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転生勇者と魔剣編
第三十話 王都ティマイオ(5)
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ガタッと何かが倒れる音がした。
見ると、ラヴォワが椅子を跳ね飛ばして立ち上がっていた。
「……ベヒモス?」
そう言った声は、震えていた。
瞳孔を見開き、顔は愕然とした顔のまま固まっていた。普段無表情であるラヴォワからすれば、かなり珍しい反応だった。
そんな様子のラヴォワを、さして気にする様子も無く、枢機卿長は彼女に向けて答えた。
「その通り、ベヒモスです。ベヒモスが遠くない将来復活する。確かな事実です」
「そんな……あり得ない!」
今度もまた珍しく声を荒らげている。額からは汗をかき、異常なほど動揺しているのが容易に見て取れた。
「ベヒモスが復活なんて、絶対無い! そんなことがあったら……」
「まあ落ち着きなさい。きちんと説明致しますから」
枢機卿長にそう制され、ラヴォワはようやく冷静になったらしく再び腰を下ろした。レッドたちは置いてけぼりである。
「あの……失礼ですが、ベヒモスとはいったい……?」
そう問うと、枢機卿長はわざとらしいリアクションをして、
「おっと、失礼しました。説明するのが先でしたね。ですが――名前自体は皆さんも聞いた事があるのでは?」
そう、今度はレッドにではなく、他の勇者パーティや、こちらも知らなかったらしいスケイプに尋ねてきた。
「ベヒモス……というと……」
「あの御伽噺に出てくる伝説の魔物の事よね?」
「あ、それ僕も聞いた事あります。五百年前に聖剣の勇者様が倒した魔物だって。たしか、『沼地の魔物』という別名があるとか」
ベヒモス。
亜人のアレンでも知るくらい、その魔物の名は伝説として知られていた。
五百年前、まだ魔王が倒されておらず、世界が魔物により支配されていた時代。
その頃には魔王に限らず、人々を苦しめる恐ろしい魔物がいくつもいたという。
ベヒモスもその一つであり、『沼地の魔物』と称される名の通り、主に川や湖など水場に生息すると伝承にはあった。
姿は現在の生物だとカバに近く、四足歩行の肥満体型に、巨大な顎を持っていると多くの書物では記されている。ベヒモスの肉体そのものも大きく、あのブルードラゴンの五倍もあるという。その巨体から繰り出される圧倒的な力は、山をも簡単に砕くとされた。
何よりも恐ろしいのは、その食欲だ。
ベヒモスが通った後は、何も残らないと言われるほどの貪欲さ。森も山も、どんな動物も人間も、魔物すら手あたり次第食い尽くす凄まじいまでの食欲。世界全てを食らうとまで伝承では語られるほど恐ろしい魔物だった。
「で、でもあれは伝説じゃ……」
「そりゃ、魔王と聖剣の勇者が御伽噺じゃなかったわけだし、ベヒモスだって実在してたって変じゃないけど、さ」
「だとしても、復活とはどういうことです? 伝説では、ベヒモスは聖剣の勇者によって倒されたはずでは?」
レッドが言うまでも無く、そんなことはベヒモスの伝説を知る誰もが知っていることだった。そもそも、ベヒモスの名は聖剣の勇者の伝説とセットになって語られるものであるのだから。
しかし、そんな当然の常識を、枢機卿長はあっさりと否定してみせる。
「それは嘘です。実際には、ベヒモスは討伐されておりません」
「嘘……ですか?」
「まあ嘘というのも正しくはありませんがね。正確には、ベヒモスを倒し切れなかった、ということです。聖剣の勇者様でも、完全に殺せなかった。そのため、当時の勇者様と仲間たちはベヒモスを封印しました」
「封印? どこにですか?」
そう尋ねると、枢機卿長は傍にいた神官に、くるまれた一枚の大きな紙を取り出させた。
テーブルに大きく広げられた紙は巨大な地図であり、王都ティマイオ周辺を描いたものだった。
枢機卿長はその中の、大きな湖を指差した。
「この湖の、底の方に沈んでいます。ベヒモスは伝承通り五十メートルはある巨体ですから、それを丸ごと封印するためにはこれくらいの巨大湖でないと叶いませんでした。もう一つ、ベヒモスは水棲生物だったため、封印する場所としては都合が良かったのでしょう」
淡々と語る枢機卿長に対して、ラヴォワを除く勇者パーティ四人は言葉を失っていた。
無理もなかった。枢機卿長が示したその場所は、
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
枢機卿長の説明に口出しをしたのは、今まで居場所無さげにしていたスケイプだった。
「何を仰っているのですか、この場所は……!」
そう言って彼も、地図にある湖の場所を指差し、絶叫する。
「我が王都ティマイオの、目の前ではないですか!」
その通りだった。
枢機卿長が示したその場所は、王都からさほど離れてもいない、どころか歩きでも一日程度で辿り着けるであろう所にある聖なる湖、ヘスペリテ湖だったのだ。
五百年前、後に聖剣の勇者にしてアトール王国初代国王の王妃となる聖女様が、神託を受けて禊ぎを行った場所と語られていて、神聖な場所として王族のみが出入りを許される聖地にして、世界でも五本の指に入るほどの大きさを誇る湖でもある。
そんな目と鼻の先ほどの距離しかない場所に、最悪の魔物の一つとして称されるベヒモスが眠っている。あまりに信じがたいことだ。
「ど、どうしてそんな王都の目の前に、ベヒモスを封印したのですか? ベヒモスを丸ごと沈められる湖なら、他にもありますけど……」
「そもそも、そんなところに王都なんて建てないでしょ。仮に先に王都建てたって、普通は逃げるわよ」
全くマータの言う通りであった。そんな伝説級の魔物が生きて眠っている場所に、国の王や民が住まう都を作るなんて、正気の沙汰ではない。まともな人間なら、そう考えるだろう。
だが、そんな批判は予想済みであったろう枢機卿長は、戸惑う者たちにフッと笑いかけると説明を続けた。
「当然、危険なことは承知しております。ですが、必要なことだったのです。――王都を、王国を守護する結界魔術を形成するためにはね」
「結界魔術、だって?」
思わずそう聞き返してしまった。
王国を守護する結界魔術とは、ラルヴァ教がアトール王国全土に張り巡らせている超大規模結界魔術のことだろう。公道を介して王国の主要な都市に伝わり、その地を守護する役割を担っている。
この超大規模結界魔術はアトール王国に限るが、ラルヴァ教の各教会はこの結界魔術を形成する地としても利用されており、教会のある地は魔物の被害が少ないためラルヴァ教の教会は世界のあちこちに点在している。
そしてアトール王国の超大規模結界魔術は、教皇猊下と神官たちの祈りによって作られている、とされているが、なんと目の前にいるラルヴァ教のナンバー2はそれを完全に否定したのだ。
「え、ちょっと待ってください。王国の結界は教皇猊下が作ってるんじゃ……」
「あらま、それも嘘だって言うの?」
「嘘――とは言い過ぎですがね。教皇様が為されているのは、ベヒモスの魔力に方向性を持たせることです」
「方向性だって?」
またしても意味不明の単語が出てきたことにこちらが困っていると、枢機卿長は「はい」と言って、また地図上のヘスペリテ湖を指差した。
「このヘスペリテ湖に封印されているベヒモスは、封印されているとはいえ非常に高い魔力を有しています。教皇様はその魔力に指向性を与え、結界を形成する魔力に変換し、国内に送っているのです。それが、アトール王国における超大規模結界魔術の正体です」
そうさらっと言ってのけたが、この場にいた知らない面々からすれば驚きの内容だった。
まさかアトール王国とラルヴァ教の力の象徴とも呼ぶべき超大規模結界魔術が、世界を滅ぼしかけた魔物から生み出されているとは想像もつかなかった。確かにこれは、何としても隠し通しておきたい内容だろうとレッドは納得する。
「そのために、王都とラルヴァ教教団の総本山であるレムール大神殿は、ベヒモスの近くに作らねばなりませんでした。結界魔術を形成するためもありますが、この結界魔術はベヒモス自身を封印するものでもあるからです。ヘスペリテ湖を王族以外近づけるのを禁止したのも、ベヒモスの監視を行うためでした。そうやって、この国は五百年間維持されてきたのです」
ここまで説明されれば、皆が理解できた。
ベヒモスが王都のすぐそばで封印されていた理由。今まで完全に抹殺しなかった理由。すべてはこの体制を守るためだったのだと。
しかし、だからこそ、また理解できないことが生まれてしまった。
「んん……? ちょっと待ってくれ。話を聞いてると、そのベヒモスとかいう魔物が封印されてたなんてみんな知ってたんだろ? なんで今更こんな大騒ぎしてるんだ?」
なんてロイは聞いてきた。ロイは頭が悪いせいかたとえ目上の相手でも、敬語を忘れて喋る癖があり、その様に近衛騎士団の団長が眉をひそめたが、内容自体は間違っていないため咎めるのは止めたようだった。
確かに、王国も教団も、ベヒモスのことを認知して、しかもその存在を利用してきた。ならば今時その存在をどうこうなど言わないはずだ。通常ならば。
であるなら、考えられるのは一つしかなかった。
「――先ほど、ベヒモスが復活すると仰いましたよね? するとつまり、もはやベヒモスの封印は維持できなくなってしまっている、ということで宜しいですか?」
レッドの問いに、ロイは驚きで目を見開いた。
もっとも、他の面々はそのことを既に考えついていたため、驚愕したのは彼だけだったが。
「――その通りです。ベヒモスを監視する神官から、ここ最近明らかにベヒモスの力が増大していると報告がありました。恐らく魔王復活に伴う邪気の発生が影響していると思われますが、詳細は不明です。が、ベヒモスの復活はそう遠くない未来に必ず発生する、そう我々は推測しました」
その推測に、国王含む国の重鎮たちも神妙な面持ちになる。当たり前であろう。
封印され五百年経ってもなお、王国全体を伝わるほどの結界魔術を行えるほどの膨大な魔力。そんな魔物が復活したとなればその力はいかほどのものか。どれほど低く見積もっても、あのブルードラゴンより下というのはあり得ないはずだとレッドは思った。
「もうお分かりですね、勇者様方。あなたがたにお越しいただいた理由が」
そう言うと、枢機卿長はまた紅茶を一口含め、少しの間味を堪能した後、こう宣言した。
「皆様には、ベヒモス討伐作戦に参加していただきます」
見ると、ラヴォワが椅子を跳ね飛ばして立ち上がっていた。
「……ベヒモス?」
そう言った声は、震えていた。
瞳孔を見開き、顔は愕然とした顔のまま固まっていた。普段無表情であるラヴォワからすれば、かなり珍しい反応だった。
そんな様子のラヴォワを、さして気にする様子も無く、枢機卿長は彼女に向けて答えた。
「その通り、ベヒモスです。ベヒモスが遠くない将来復活する。確かな事実です」
「そんな……あり得ない!」
今度もまた珍しく声を荒らげている。額からは汗をかき、異常なほど動揺しているのが容易に見て取れた。
「ベヒモスが復活なんて、絶対無い! そんなことがあったら……」
「まあ落ち着きなさい。きちんと説明致しますから」
枢機卿長にそう制され、ラヴォワはようやく冷静になったらしく再び腰を下ろした。レッドたちは置いてけぼりである。
「あの……失礼ですが、ベヒモスとはいったい……?」
そう問うと、枢機卿長はわざとらしいリアクションをして、
「おっと、失礼しました。説明するのが先でしたね。ですが――名前自体は皆さんも聞いた事があるのでは?」
そう、今度はレッドにではなく、他の勇者パーティや、こちらも知らなかったらしいスケイプに尋ねてきた。
「ベヒモス……というと……」
「あの御伽噺に出てくる伝説の魔物の事よね?」
「あ、それ僕も聞いた事あります。五百年前に聖剣の勇者様が倒した魔物だって。たしか、『沼地の魔物』という別名があるとか」
ベヒモス。
亜人のアレンでも知るくらい、その魔物の名は伝説として知られていた。
五百年前、まだ魔王が倒されておらず、世界が魔物により支配されていた時代。
その頃には魔王に限らず、人々を苦しめる恐ろしい魔物がいくつもいたという。
ベヒモスもその一つであり、『沼地の魔物』と称される名の通り、主に川や湖など水場に生息すると伝承にはあった。
姿は現在の生物だとカバに近く、四足歩行の肥満体型に、巨大な顎を持っていると多くの書物では記されている。ベヒモスの肉体そのものも大きく、あのブルードラゴンの五倍もあるという。その巨体から繰り出される圧倒的な力は、山をも簡単に砕くとされた。
何よりも恐ろしいのは、その食欲だ。
ベヒモスが通った後は、何も残らないと言われるほどの貪欲さ。森も山も、どんな動物も人間も、魔物すら手あたり次第食い尽くす凄まじいまでの食欲。世界全てを食らうとまで伝承では語られるほど恐ろしい魔物だった。
「で、でもあれは伝説じゃ……」
「そりゃ、魔王と聖剣の勇者が御伽噺じゃなかったわけだし、ベヒモスだって実在してたって変じゃないけど、さ」
「だとしても、復活とはどういうことです? 伝説では、ベヒモスは聖剣の勇者によって倒されたはずでは?」
レッドが言うまでも無く、そんなことはベヒモスの伝説を知る誰もが知っていることだった。そもそも、ベヒモスの名は聖剣の勇者の伝説とセットになって語られるものであるのだから。
しかし、そんな当然の常識を、枢機卿長はあっさりと否定してみせる。
「それは嘘です。実際には、ベヒモスは討伐されておりません」
「嘘……ですか?」
「まあ嘘というのも正しくはありませんがね。正確には、ベヒモスを倒し切れなかった、ということです。聖剣の勇者様でも、完全に殺せなかった。そのため、当時の勇者様と仲間たちはベヒモスを封印しました」
「封印? どこにですか?」
そう尋ねると、枢機卿長は傍にいた神官に、くるまれた一枚の大きな紙を取り出させた。
テーブルに大きく広げられた紙は巨大な地図であり、王都ティマイオ周辺を描いたものだった。
枢機卿長はその中の、大きな湖を指差した。
「この湖の、底の方に沈んでいます。ベヒモスは伝承通り五十メートルはある巨体ですから、それを丸ごと封印するためにはこれくらいの巨大湖でないと叶いませんでした。もう一つ、ベヒモスは水棲生物だったため、封印する場所としては都合が良かったのでしょう」
淡々と語る枢機卿長に対して、ラヴォワを除く勇者パーティ四人は言葉を失っていた。
無理もなかった。枢機卿長が示したその場所は、
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
枢機卿長の説明に口出しをしたのは、今まで居場所無さげにしていたスケイプだった。
「何を仰っているのですか、この場所は……!」
そう言って彼も、地図にある湖の場所を指差し、絶叫する。
「我が王都ティマイオの、目の前ではないですか!」
その通りだった。
枢機卿長が示したその場所は、王都からさほど離れてもいない、どころか歩きでも一日程度で辿り着けるであろう所にある聖なる湖、ヘスペリテ湖だったのだ。
五百年前、後に聖剣の勇者にしてアトール王国初代国王の王妃となる聖女様が、神託を受けて禊ぎを行った場所と語られていて、神聖な場所として王族のみが出入りを許される聖地にして、世界でも五本の指に入るほどの大きさを誇る湖でもある。
そんな目と鼻の先ほどの距離しかない場所に、最悪の魔物の一つとして称されるベヒモスが眠っている。あまりに信じがたいことだ。
「ど、どうしてそんな王都の目の前に、ベヒモスを封印したのですか? ベヒモスを丸ごと沈められる湖なら、他にもありますけど……」
「そもそも、そんなところに王都なんて建てないでしょ。仮に先に王都建てたって、普通は逃げるわよ」
全くマータの言う通りであった。そんな伝説級の魔物が生きて眠っている場所に、国の王や民が住まう都を作るなんて、正気の沙汰ではない。まともな人間なら、そう考えるだろう。
だが、そんな批判は予想済みであったろう枢機卿長は、戸惑う者たちにフッと笑いかけると説明を続けた。
「当然、危険なことは承知しております。ですが、必要なことだったのです。――王都を、王国を守護する結界魔術を形成するためにはね」
「結界魔術、だって?」
思わずそう聞き返してしまった。
王国を守護する結界魔術とは、ラルヴァ教がアトール王国全土に張り巡らせている超大規模結界魔術のことだろう。公道を介して王国の主要な都市に伝わり、その地を守護する役割を担っている。
この超大規模結界魔術はアトール王国に限るが、ラルヴァ教の各教会はこの結界魔術を形成する地としても利用されており、教会のある地は魔物の被害が少ないためラルヴァ教の教会は世界のあちこちに点在している。
そしてアトール王国の超大規模結界魔術は、教皇猊下と神官たちの祈りによって作られている、とされているが、なんと目の前にいるラルヴァ教のナンバー2はそれを完全に否定したのだ。
「え、ちょっと待ってください。王国の結界は教皇猊下が作ってるんじゃ……」
「あらま、それも嘘だって言うの?」
「嘘――とは言い過ぎですがね。教皇様が為されているのは、ベヒモスの魔力に方向性を持たせることです」
「方向性だって?」
またしても意味不明の単語が出てきたことにこちらが困っていると、枢機卿長は「はい」と言って、また地図上のヘスペリテ湖を指差した。
「このヘスペリテ湖に封印されているベヒモスは、封印されているとはいえ非常に高い魔力を有しています。教皇様はその魔力に指向性を与え、結界を形成する魔力に変換し、国内に送っているのです。それが、アトール王国における超大規模結界魔術の正体です」
そうさらっと言ってのけたが、この場にいた知らない面々からすれば驚きの内容だった。
まさかアトール王国とラルヴァ教の力の象徴とも呼ぶべき超大規模結界魔術が、世界を滅ぼしかけた魔物から生み出されているとは想像もつかなかった。確かにこれは、何としても隠し通しておきたい内容だろうとレッドは納得する。
「そのために、王都とラルヴァ教教団の総本山であるレムール大神殿は、ベヒモスの近くに作らねばなりませんでした。結界魔術を形成するためもありますが、この結界魔術はベヒモス自身を封印するものでもあるからです。ヘスペリテ湖を王族以外近づけるのを禁止したのも、ベヒモスの監視を行うためでした。そうやって、この国は五百年間維持されてきたのです」
ここまで説明されれば、皆が理解できた。
ベヒモスが王都のすぐそばで封印されていた理由。今まで完全に抹殺しなかった理由。すべてはこの体制を守るためだったのだと。
しかし、だからこそ、また理解できないことが生まれてしまった。
「んん……? ちょっと待ってくれ。話を聞いてると、そのベヒモスとかいう魔物が封印されてたなんてみんな知ってたんだろ? なんで今更こんな大騒ぎしてるんだ?」
なんてロイは聞いてきた。ロイは頭が悪いせいかたとえ目上の相手でも、敬語を忘れて喋る癖があり、その様に近衛騎士団の団長が眉をひそめたが、内容自体は間違っていないため咎めるのは止めたようだった。
確かに、王国も教団も、ベヒモスのことを認知して、しかもその存在を利用してきた。ならば今時その存在をどうこうなど言わないはずだ。通常ならば。
であるなら、考えられるのは一つしかなかった。
「――先ほど、ベヒモスが復活すると仰いましたよね? するとつまり、もはやベヒモスの封印は維持できなくなってしまっている、ということで宜しいですか?」
レッドの問いに、ロイは驚きで目を見開いた。
もっとも、他の面々はそのことを既に考えついていたため、驚愕したのは彼だけだったが。
「――その通りです。ベヒモスを監視する神官から、ここ最近明らかにベヒモスの力が増大していると報告がありました。恐らく魔王復活に伴う邪気の発生が影響していると思われますが、詳細は不明です。が、ベヒモスの復活はそう遠くない未来に必ず発生する、そう我々は推測しました」
その推測に、国王含む国の重鎮たちも神妙な面持ちになる。当たり前であろう。
封印され五百年経ってもなお、王国全体を伝わるほどの結界魔術を行えるほどの膨大な魔力。そんな魔物が復活したとなればその力はいかほどのものか。どれほど低く見積もっても、あのブルードラゴンより下というのはあり得ないはずだとレッドは思った。
「もうお分かりですね、勇者様方。あなたがたにお越しいただいた理由が」
そう言うと、枢機卿長はまた紅茶を一口含め、少しの間味を堪能した後、こう宣言した。
「皆様には、ベヒモス討伐作戦に参加していただきます」
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