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序章

第13話 呼ばれたのは俺だけですか

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ソルトがドワーフの若者達に給湯、給水の方法を教えてやってもらうとなんの問題もなく扱うことが出来た。
「じゃあ、あとはお任せしますね。くれぐれも汚いまま浴槽に浸かるのだけは、やめてもらってくださいね」
「分かった」
「そんやつは許さねえ」
「そんなに入りたきゃ、浴槽にそのまま沈めてやるわ。ガハハ」
ソルトはちょっと不安になるが、体を『ドライ』を使って乾燥させると、女将のところへと向かうためにと、まずは受付に行き女将に取り次いでもらう。
「ご案内しますね」
そう言って受付のお姉さんが先に歩き女将さんのところまで案内してもらう。
一階の奥の部屋の前まで行くとお姉さんが軽くノックをしてから、返事を待つ。
「入りな」
「失礼します」
受付のお姉さんの後に続いて、ソルトも部屋の中へと入る。

「まあ、座りな。あ、エリス。あんたも一緒に聞いとくれ」
「はい」
ソルトがソファに座るとなぜかその横にエリスと呼ばれた受付のお姉さんが座る。

最初に女将が切り出す。
「まずは風呂の件だが、あれはどうやって作ったんだい? 私はてっきり、あんたが木材を持ち込んで作るもんだと思っていたが、ちょっと裏庭の様子を見たら、もう出来てるじゃないか。なあ、あれはどうやったんだい?」
「あれは信じてもらえるかは分かりませんが、俺のスキルで作りました」
「な! あんたは魔道士かなにかかい?」
「いえ、単なる迷子ですよ」
「随分と落ち着いた迷子だね。で、帰る手段はあるのかい?」
「いえ、それはさっぱりで。今日は村に着いたのが遅かったので、明日から探してみようかと考えています」
「そうかい、まあ、それは好きにやってもらうとしてだ。風呂の礼だがいくら用意すればいい?」
「え?」
「だから、いくら払えば譲ってくれるのかと聞いているんだよ」
「譲るもなにも、あそこはここの宿の敷地でしょ?」
「なんだい、ただでくれるってのかい?」
ソルトは宿代を出してくれたゴルドのことを思い出す。
「いえ、出来ればゴルドさんが用立ててくれた宿代と食事代を持っていただければと思います」
「それだけかい?」
「はい、あとは自分でなんとかしますんで」
「聞いたかい? エリス」
「はい。見事なまでに世間知らずな方だと思います」
「本当にそうだね」
「あの、話が見えないんですけど?」
ソルトが女将とエリスの話す内容についていけずに困惑していると女将が嘆息し話しだす。

「あのね、坊や。あんな家みたいな風呂をポンと作れる奴がいたら、国はなんとしてでも押さえつけて言うことを聞かせようと躍起になるだろうね」
「そうなんですか?」
「ああ、そうだ。そういうことも分からないなんて、坊やの国はよほど平和なんだね」
「ええ、そうですね」
「だけど、ここではそんなもんじゃ明日一日生きるだけでも大変だよ」
「そうですね、特にお連れの女性はなにも考えてないようですので、明日には連れ去られ、明後日には娼館で働いていることでしょう」
「そうだね、エリスの言うように傷害なんてのは当たり前で、誘拐、殺人に謀略、裏切りなんて珍しいものでもない。そんな世間にあんた達をそのまま放つのは、こっちとして考えるってもんさ。ゴルドにも頼まれたしね」
ソルトは確かにラノベで読んだ通りの世界なら、女将の言う通りの油断ならない世界だろうと考える。ソルト一人ならなんとか出来る自信もあるが、レイはエリスの言うように少し考えが足りない気がする。なら、放っておけばいいのだろうが、それも出来ないでいる自分がいる。森の中では何度も置いて行こうとしたと思えるかもしれないが、頼る相手がいないレイはそのまま付いてくるだろうとは思っていた。そして村に着いたら、別れようと。
だが、レイは元来の楽天的な考え方しか出来ないようで、見ている方がハラハラしてしまう。
ソルトは嘆息し女将を見る。

「そこでだ。あのお風呂の代わりといっちゃあなんだが、当分は部屋代、食事代はいらないよ。まあ、それだとこっちが払いすぎる分もあるから、たまに頼み事を聞いてもらえればいい。どうだい? 悪い話じゃないと思うが」
「その、お願いというのは?」
「そうさね、そんなに身構える必要はないさ。ただ、あの風呂に使っているような道具を作ってもらったりとかそういう類だと思ってくれればいいから」
「はあ、分かりました。こちらには大きな損はないと思うので、よろしくお願いします」
「そうかい、よかったよ。なら、明日はエリスに冒険者ギルドに連れていってもらって、登録してきな。冒険者になれば国からギルドが守ってくれるからさ。それに換金も出来るだろうしさ」
「分かりました。ありがとうございます。では、明日よろしくお願いしますね、エリスさん」
「エリスでいいわ。ソルト」
「はい、では失礼します」
ソルトが女将達に礼を言うと部屋から出ていく。

「で、どうだい?」
「見えませんでした」
「へえ、あんたでも鑑定出来なかったのかい?」
「ええ、連れの女性は問題なく出来たのですが、ソルトの方は何度やってもダメでした」
「ますます不思議な坊やだね。でも、あの子なら、あんたの故郷に連れていってくれるかもね」
「そうですね、期待してみるのも悪くはありませんね。それに……」
「なんだい? なにか気になることでもあったかい?」
「いえ、なんで私に興味を持ってもらえないのかと思いまして」
「ははは、女だね~普段はあんなにウザがっている男の視線は嫌で、あの坊やに見てもらえないことに不満を感じるのかい?」
「そうなんですよ。なんででしょうね」
「そんなの本人に直接聞いてみればいいじゃないか」
「それもそうですね」
エリスがニコリと微笑む。
「これをさっき見せればイチコロなのにね」
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