男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

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 ユリアンはフェリクスのその場しのぎの言葉に勇気づけられたようで「そうか……それもそうだな! 俺がビアンカを信じないでどうする」と自分で自分を鼓舞しだした。

「ありがとう、フェリシア! いや、フェリクス君!」

 こいつまで抱きついて来ないだろうな、とフェリクスは身構えたが、ユリアンは抱きつく代わりにフェリクスの肩をポンと叩いただけだった。

「お前は貴族学校にいたころから、本当に変わらないな! その姿もよく似合っている」

「ありがとうございます」

 女の姿よりも男の姿が似合っている、と言われても、フェリクスは何とも思わなかった。事実、自分にいわゆる女らしさは皆無だと思っていた。
 可愛いものや、甘いものにも興味がないし、結論が出ないおしゃべりも得意じゃない。女のくせに理論的、合理的で、可愛げがないと言われたこともある。
 自分では別に感情がないわけではないと思っているが、感情よりいつも理論が勝ってしまう、という自覚はフェリクスにはあった。
 現に今、金の使い込みの発覚を恐れて、ミランの惚れ薬作りにつき合っている。同じ女としてなら、惚れ薬を飲まされる立場のマルガレーテに同情し、ミランの不届きな行動に憤怒すべきなのに。

 それはそれ、これはこれと、割り切ってしまう自分がいる……。

 気がかりが払しょくされ(兄弟そろって単純だ)軽い足取りで立ち去っていくユリアンを見送ると、フェリクスはミランを探した。

「フェリクス殿。兄上は、なんて?」

 離れた柱の陰から顔を出したミランは、心配そうにフェリクスの顔をうかがった。そういう顔をすると、本当に子供みたいだ、とフェリクスは思う。

「ミラン殿下。ご心配なく。いつものノロケです。さあ、薔薇を探しに行きましょう」

「ノロケかあ~。ユリアン兄上とビアンカ嬢は本当に仲がいいからな。私もマルガレーテとあんなふうになりたいなあ。そのためには……」

 だからなんでそこで「惚れ薬」なんだ。向こうは(本当は気乗りしなくても)婚約にOKしてくれたんだからそれでいいじゃないか。
 フェリクスは本気でそう思っていた。

 ――十五分後。

 フェリクスとミランは、二百年前エルドゥ王国建国のときに初代王が、王国の繁栄を願って祈りを捧げ植えた薔薇が咲いているという、王宮内の森の前に立っていた。
 王族が住まう王宮の敷地は広い。ここからさらに森の中を進むのかと思うとフェリクスはげんなりした。

「飛びましょう、ミラン殿下」

 フェリクスはミランに提案した。「私につかまって下さい。空から薔薇を探しましょう」
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