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そういうのいいから
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私もメルも、目の前に立つ美青年に唖然とした。たしかに彼は、黒猫だったはず。
黒猫だったはずなのに、今は私より少し上……十七、八くらいに見える青年(少年?)だ。
異国の衣装を身に着け、金色の瞳をしている。
メルの様子をうかがうと、顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせている。それぐらいイケメンなのだ。
イケメンは言った。
「僕の名前はココア・ム・サハン。小さな島国の王子です。船でこの国を訪れたとき、悪い魔女に黒猫の姿に変えられてしまったのです。高貴な身分の若い女性のキスで、元の姿に戻るのです。おかげで元の姿に戻れました。もしよろしければ、僕と一緒に国にいらっしゃいませんか。元に戻してくれたお礼に、ぜひ妃に迎えたい」
長い説明だった。ええと、たしかにこの国には悪い魔女がいて、たまに悪さを働いて困っているって、ワオンが言っていたけど。本当にいたんだ、魔女。
というか、今、私求婚されてる? 妃って。
「僕と一緒に国にゆきましょう。美しい人」
「あ、そういうのいいです。私は当分、猫でいいので」
ココアというイケメンが差し出した手を取らずに、私は首を振った。可愛い黒猫だと思ったのに、人間とか。がっかり。猫が減った。
「ええっ。だ、だけど貴方は婚約破棄されたんでしょう? 猫の姿で僕、聞いてましたよ」
ココアはうろたえる。断られると思ってなかったんだろう。丁寧な振りしてすごい自信家だ。
「婚約破棄されたっていうより、そう仕向けたんです。私はまだ十六ですし、しばらく実家で猫たちを吸って過ごします」
「ぼ、僕の国だって、猫はいますよ」
「今はイケメンはいらないっていうか。イケニャンならいいけど」
「そんな」
ココア王子は美しい顔を歪め、ショックを受けたように数歩後ずさる。そこで、私のとなりにちょこんと座っているメルにはじめて気がついたようだ。
メルをじっと見つめると、
「その純粋な瞳……美しい」
と言い、今度はメルに手を差し出した。おいおい。
♦♦♦
それからひと月が経ち、ワオンに新たな婚約者が決まったと風のうわさで聞いた。
メルは、ココアと恋人同士になり、二人で異国に渡った。
時折届く手紙によると、婚約者となり、幸せでいっぱいらしい。私の口元も思わずほころぶ。メルと離れるのはさみしいけれど、妹同然に思っていた彼女の幸せは、私の幸せだ。喜ばずにはいられない。
私は猫ライフを満喫している。ワオンとの日々を思い出す暇もないほど、猫の世話で忙しい。
忙しいけど幸せ。
猫に囲まれる幸せ。猫は猫のままでいいの。それだけで可愛い。
当分、このままでいいや。
終わり。
黒猫だったはずなのに、今は私より少し上……十七、八くらいに見える青年(少年?)だ。
異国の衣装を身に着け、金色の瞳をしている。
メルの様子をうかがうと、顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせている。それぐらいイケメンなのだ。
イケメンは言った。
「僕の名前はココア・ム・サハン。小さな島国の王子です。船でこの国を訪れたとき、悪い魔女に黒猫の姿に変えられてしまったのです。高貴な身分の若い女性のキスで、元の姿に戻るのです。おかげで元の姿に戻れました。もしよろしければ、僕と一緒に国にいらっしゃいませんか。元に戻してくれたお礼に、ぜひ妃に迎えたい」
長い説明だった。ええと、たしかにこの国には悪い魔女がいて、たまに悪さを働いて困っているって、ワオンが言っていたけど。本当にいたんだ、魔女。
というか、今、私求婚されてる? 妃って。
「僕と一緒に国にゆきましょう。美しい人」
「あ、そういうのいいです。私は当分、猫でいいので」
ココアというイケメンが差し出した手を取らずに、私は首を振った。可愛い黒猫だと思ったのに、人間とか。がっかり。猫が減った。
「ええっ。だ、だけど貴方は婚約破棄されたんでしょう? 猫の姿で僕、聞いてましたよ」
ココアはうろたえる。断られると思ってなかったんだろう。丁寧な振りしてすごい自信家だ。
「婚約破棄されたっていうより、そう仕向けたんです。私はまだ十六ですし、しばらく実家で猫たちを吸って過ごします」
「ぼ、僕の国だって、猫はいますよ」
「今はイケメンはいらないっていうか。イケニャンならいいけど」
「そんな」
ココア王子は美しい顔を歪め、ショックを受けたように数歩後ずさる。そこで、私のとなりにちょこんと座っているメルにはじめて気がついたようだ。
メルをじっと見つめると、
「その純粋な瞳……美しい」
と言い、今度はメルに手を差し出した。おいおい。
♦♦♦
それからひと月が経ち、ワオンに新たな婚約者が決まったと風のうわさで聞いた。
メルは、ココアと恋人同士になり、二人で異国に渡った。
時折届く手紙によると、婚約者となり、幸せでいっぱいらしい。私の口元も思わずほころぶ。メルと離れるのはさみしいけれど、妹同然に思っていた彼女の幸せは、私の幸せだ。喜ばずにはいられない。
私は猫ライフを満喫している。ワオンとの日々を思い出す暇もないほど、猫の世話で忙しい。
忙しいけど幸せ。
猫に囲まれる幸せ。猫は猫のままでいいの。それだけで可愛い。
当分、このままでいいや。
終わり。
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