男装魔法師団団長は第三王子に脅され「惚れ薬」を作らされる

コーヒーブレイク

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 森から少し離れた所にある小屋へと、フェリクスは、蜂に刺されて見るも無残なお顔になったミランを運んだ。
 ミランの右手にはしっかりと真っ赤な薔薇の花が握られていた。彼は、マルガレーテ! と連呼しながら、蜂の大群に突っ込んで、薔薇の花をもぎ取ってきたのだった。
 しばしあっけにとられたフェリクスだったが、あわてて浮遊魔法でミランを救出したというわけだった。

 何という無茶な王子だ。無鉄砲すぎる。愚か者という言葉がぴったりだ。

 フェリクスはミランを簡素なベッドに仰向けに寝かせた。
 小屋は、森を管理する者の休憩所か何かかと思われたが、治癒薬や、魔力を増幅させる道具などは見当たらなかった。あまり使われていないのかも知れない。フェリクスもまさか薔薇の花を摘んでくるだけでこんなことになるとは思わなかったので、何も持ってこなかった。こうなったら自身の魔力だけでミランを治癒しなければならない。
 フェリクスは自分のグローブを外して、素手でミランの顔を包み込み、治癒魔法をかけた。

 以前のお顔と少し違った顔になったらどうしよう……。

 こんなになってまで惚れ薬を作りたいのだろうか。まだ誰かを好きになったことがないフェリクスには理解できなかった。

「うう……」

「ミラン殿下、気づかれましたか」

 ミランは薄目を開けた。まだ顔がだいぶ腫れているので、フェリクスはミランの顔を両手ではさんだままだ。

「フェリクス殿……ば、薔薇は……?」

「殿下が持っておられますよ。一輪あれば大丈夫です」

「そ、そうか」

 ミランは笑おうとして顔が痛むのか、うめき声を上げた。

「殿下、今お顔を治癒しておりますから、どうか動かないで下さい」

「フェリクス殿の手は柔らかいな。それに、女のようにすべすべしてる……」

 ミランはフェリクスの手のひらに顔をすり寄せた。

 そりゃあ女ですから、と、フェリクスは心の中で答えた。そうか、私は手は女らしいのか。175センチある身長と、広い肩幅で、男装していなくても遠目からは男に間違われることも多かったのに。

 治癒を終え、ミランの顔はなんとか元通りになった。フェリクスはグローブをはめながら、ミランに聞いた。

「次は王家に連なる者の愛の証、ですよ。ミラン殿下、とりあえず一旦王宮内に戻って……」

 そこまで言い終えて、フェリクスはふらつき床に膝をついてしまった。

「フェリクス殿!」

「大丈夫です、ミラン殿下。少し魔力を使いすぎただけです。すぐに回復しますので」

 体内の魔力をもとにして魔法を使うと、精神力を消耗してしまうのだ。

「魔力を持った人間は、魔力が極端に減ると、体の調子が不安定になるらしいね」

 ミランはそう言って、さっとフェリクスの横に跪くと、フェリクスの腕を自分の肩に回した。

「ミラン殿下、よくご存じで」

 魔力を体内に持つ人間は、魔力が生命力と繋がっているらしく、魔力の増減が体の調子にかかわるのだ。生まれつきではなく、途中から魔力が目覚めたフェリクスにとっては、今も少し慣れない感覚だ。

「フェリクス殿、一旦王宮の戻ろう。大丈夫、僕には『王家に連なる者の愛の証』に心当たりがある。一人で調達してくるから、君は少し休むといい。……すまなかった、僕のために。ありがとう」

 ミランはフェリクスのすぐ隣で、切れ長の目を伏せた。
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