The Dark eater ~逆追放された勇者は、魔剣の力で闇を喰らいつくす~

紫静馬

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闇の王国と光の魔物編

第二十四話 雷鳴轟く時(2)

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「うわあぁっ!」

 レッドが、その閃光に飲み込まれそうになった瞬間、
 彼の足は勝手に動き、横へ飛び跳ねた。

 今さっきまでレッドがいた空間に、黄色い稲妻のような光が走り抜ける。
 狙いを外れた稲妻は、空洞の壁に命中し、大きく抉り取っていった。

「な、なんだよ今の!?」

 レッドが唖然としていると、ジンメも叫ぶ。

『あっぶねえなあ、僕がいなきゃ消滅してたぞ!』
「ジンメ、なんなんだあれは!」

 ジンメに劣らぬ声量を張り上げて聞くと、ジンメは解説を始めた。

『あれはサイクロプスの雷鳴波さ! サイクロプスは目から雷系魔術のような稲妻を出せるんだよ!』
「おい、サイクロプスは大したことない魔物だったんじゃないのか!?」
『そりゃ、『光の魔物』に比べれば数段劣るさ。でもあいつだって伝説の魔物だもん、強いに決まってるだろ。昔は『雷の魔物』って呼ばれてたんだから』
「最初に言え! ってうわぁ!」

 なんて騒いでいたら、再び雷鳴が襲ってきたので、慌てて避ける。

「ふは、ふはははは、あーはっはっはっはっは!」

 そんな怪物が恐ろしい閃光を放つ中、場違いなほど愉快な爆笑をする声が響いた。
 言うまでもなく、その化け物の操り手、サーシャ・ウィルマン……いや、サーシャ・クリティアスだった。

「なんだ、やるじゃありませんの、サイクロプスでも」

 そう笑い、加虐的な笑顔を こちらへ向けてくる。

「光の魔物じゃなかったのは残念ですが、この際構いませんわ! 王都を滅ぼすのは無理でも、あなたを殺すことは可能ですもんねえ!」
「くっ……!」

 サーシャは愉悦に浸った瞳で、サイクロプスに命ずる。

「さあ伝説の怪物よ、我が敵を滅ぼしなさい!」

 サーシャに使役されているサイクロプスは、また瞳を輝かせてこちらへ攻撃しようとしてくる。

「う、うわああぁぁぁっ!」
「!?」

 そこに、突如悲鳴が起こった。
 見ると、なんとザダたちが座り込んだままその場に残っていたのだ。

「ば、馬鹿とっとと逃げろ!」

 レッドがそう叫ぶものの、どうも腰を抜かしているらしく立てないらしい。

 その様に、サーシャはぐにゃりと歪んだ笑みを零すと、
 サイクロプスをレッドにではなく、ザダたちに向けた。

「! くそっ!」

 レッドは全力で駆け、両者の間に飛ぶ。
 瞬間、雷鳴が襲いかかってきた。

「ぐうううぅぅっ!」

 レッドは魔剣を盾にして、雷鳴から防御する。
 雷鳴からは凌げたものの、後方へ弾かれ地面に打ち付けられる。

「あら、意外とお優しいのねレッド様」
「このアマ……!」

 今の攻撃は、別にザダたちを殺そうとしたわけではない。彼ら新貴族派など、もはやサーシャにとって不用だろう。殺す必要すらない。
 単に、レッドをからかいたかっただけだ。

『人がいいにも、程があるよ馬鹿』
「――以後反省する」

 一言呟くと、ザダたちの方を向いて叫ぶ。

「お前ら、今度は助けてやんないからな! とっとと逃げろ!」
「う、うわああぁぁぁっ!」

 レッドの怒声で、彼らは泣きながら逃げていった。

「さて――本番で宜しいですか?」
「ああ、その通りだ……なっ!」

 そう声を張り上げると、他ならぬサイクロプスが発する光で生まれた影に、魔剣を突き刺した。

「鎧着っ!」

 その呪文を唱えた瞬間、影から飛び出した黒き鎧は、レッドを包む。
 そして瞬きする暇すらなく、漆黒の騎士が現れた。

「それが……黒き鎧……」

 サーシャは驚いたような、感心したような声を漏らす。

「驚いたな。王国は隠蔽したというのに、こいつを知ってたか」
「とある人物から情報を得まして」
「そうかい。でも――こいつの実力は知ってるか!」

 レッドは、黒き鎧の翼をはためかせ、サイクロプスに飛びかかる。

「なっ……!」

 あまりの速度に、サーシャは対応しきれなかった。驚きのまま、命令することを忘れてしまう。
 なんら対処できない無防備のサイクロプスに、黒き鎧の凶刃が迫る。

「取った!」

 勝った。そう確信し、レッドは魔剣をサイクロプスの顔面に振り下ろす。
 そのまま刃が伝説の魔物を両断する――かに思われたが、

「!? ぐわっ!」

 突如、真横から激しい衝撃が襲いかかる。
 まるではたかれた羽虫のように、レッドは吹っ飛ばされ、空洞内の外壁に叩きつけられる。

「つぅ……な、なんだ?」

 幸い、黒き鎧の優れた防御力で、痛いことを除けば大したダメージはない。
 が、何が起きたか分からなかったレッドが視線をサイクロプスに向けると、

「あ……!」

 そこには、驚きの光景があった。

 サイクロプスの左手が、持ち上げられ中空で止まっている。恐らく、あれで裏拳の容量ではたいたに違いなかった。
 しかし、驚きなのはそこではなかった。

「え……?」

 操っているはずのサーシャ当人が、ポカンとしているのだ。
 まるで、自らの手足が勝手に動いたことを驚いているように。

「どうなってるんだ、あれ……?」
『――やっぱり、完全に制御できてはいないようだね』

 何が何だか分からないレッドに対し、ジンメはそう答える。

『所詮、彼女が使ってるのは魔術で無理矢理再現しただけの使役テイムさ。いくら魔石を使おうが、本能レベルも完全掌握可能な魔物使いビーストテイマーのそれとは具合が違いすぎる。限度ってものがあるんでしょ』

 それは一見、僥倖に聞こえた。
 敵にも付け入る隙があるというのは、本来は吉報のはずである。
 しかし、

「――本能レベルで、相手の攻撃に対処できるってだけじゃな」
『むしろ面倒だよねえ』

 その程度しか逆らえないのであれば、何の意味もない。却って戦いづらいだけだった。
 何より、使役している相手がそこまで細かい制御を望んでいないというのが問題である。

「――ふふ、ふふふふふ……!」

 一瞬呆気にとられていたサーシャだったが、大体の事情を把握するとすぐに元気になった。

「いいでしょう、こちらもサイクロプスを永遠に使おうなんて思ってませんわ。だって――
 あなた一人殺せればいいんですものね、レッド・H・カーティス!!」

 そう歓喜の叫びを行うと、サイクロプスの瞳をこちらに向け直す。

「今度こそ殺す、お兄様の仇っ!」
「くっ……!」

 また輝き出した黄色い瞳が、閃光を放つ瞬間ギリギリで躱そうとしたが、

「……んっ!?」

 その時、ふいにサイクロプス周辺に散りばめられた魔石が紫色に輝いたと思えば、
 全ての光が鋭い槍と化し、サイクロプスのその身を貫いた。
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