【完結】塔の上のオメガが見る夢は

結城れい

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63 どうして

――あれ?

 やはり番になりたい、と決意して力を抜いた遥の頭の中で、何かが引っ掛かった。

(どうして……どうして、怜二様がしたことを、慎一さんが知ってるの?)

 遥は何も話していない。どんなことをされたのかも、何ひとつ――。

 嫌な汗が背筋を伝い落ちる。

(まさか……やっぱり、動画を、見たの? そんな……)

 絶対に見られたくなかった。怜二が撮った、あの動画を――。
 キーンと耳鳴りがする。頭が締め付けられるように痛い。

「――ん? 遥くん?」
 
 抱きしめていた遥の体が強張ったことに気づき、慎一は慌ててその顔を覗き込んだ。
 遥の顔は血の気を失い蒼白で、今にも壊れてしまいそうだった。

「えっ……どうしたの? さっきの話で、嫌なことを思い出しちゃった?」

 慎一の声には、動揺と心配がにじんでいた。
 遥は何も答えられず、ただ静かに首を横に振った。

 胸の奥がぎゅっと締め付けられる。喉の奥が熱い。
 慎一の心配そうな顔が、滲んで揺れた。

「体調、悪いの? 吐きそう?」

 慎一は片腕で遥の体をしっかりと支えながら、もう片方の手で額や首筋に触れる。
 首を振った拍子に、遥の目尻にたまった涙が頬を伝って零れ落ちた。
 
「――っ、どうが……見たんですか?」
「――ん? 動画?」
「はい、ぼくの……ぼくが……」

 喉がひくりと震え、言葉が続かない。
 自分から聞いておきながら、返事を聞くのが怖くて――遥はぎゅっと目を閉じた。

「――何のことだろう? 遥くんが映ってる動画ってことかな? 見たことないよ」

 その言葉に、遥はパッと顔を上げた。揺れる視界の中で見えた慎一の表情は、本当に知らないように見える。
 混乱しながら、遥は小さな声を絞りだす。

「――えっ、でも……怜二様が、送ったって。それに、慎一さんが知ってるから……」
「ん? 怜二が遥くんを動画で撮って、それを私に送ったと言ってたのかな?」

 こくりと頷いた遥の瞳に、また涙が滲んだ。
 慎一はそんな遥にそっと顔を近づける。
 反射的に目を閉じた遥の瞼に、優しいキスが落ちた。

「泣かないで」

 そう言って慎一はゆっくりと顔を離し、遥をそっと抱きしめる。

「――動画は、本当に撮られていたのかな?」 
「えっ……」

 慎一の言葉に、遥は驚いて大きく瞬きをした。
 本当に撮られていたのかどうか――そんなこと、考えたこともなかった。
 慎一の落ち着いた声に、耳を傾ける。

「カメラ――スマホかな? それを向けられたのかな?」
「……はい」

 震える遥の背中を優しく撫でながら、慎一は静かに問いを重ねる。

「『撮った動画を私に送った』って、言われたんだね?」
「……はい」
「その動画を、自分の目で見た?」
「……見てないです」
「私に送ったって言われたとき、送信画面は見せられた?」
「見てないです」

 慎一の問いに答えていくうちに、遥も次第に違和感に気づいた。
 あの時、「送った」と言われたのに、実際には届いていない動画。
 もし本当に送られていたのなら、これだけ時間がたっているのだ、もうとっくに慎一が見ているはずだ。

 本当に、動画は撮られていたのだろうか?
 あのときの遥は、恐怖と絶望でいっぱいで、何も疑えなかった。でも、今なら落ち着いて考えることができる。

「遥くんを怖がらせるために、撮って送ったと――嘘をついたのかもしれないね」
「……そうかも、しれません」

 怜二なら、やるだろう。
 遥を苦しめるために怜二が嘘をつくなど、想像にかたくない。
 
 動画は撮られておらず、慎一に送られてないし、これからも送られる心配はない――。
 そう確信した遥は、ようやく体から力を抜き、慎一の胸へそっと身を預けた。

「よかったです。慎一さんには、絶対に見て欲しくなかったんです……」

 心の底から安堵の吐息を漏らした遥に、慎一は、光の宿らない瞳をそっと瞼の裏に隠して、「うん」と頷いた。
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