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第一章 さようなら日本、こんにちは異世界
第14話 これからのこと
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『お世話になります』
「分かりました。では、準備が出来次第、ご案内致しますので今暫くそちらでお待ち下さい。では」
橋口は守からの通話を終えると、今度は雇い主への報告の為にスマホを操作し「もしもし……はい、ではその様に。失礼します」とそれだけ告げると顔を上げる。
「これから、忙しくなりますが……楽しくもありますね。ふふふ」
橋口は更にスマホで「もしもし、私です。はい、そうです。……ええ、頼みます。では、お願いします」とだけ伝えると、スマホをバッグにしまうと椅子から立ち上がる。
「五分くらいでしょうか」
橋口は左手に着けている腕時計を見ながら、そう呟くと地下の遺体安置所へと向かう。
遺体安置所の中では、守が美千代と史織を抱きしめ、陽太は泣くのをなんとか堪えようと歯を食いしばり両手をギュッと握りしめ両足を踏ん張って立っていた。
橋口が入って来たのに気付いた守は美千代と史織をソッと自分から引き離すと、橋口に対し軽く頭を下げる。
橋口も守に対し軽く頭を下げると「お参りさせてください」と守達に断り直樹が納められている棺に近付くと両手を合わせ頭を下げる。
「ありがとうございます」
「……では、早速ですがよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「え? あなた、どういうことなの?」
「相談もせずに勝手に決めたことは謝る。だが、今はこの人に縋るしかないんだ。文句なら後でいくらでも聞くから、頼む」
「……分かったわ。でも、せめて理由だけでも聞かせてくれないかしら」
「ああ、そうだな。陽太達も聞いてくれ。あのな……」
守は今、警察署の前にマスコミが集まっていることと、恐らく自宅の前にもマスコミが見張っているらしいと美千代達に話す。そして、それらの面倒ごとから助けてくれるのが、今自分達の目の前にいる橋口弁護士だと告げる。
「……どうして、私達は被害者なのに」
「奥さん、被害者のご家族だからなんです」
「どういうことですか?」
美千代の呟きに応えた橋口の言葉に美千代は理解出来ず、橋口に聞き返すと、橋口も言葉を続ける。
「ワイドショーなどを見る人達は加害者に対する怒りは覚えても共感することは難しいのですが、被害者、それもご家族となれば簡単に自分や自分達の家族に置き換えることで共感出来るので、自然と興味を持つのです。なので、直樹君のご家族である皆様もその興味の対象として、どの様に悲しんでいるのかと、その様子を見てみたいとなるのです」
「そんな……それじゃ、私達は単なる興味の対象として世間に晒されるのですか?」
「はい。このまま何もしなければ……そうなります」
「「「……」」」
橋口の言葉に美千代の目を見ながら守は黙って頷くと「俺も直樹の様に皆を守りたいんだ」と口にする。
「だけど、今の俺の力じゃ、それも適わない。だから、今は橋口さんに手伝ってもらうと決めた。お前達に迷惑を掛けると思ったが、晒し者にされるよりはマシだと思う。だから、今は俺に着いて来てくれ。頼む」
「あなた……」
「「お父さん!」」
美千代、陽太、史織が守に抱き着くと、守はそれを肯定と受け取り「ありがとう、ありがとう」と繰り返す。
『コンコンコン』と遺体安置所の扉がノックされ、日下部警部が顔を覗かせると、霊柩車が来ましたと告げると、その後ろには葬儀社の者らしき二人が控えていた。
「分かりました。では、池内様」
「はい、お願いします。お前達も直樹に挨拶して」
「「「……」」」
守は橋口に促されると美千代と子供達に直樹に対し、しばしのお別れの挨拶をするように言う。
直樹への挨拶を済ませたのを確認した橋口は葬儀社の二人に対し頭を下げお願いすると、その担当者も直樹へ両手を合わせてから、棺を運び出す準備を始める。
「日下部さん。後でお聞きしたいことがあります。よろしいですか?」
「……分かりました」
遺体安置所での様子を見ていた日下部警部に対し橋口がそっと近付き小声で確認すると、日下部警部もなんとなく橋口が聞きたいことがなんなのかと見当を付ける。多分、今世間を賑わせているあの映像のことだろうと。
遺体安置所から直樹の棺が運び出されると、橋口が口を開く。
「では、日下部警部。これからは私が池内様の代理人となりますので、池内様へのご連絡は先ずは私を通すようにお願いします」
「分かりました」
「よろしくお願いします。では、池内様参りましょう」
「はい、よろしくお願いします」
「「「お願いします」」」
守が橋口に対し頭を下げると美千代達も橋口に頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくお願いします。では、参りましょう」
「「「はい」」」
「刑事さん、お世話になりました」
「池内さん、まだ何も分かっていない状況ですが、何か分かりましたら必ずご連絡致しますので」
「はい、よろしくお願いします」
もう一度、日下部警部に対し守達が頭を下げると、日下部警部も頭を下げる。そして橋口を先頭に守達が遺体安置所を出て行ったのを確認してから「さてと、先ずは自殺ではなく転落死だったと訂正することから始めないとな」と呟く。
「分かりました。では、準備が出来次第、ご案内致しますので今暫くそちらでお待ち下さい。では」
橋口は守からの通話を終えると、今度は雇い主への報告の為にスマホを操作し「もしもし……はい、ではその様に。失礼します」とそれだけ告げると顔を上げる。
「これから、忙しくなりますが……楽しくもありますね。ふふふ」
橋口は更にスマホで「もしもし、私です。はい、そうです。……ええ、頼みます。では、お願いします」とだけ伝えると、スマホをバッグにしまうと椅子から立ち上がる。
「五分くらいでしょうか」
橋口は左手に着けている腕時計を見ながら、そう呟くと地下の遺体安置所へと向かう。
遺体安置所の中では、守が美千代と史織を抱きしめ、陽太は泣くのをなんとか堪えようと歯を食いしばり両手をギュッと握りしめ両足を踏ん張って立っていた。
橋口が入って来たのに気付いた守は美千代と史織をソッと自分から引き離すと、橋口に対し軽く頭を下げる。
橋口も守に対し軽く頭を下げると「お参りさせてください」と守達に断り直樹が納められている棺に近付くと両手を合わせ頭を下げる。
「ありがとうございます」
「……では、早速ですがよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「え? あなた、どういうことなの?」
「相談もせずに勝手に決めたことは謝る。だが、今はこの人に縋るしかないんだ。文句なら後でいくらでも聞くから、頼む」
「……分かったわ。でも、せめて理由だけでも聞かせてくれないかしら」
「ああ、そうだな。陽太達も聞いてくれ。あのな……」
守は今、警察署の前にマスコミが集まっていることと、恐らく自宅の前にもマスコミが見張っているらしいと美千代達に話す。そして、それらの面倒ごとから助けてくれるのが、今自分達の目の前にいる橋口弁護士だと告げる。
「……どうして、私達は被害者なのに」
「奥さん、被害者のご家族だからなんです」
「どういうことですか?」
美千代の呟きに応えた橋口の言葉に美千代は理解出来ず、橋口に聞き返すと、橋口も言葉を続ける。
「ワイドショーなどを見る人達は加害者に対する怒りは覚えても共感することは難しいのですが、被害者、それもご家族となれば簡単に自分や自分達の家族に置き換えることで共感出来るので、自然と興味を持つのです。なので、直樹君のご家族である皆様もその興味の対象として、どの様に悲しんでいるのかと、その様子を見てみたいとなるのです」
「そんな……それじゃ、私達は単なる興味の対象として世間に晒されるのですか?」
「はい。このまま何もしなければ……そうなります」
「「「……」」」
橋口の言葉に美千代の目を見ながら守は黙って頷くと「俺も直樹の様に皆を守りたいんだ」と口にする。
「だけど、今の俺の力じゃ、それも適わない。だから、今は橋口さんに手伝ってもらうと決めた。お前達に迷惑を掛けると思ったが、晒し者にされるよりはマシだと思う。だから、今は俺に着いて来てくれ。頼む」
「あなた……」
「「お父さん!」」
美千代、陽太、史織が守に抱き着くと、守はそれを肯定と受け取り「ありがとう、ありがとう」と繰り返す。
『コンコンコン』と遺体安置所の扉がノックされ、日下部警部が顔を覗かせると、霊柩車が来ましたと告げると、その後ろには葬儀社の者らしき二人が控えていた。
「分かりました。では、池内様」
「はい、お願いします。お前達も直樹に挨拶して」
「「「……」」」
守は橋口に促されると美千代と子供達に直樹に対し、しばしのお別れの挨拶をするように言う。
直樹への挨拶を済ませたのを確認した橋口は葬儀社の二人に対し頭を下げお願いすると、その担当者も直樹へ両手を合わせてから、棺を運び出す準備を始める。
「日下部さん。後でお聞きしたいことがあります。よろしいですか?」
「……分かりました」
遺体安置所での様子を見ていた日下部警部に対し橋口がそっと近付き小声で確認すると、日下部警部もなんとなく橋口が聞きたいことがなんなのかと見当を付ける。多分、今世間を賑わせているあの映像のことだろうと。
遺体安置所から直樹の棺が運び出されると、橋口が口を開く。
「では、日下部警部。これからは私が池内様の代理人となりますので、池内様へのご連絡は先ずは私を通すようにお願いします」
「分かりました」
「よろしくお願いします。では、池内様参りましょう」
「はい、よろしくお願いします」
「「「お願いします」」」
守が橋口に対し頭を下げると美千代達も橋口に頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくお願いします。では、参りましょう」
「「「はい」」」
「刑事さん、お世話になりました」
「池内さん、まだ何も分かっていない状況ですが、何か分かりましたら必ずご連絡致しますので」
「はい、よろしくお願いします」
もう一度、日下部警部に対し守達が頭を下げると、日下部警部も頭を下げる。そして橋口を先頭に守達が遺体安置所を出て行ったのを確認してから「さてと、先ずは自殺ではなく転落死だったと訂正することから始めないとな」と呟く。
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