男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

文字の大きさ
9 / 94

9

しおりを挟む
 森から少し離れた所にある小屋へと、フェリクスは、蜂に刺されて見るも無残なお顔になったミランを運んだ。
 ミランの右手にはしっかりと真っ赤な薔薇の花が握られていた。彼は、マルガレーテ! と連呼しながら、蜂の大群に突っ込んで、薔薇の花をもぎ取ってきたのだった。
 しばしあっけにとられたフェリクスだったが、あわてて浮遊魔法でミランを救出したというわけだった。

 何という無茶な王子だ。無鉄砲すぎる。愚か者という言葉がぴったりだ。

 フェリクスはミランを簡素なベッドに仰向けに寝かせた。
 小屋は、森を管理する者の休憩所か何かかと思われたが、治癒薬や、魔力を増幅させる道具などは見当たらなかった。あまり使われていないのかも知れない。フェリクスもまさか薔薇の花を摘んでくるだけでこんなことになるとは思わなかったので、何も持ってこなかった。こうなったら自身の魔力だけでミランを治癒しなければならない。
 フェリクスは自分のグローブを外して、素手でミランの顔を包み込み、治癒魔法をかけた。

 以前のお顔と少し違った顔になったらどうしよう……。

 こんなになってまで惚れ薬を作りたいのだろうか。まだ誰かを好きになったことがないフェリクスには理解できなかった。

「うう……」

「ミラン殿下、気づかれましたか」

 ミランは薄目を開けた。まだ顔がだいぶ腫れているので、フェリクスはミランの顔を両手ではさんだままだ。

「フェリクス殿……ば、薔薇は……?」

「殿下が持っておられますよ。一輪あれば大丈夫です」

「そ、そうか」

 ミランは笑おうとして顔が痛むのか、うめき声を上げた。

「殿下、今お顔を治癒しておりますから、どうか動かないで下さい」

「フェリクス殿の手は柔らかいな。それに、女のようにすべすべしてる……」

 ミランはフェリクスの手のひらに顔をすり寄せた。

 そりゃあ女ですから、と、フェリクスは心の中で答えた。そうか、私は手は女らしいのか。175センチある身長と、広い肩幅で、男装していなくても遠目からは男に間違われることも多かったのに。

 治癒を終え、ミランの顔はなんとか元通りになった。フェリクスはグローブをはめながら、ミランに聞いた。

「次は王家に連なる者の愛の証、ですよ。ミラン殿下、とりあえず一旦王宮内に戻って……」

 そこまで言い終えて、フェリクスはふらつき床に膝をついてしまった。

「フェリクス殿!」

「大丈夫です、ミラン殿下。少し魔力を使いすぎただけです。すぐに回復しますので」

 体内の魔力をもとにして魔法を使うと、精神力を消耗してしまうのだ。

「魔力を持った人間は、魔力が極端に減ると、体の調子が不安定になるらしいね」

 ミランはそう言って、さっとフェリクスの横に跪くと、フェリクスの腕を自分の肩に回した。

「ミラン殿下、よくご存じで」

 魔力を体内に持つ人間は、魔力が生命力と繋がっているらしく、魔力の増減が体の調子にかかわるのだ。生まれつきではなく、途中から魔力が目覚めたフェリクスにとっては、今も少し慣れない感覚だ。

「フェリクス殿、一旦王宮の戻ろう。大丈夫、僕には『王家に連なる者の愛の証』に心当たりがある。一人で調達してくるから、君は少し休むといい。……すまなかった、僕のために。ありがとう」

 ミランはフェリクスのすぐ隣で、切れ長の目を伏せた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます

藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。 彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。 直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。 だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。 責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。 「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」 これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...