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41 初めて聞く言葉
遥が目を開けると、見慣れた天井が見えた。
その瞬間、両目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
――どうして。
慎一の家に行けるのを楽しみにしていたのに。診療所に戻ってきてしまった。
きっと、慎一が運んできてくれたのだろう。
何度も心配そうに聞かれて、「大丈夫」と答えたのに、ダメだった。余計に迷惑をかけてしまった。
もう二度と家に連れて行ってもらえないかもしれない。
ヒクヒクと喉を震わせながら静かに泣いていると、病室の扉が開き、看護師が入って来た。
「あ、遥くん。目が覚めたのね」
泣いている遥の元に来た看護師は、そっと頭を撫でた。
「あらあら……嫌なこと、思い出しちゃったの?」
「あ、あの人は……ヒック……帰り、ましたか……?」
「ん? 如月さん? まだいるわよ。先生に連絡したから、一緒に来ると思うわ」
看護師と話していると、再び病室の扉が開き、康介と慎一が病室に入ってきた。
慎一がベッドの傍まで来てくれると、遥は深く頭を下げた。
「申し訳……ありま、せん」
「――遥くんが、謝ることなんてないよ。私の方こそ、気づかなくてごめんね」
優しく語りかけながら、慎一は遥の顔をそっと上げさせ、抱きしめた。震える遥の背中をゆっくりと撫でる。その温もりに包まれながら、遥は泣き続けた。
やがて遥が顔を上げると、病室にいるのは2人だけになっていた。
「落ち着いたかな?」
「……はい」
チラリと慎一の顔を窺うと、そこには今までと変わらぬ柔らかな笑みが浮かんでいた。
その笑顔に安堵した遥は、静かに息を吐く。
慎一は体を離して椅子に腰かけると、遥の手を握りしめながら、ゆっくりと話を始めた。
「どこか嫌な場所があったのかな? エレベーターが嫌だった?」
「ぼ、ぼく……」
言葉に詰まり俯いてしまった遥に、慎一は優しく話を続ける。
「遥くんには、笑顔でいて欲しいんだ。だから、嫌なことがあったら、どんな些細な事でも教えてくれると嬉しいな」
その言葉に、遥は顔を上げ慎一と目を合わせた。
つながれた手を、ギュッと握りしめる。
初めて聞くような言葉ばかりだった。
朝露が朝日に照らされて輝くように心に優しく沁みこんでくる。でも、触れてしまえば、すぐに消えてしまいそうで、怖くもあった。
何度も口を開くが、遥の口からは吐息だけが漏れる。
「言いたくないことは、言わなくてもいいよ。もし、何も言えなくても、何を聞いたとしても、私が遥くんを嫌いになることは絶対にないから」
いつもの穏やかな口調ではなく、慎一はきっぱりとした声で言い切った。
その声は、遥の心にしっかりと真っ直ぐ届く。
「……僕、自分でもよく分からなくて……でも……」
「うん」
「上に上るのが……嫌で」
「そうだったんだね」
「でも……でも、お家には行きたい、です」
頭の中をうまく整理できないまま、遥はぽつりぽつりと話した。
言っていることがおかしい事は自分でも分かっている。
上には行きたくないのに、上に住んでいる慎一の家に行きたいと言っているのだ。
「高いところが、苦手なのかな」
「……そうだと、思います」
「そうか。教えてくれてありがとう。大丈夫。ちゃんと考えるから。少しだけ、待っていてくれるかな?」
「……はい」
慎一は遥の手を優しく握りしめたまま、変わらない笑顔を見せた。
その瞬間、両目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
――どうして。
慎一の家に行けるのを楽しみにしていたのに。診療所に戻ってきてしまった。
きっと、慎一が運んできてくれたのだろう。
何度も心配そうに聞かれて、「大丈夫」と答えたのに、ダメだった。余計に迷惑をかけてしまった。
もう二度と家に連れて行ってもらえないかもしれない。
ヒクヒクと喉を震わせながら静かに泣いていると、病室の扉が開き、看護師が入って来た。
「あ、遥くん。目が覚めたのね」
泣いている遥の元に来た看護師は、そっと頭を撫でた。
「あらあら……嫌なこと、思い出しちゃったの?」
「あ、あの人は……ヒック……帰り、ましたか……?」
「ん? 如月さん? まだいるわよ。先生に連絡したから、一緒に来ると思うわ」
看護師と話していると、再び病室の扉が開き、康介と慎一が病室に入ってきた。
慎一がベッドの傍まで来てくれると、遥は深く頭を下げた。
「申し訳……ありま、せん」
「――遥くんが、謝ることなんてないよ。私の方こそ、気づかなくてごめんね」
優しく語りかけながら、慎一は遥の顔をそっと上げさせ、抱きしめた。震える遥の背中をゆっくりと撫でる。その温もりに包まれながら、遥は泣き続けた。
やがて遥が顔を上げると、病室にいるのは2人だけになっていた。
「落ち着いたかな?」
「……はい」
チラリと慎一の顔を窺うと、そこには今までと変わらぬ柔らかな笑みが浮かんでいた。
その笑顔に安堵した遥は、静かに息を吐く。
慎一は体を離して椅子に腰かけると、遥の手を握りしめながら、ゆっくりと話を始めた。
「どこか嫌な場所があったのかな? エレベーターが嫌だった?」
「ぼ、ぼく……」
言葉に詰まり俯いてしまった遥に、慎一は優しく話を続ける。
「遥くんには、笑顔でいて欲しいんだ。だから、嫌なことがあったら、どんな些細な事でも教えてくれると嬉しいな」
その言葉に、遥は顔を上げ慎一と目を合わせた。
つながれた手を、ギュッと握りしめる。
初めて聞くような言葉ばかりだった。
朝露が朝日に照らされて輝くように心に優しく沁みこんでくる。でも、触れてしまえば、すぐに消えてしまいそうで、怖くもあった。
何度も口を開くが、遥の口からは吐息だけが漏れる。
「言いたくないことは、言わなくてもいいよ。もし、何も言えなくても、何を聞いたとしても、私が遥くんを嫌いになることは絶対にないから」
いつもの穏やかな口調ではなく、慎一はきっぱりとした声で言い切った。
その声は、遥の心にしっかりと真っ直ぐ届く。
「……僕、自分でもよく分からなくて……でも……」
「うん」
「上に上るのが……嫌で」
「そうだったんだね」
「でも……でも、お家には行きたい、です」
頭の中をうまく整理できないまま、遥はぽつりぽつりと話した。
言っていることがおかしい事は自分でも分かっている。
上には行きたくないのに、上に住んでいる慎一の家に行きたいと言っているのだ。
「高いところが、苦手なのかな」
「……そうだと、思います」
「そうか。教えてくれてありがとう。大丈夫。ちゃんと考えるから。少しだけ、待っていてくれるかな?」
「……はい」
慎一は遥の手を優しく握りしめたまま、変わらない笑顔を見せた。
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