮想空間を戻り、最後に現実世界に帰ってきた。

「嘘…」
私は、夢中で猛スピードでケダモノを追っ掛けてた。
頭ではわかってても、現実世界に戻った途端、全然知らない森の上空にいることに気付いてびっくりした。
私は地形から今いる場所の大体の見当をつけ、再び空を飛んでヘロヘロになりながらメキシコシティーに帰った。

いつもの大通り、いつもの街角。
でも地上はさっき私が倒したケダモノのせいで普通に歩けないくらいぐちゃぐちゃになっていて、自分の街なのにそうじゃないみたいだった。

嫌な予感がする。
私は急いでアパートに戻った。
そして、一番見たくない風景を見た。
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