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――街は、平日の昼前とあって、とてもにぎやかというわけではなかった。
しかしさすがは王都。
エルドゥ王国で一番栄えている場所だ。
大小の店が立ち並び、人々が行きかい、大通りを、魔力を動力とする乗り物が次々に走り去って行く。
フェリクスは路面車を利用した。
複数の人々を乗せ、通りに敷かれている軌道上を走行する乗り物だ(路面電車だと思って下さい)。
普段、仕事のときは魔法師団の専用車で移動するから、公共の乗り物を利用するのは、久しぶりだった。貧乏貴族令嬢だったフェリクスは、送り迎えなどなく、魔法学校の学生だったときは、これで毎日、自宅から通学していた。
路面車の揺れが心地いい。三日前、魔物と戦っていたなんて、嘘みたいだ。
フェリクスは、座席が空いているにも関わらず、あえて立って、窓の外に流れる風景を見ていた。
緩やかに時間が流れていく……。
「ねえ、この前の映像配信、見た? フェリクス様の団長就任式!」
背後から、甲高い女性の声がした。突然自分の名前が飛び出し、フェリクスは硬直する。
「見た見た! 最後のパフォーマンス、アクシデントかと思って、びっくりしたよね」
そっと後ろを窺うと、フェリクスより少し年上かと思われる女性二人が並んで座席に座り、盛り上がっていた。
「ミラン王子があんなところから登場するとは思わなかったよね」
「ねー。王子もパフォーマンスに参加するなんて、びっくりしちゃった。この前成人したから、見せ場をつくったのかな」
「フェリクス様はガチで倒れてたように見えたけど……あれも演技なのかな?」
「倒れたとき、ミラン王子がとっさに受け止めて、リステアード王子も駆けつけて、正直フェリクス様姫かよ、って思った」
「わかるー」
路面車が到着すると、フェリクスは逃げるように降りて、脱兎のごとくその場から立ち去った。穴があったらそのまま入って、埋もれてしまいたい。
精神的ダメージを受けたフェリクスは、リボンの購入を後回しにして、大型書店にやってきた。ここで本を買って、併設するカフェで読みながら心を落ち着かせよう……そう思った。
雑誌コーナーに「月刊・魔法師団通信」が目に入ったが、ちらりと見ただけで通り過ぎる。表紙はひと月ほど前に撮影したものだ。微笑むフェリクスを中心に、団員たちが決めポーズを炸裂させている。ミラン殿下のへんてこな踊り……もとい、下手なジェスチャーのおかげで、なんとか自然な笑顔をつくることができたんだったな、とフェリクスは文芸書コーナーをうろつきながらふと思い返した。
あのときは、惚れ薬の材料もすぐに揃って、ミラン殿下との関係もすぐに終わるものだと思っていた。
マルガレーテ嬢には悪いけれど、私は失職したくないので、使い込みの発覚の方を恐れた。リステアード王太子が元団長だったり、ユリアンが元同級生だとしても、雇われ師団の私にとって、王族とは、やはりどこか遠い存在だった。
それが今は……。
ミラン殿下は勝手に団長室に来るし、毎朝剣術の訓練を一緒にしている。
それが、すごく……。
――すごく、なんだろう……。
いやいやいや、こんなところで考え込んでちゃ通行人の邪魔だ。はやく本を選ぼう。
好みの文芸書を手に取ったフェリクスの目に、ふと隣の文具コーナーが映る。
そうだ、実家に手紙でも書くか。
しかしさすがは王都。
エルドゥ王国で一番栄えている場所だ。
大小の店が立ち並び、人々が行きかい、大通りを、魔力を動力とする乗り物が次々に走り去って行く。
フェリクスは路面車を利用した。
複数の人々を乗せ、通りに敷かれている軌道上を走行する乗り物だ(路面電車だと思って下さい)。
普段、仕事のときは魔法師団の専用車で移動するから、公共の乗り物を利用するのは、久しぶりだった。貧乏貴族令嬢だったフェリクスは、送り迎えなどなく、魔法学校の学生だったときは、これで毎日、自宅から通学していた。
路面車の揺れが心地いい。三日前、魔物と戦っていたなんて、嘘みたいだ。
フェリクスは、座席が空いているにも関わらず、あえて立って、窓の外に流れる風景を見ていた。
緩やかに時間が流れていく……。
「ねえ、この前の映像配信、見た? フェリクス様の団長就任式!」
背後から、甲高い女性の声がした。突然自分の名前が飛び出し、フェリクスは硬直する。
「見た見た! 最後のパフォーマンス、アクシデントかと思って、びっくりしたよね」
そっと後ろを窺うと、フェリクスより少し年上かと思われる女性二人が並んで座席に座り、盛り上がっていた。
「ミラン王子があんなところから登場するとは思わなかったよね」
「ねー。王子もパフォーマンスに参加するなんて、びっくりしちゃった。この前成人したから、見せ場をつくったのかな」
「フェリクス様はガチで倒れてたように見えたけど……あれも演技なのかな?」
「倒れたとき、ミラン王子がとっさに受け止めて、リステアード王子も駆けつけて、正直フェリクス様姫かよ、って思った」
「わかるー」
路面車が到着すると、フェリクスは逃げるように降りて、脱兎のごとくその場から立ち去った。穴があったらそのまま入って、埋もれてしまいたい。
精神的ダメージを受けたフェリクスは、リボンの購入を後回しにして、大型書店にやってきた。ここで本を買って、併設するカフェで読みながら心を落ち着かせよう……そう思った。
雑誌コーナーに「月刊・魔法師団通信」が目に入ったが、ちらりと見ただけで通り過ぎる。表紙はひと月ほど前に撮影したものだ。微笑むフェリクスを中心に、団員たちが決めポーズを炸裂させている。ミラン殿下のへんてこな踊り……もとい、下手なジェスチャーのおかげで、なんとか自然な笑顔をつくることができたんだったな、とフェリクスは文芸書コーナーをうろつきながらふと思い返した。
あのときは、惚れ薬の材料もすぐに揃って、ミラン殿下との関係もすぐに終わるものだと思っていた。
マルガレーテ嬢には悪いけれど、私は失職したくないので、使い込みの発覚の方を恐れた。リステアード王太子が元団長だったり、ユリアンが元同級生だとしても、雇われ師団の私にとって、王族とは、やはりどこか遠い存在だった。
それが今は……。
ミラン殿下は勝手に団長室に来るし、毎朝剣術の訓練を一緒にしている。
それが、すごく……。
――すごく、なんだろう……。
いやいやいや、こんなところで考え込んでちゃ通行人の邪魔だ。はやく本を選ぼう。
好みの文芸書を手に取ったフェリクスの目に、ふと隣の文具コーナーが映る。
そうだ、実家に手紙でも書くか。
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