上 下
3 / 4

3

しおりを挟む
「これで良かったのですか。占術士様」

 ルルーは石造りのとても広い空間で、一人の青年に尋ねた。女性のように綺麗で、細身な体をしたこの青年は、大きなベッドに横たわりながら、静かに頷いた。

「上出来ですよ、ルルー伯爵令嬢。これでこの国に災いをもたらすアレン王太子は消える。弟君が、代わりに王太子となるでしょう」

 ここは王城の地下にある、占術士専用の部屋である。国の重要人物であるこの青年は、先の占術士だった女性から占術士の力を受け継ぐと同時に、ずっとここで暮らしている。生活は一生保証され、外出も出来るが、常に誰かの監視下に置かれた生活だった。

 ルルーは一週間前王の命令でこの場所に呼ばれた。はじめて目にする占術士の青年は綺麗だったけれど、人形のように表情がなかった。

「貴方に一芝居打ってもらいたいのです」

 立ち尽くすルルーに青年はそう言った。何でも近いうちにアレン王太子が「ルルー伯爵令嬢と婚約破棄するために嘘の占いをでっちあげろ」と青年を脅しにやってくると占いに出たらしい。

 アレンがメノウという子爵令嬢と隠れて愛し合っていると知ったルルーはショックを受けたが、メノウがアレンを誘惑するように仕向けたのも、占いの結果だそうだ。

 占いにそう出たのなら、仕方がない、とルルーは思った。占いは絶対だ。

 占術士の青年によると、アレンがこの国の王になると、国に災いが起こり、国が滅亡するという。それを回避するには、占いに出たとおりにするしかない。
 具体的には、ルルーと婚約破棄し、再び自分を脅してメノウと婚約者になったアレンは、メノウへの婚約指輪を買いに行く途中、人さらいに襲われてよその国に売られ、散々な目に合い、二度とウラーナ王国に足を踏み入れることはない、晴れてウラーナ王国の滅亡は免れる、という筋書きなのだとか。

 そんなまどろっこしいことをしなくても、アレンを王太子から外せば大丈夫なんじゃないかと思うかもしれないが、それではいけないのだ。占いの順序には従わなくてはならない。

「だからルルー様、婚約破棄を受け入れたフリをしてください」

 占術士の青年は唇を引き上げた。笑ったつもりらしい。

「俺も『アレン王太子に脅されて、嘘の占いをでっち上げる気弱な占術士』を演じますから。すべては占いのとおりにするために」
しおりを挟む

処理中です...