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第一章 それぞれの道

第6話 改造するしかないか

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ギルマスの部屋でソルトの非常識さについて話していたが、話題はレイのことへと移る。
「なあ、ソルトよ。付与が出来るなら、レイに『剣術スキル』とか有効なスキルを付与した物を身に着けさせれば、それなりに戦えるようになるんじゃないか?」
ゴルドの提案に他の三人も頷く。
「確かにそうだな。だが、それがレイにバレると、あの性格じゃなにもしなくなるぞ。そうなると付与頼みになってしまうのは都合が悪いな」
「そうね、だからって魔石をアクセサリーに加工したものをジャラジャラ身に着けさせると絶対に怪しまれるわよね」
「(ねえ、ルー。付与って一つしかダメなの?)」
『いえ、付与レベルが上がったので、二つまでなら出来ますよ』
「(へえ、そうなんだ。分かった、ありがとうねルー)」
『ふふふ、こんな私にお礼なんて……』
「(なに言ってんの。これだけのことをしてもらって、なにもお礼を言わないのはおかしいよ)」
『そうですか。では、ちゃんと受け取ることにしましょう』
「(はい、お願いします)」
『いえいえ、こちらこそ』
「おい、おい、なにをまたブツブツと」
「あ、すみません」
ソルトがルーとの会話をゴルドに咎められる。

「あ、それとエリス。さっきの魔石をいいですか?」
「ええ、いいわよ。どうするの?」
「こうします。『剣術スキル』付与。『体術スキル』付与。『投擲スキル』付与」
『あ! レベルが上がりましたよ! 三つでもいけるはずです』
「(そうなんだ。ありがとうね、ルー)じゃあ、もう一つ、『剣術スキル成長率上昇』付与。『体術スキル成長率上昇』付与。『投擲スキル成長率上昇』付与」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! ソルト! あんた、一体なにしてるの!」
「エリス、なにをそんなに慌てているんだ?」
「そうだぞ、落ち着きのない女は嫌われるぞ。なあ、ソルト」
「え、ええ」
ソルトのしたことを理解していないゴルドとギルマスが的外れなことを言い、そしてその当の本人が涼しげな顔でゴルドの言葉に返事をするものだから、エリスが切れる。

「一体、誰のせいで落ち着きがなくなっていると思っているの!」
ソルトに向かって、キレてみせるが、当の本人はなにが原因かも分からず、ただキレるエリスに怯えている。
「だから、落ち着けってエリス。そもそも魔石の付与を書き換えたくらいでなにをそんなに焦っているんだ?」
「ゴルド、さっきのは書き換えじゃないの! 追加したのよ! 私の言っていることが分かる? ちゃんと理解している? 書き換えじゃなくて、追加したのよ。今は、この魔石一つに三つのスキルが付与されているの! 分かった?」
「「……」」
ゴルドとギルマスが、ぽか~んと口を開けたままになる。

「「ちょっと、待て!」」
「ふふん、私が落ち着いていられない理由がやっと分かったようね?」
「あ、ああ分かった。イヤというほどにな」
「まさか、こんなのほほんとした奴にな」

「すまんが、エリス。この魔石の加工を急いでくれんか。出来れば今日中に成果を確認したい」
ギルマスがすぐにでも成果を確認したいとエリスに頼む。頼まれたエリスも興味はあるので、すぐに了承する。
「分かったわ。ブレスレットに加工するくらいなら、さほど時間はいらないから、すぐに戻ってくるわ。それまでは、そこの坊やを自由にしないほうがいいわよ」
「ああ、そうだな」
ギルマスがソルトをジッと見る。
エリスは魔石の加工をするために席を立ち、宿へと戻るようだ。

「ゴルドはどうする?」
「そうだな、俺も残っていようかな。さっきから、こいつがなにかをブツブツと呟く度に状況が転がっているような気がしてな」
ゴルドがジロリとソルトを睨みつける。

『あら、私の存在がバレたのでしょうか?』
『まあ、今のところは大丈夫じゃない』
『先ほどもそうやって念話で会話して下されば、変に誤解されることもなかったでしょうに』
『そうなんだよね。意識しないとすぐに口に出ちゃうんだよね』
『ふふふ、意外とうっかりさんですね』
『そうだよね。うっかりでこんなところまで来ちゃうし』
『それはうっかりとは言わないでしょう』
『でも、誰かのうっかりで巻き添えになったんだし、やっぱりうっかりだよ』
『ふふふ、そうですね。私もうっかりでソルト……さんの頭の中に入ってしまったみたいですし』
『あ、そうか。それもうっかりだね』
『ええ、そうですね。ふふふ。うっかり者の二人ですね』
『そうだね』
「おい、聞いているのか? ソルト!」
「え?」
ルーとの会話を楽しんでいたソルトにゴルドが呼びかける。

「だから、聞いているのかと言っているんだ」
「えっと、なんの話でしょ?」
「だから、それだよ。お前がなにかを呟いていたり、ボ~ッとしているとなにかをしでかすんだよ。さあ言え! 今、なにをしていた」
「え? 特にはなにも……」
「本当に?」
「ええ、本当に」

ゴルドはこれ以上の追求は諦めたようにソルトに別のことを質問する。
「なあ、お前がバイスに頼んだのはなんなんだ? それも元いた世界にあった物なのか?」
「ええ、そうですよ。サンダルって言うんですけどね」
ソルトが無限倉庫からメモ帳とペンを取り出すとバイスに説明したサンダルの絵を描いて二人に説明する。

「まあ、形は分かったが、これのなにがいいんだ?」
「そうだな、この形なら、人に踏まれただけでも大騒ぎだぞ」
「これは部屋で履く物だから、人に踏まれることなんて想定しなくてもいいんですよ」
ソルトの返事に今度は二人が思案顔になる。

「なんで、部屋での履物が必要なんだ? 別に寝る前まで靴を脱ぐことなんてないだろう?」
「そうですか? 俺は部屋に入ったら、体を拘束する物は全て外したいですけどね。だから、ブーツも脱いで、このサンダルに履き替えてゆったりしたいんですよ」
「ふむ、そうか。そう言われると納得出来るな」
「そうだな、俺なんか家の中では絶対にカミさんがブーツを脱がせてくれないんだよ。臭いから、止めてくれってな」
「え?」
「なんだ、ソルト」
「ゴルドさんって妻帯者なんですか?」
「そうだけど、そんなに驚くことか?」
「いえ、粗雑な感じの人だったので。意外というか……」
「お前、やっぱりモテないな」
「あ! それです。俺がモテない理由を教えてくれるって……」
ソルトが聞きたがっていたことを口にしたゴルドに詰め寄ろうとした時に部屋のドアがノックされ、エリスが入ってくる。

「お待たせ~出来たわよ!」
「そうか、じゃあ早速確認しに行くか」
「あ……さっきの話は?」
「そんなのはあとだ、あと。今は嬢ちゃんの成果を確認するのが先だ」
「え~」
「ほら、ソルトも一緒に来るんだよ」
「もう、分かりましたよ。でも、ちゃんと話してくださいよ。いいですね、約束ですよ!」
「分かった、分かった。ほら、行くぞ」
ソルトが聴きたかったモテない理由は、また持ち越しとなった。

闘技場に行くとレイは何人かの冒険者と楽しく歓談中だったが、ゴルド達の姿を認めるなり、いきなり素振りを始める。
「レイちゃん、いきなりどうしたの?」
「まだ、話の途中だよ」
「そうだよ。でさ、いつ店に行く?」
「コホン」
ゴルドがレイに纏わりつく若い冒険者の背後でわざとらしく咳をする。
「なんだよ、今俺達はレイちゃんと話しているの。邪魔しないでくれるかな?」
「そうだよ、ねえレイちゃん」
「で、いつ行く?」
「悪いが、その予定は全部キャンセルだ」
「だから……」
ゴルドの発言に若者がキレつつ振り返り、ゴルドだと分かると一斉に逃げ出そうとするが、ゴルドに首根っこを掴まれてしまう。
「いいか、今回は見逃してやるが、二度と嬢ちゃんに近づくんじゃねえぞ。もし今度見かけたら、キャサリンの店の中に素っ裸にひん剥いてから放り込むからな」
「ゴルドさん、それシャレにならないっすよ~」
「そうですよ~単に若者同士の語らいじゃないですか~」
「それにレイちゃんも乗り気だったし~」
ゴルドに対し必死に言い訳する三人の若者が少し気の毒に見えてくるソルトだが、レイが無防備だと言うのもよく分かる。
「じゃあ、一つ教えといてやるが、この嬢ちゃんはそこののほほんとした『殲滅の愚者』のツレだぞ。しかも同室だ。言っていることが分かるな?」
「そこののほほんとしたお兄さんの連れってこと? そんなことで「おい、やめとけ」……なに言ってんだ? こんな見た目最弱な奴になんの遠慮がいるってぇの。ねえ、お兄さん」
「お前、さっきの訓練場での騒ぎを見てないのか?」
「騒ぎ? ああ、確かになんか騒いでいたな。ギルマスが賞金を出すとかなんとか」
「その騒ぎの中心にいたのが、そこの兄ちゃんだよ。そのぽや~っとした外見に騙されるなよ」
「ええ、さすがにそれはモリすぎでしょ」
「「……」」
「なに、なんで黙ってるのさ、お前らだって、そう思うだろ?」
「「……」」
「え、マジなの?」
無言で頷く仲間らしき二人の若者を見てから、ソルトを見る。だが、どう見てもそうは見えない若者。
「やっぱり、気のせいじゃ……」
首を横に振る仲間の二人を見て、急に首筋に冷たい物が流れる。
「本当なの?」
「だから、さっきから言ってるだろうが! 危機管理も冒険者として大事なことだぞ」
「「「すみませんでした~」」」
若者三人が綺麗な土下座を見せると、すぐに立ち上がると訓練場の外へと走っていく。

「レイよ。素振りはどうした?」
「なによ。やっているじゃない」
「今はな。それにあの冒険者達だが、注意した方がいいぞ」
「やだな~ゴルドったら、やきもち?」
「俺は妻帯者だ。それに嬢ちゃんには興味はない」
「もう、はっきり言うわね。そんな「それより、ゴルドさん!」なによソルト」
「さっきの『殲滅の愚者』ってなんですか?」
「ああ、あれか。お前の二つ名だ。我ながらいい感じに命名出来たと思うぞ。気に入ってくれたか?」
「そんな、問題じゃないでしょ! なんで、俺に二つ名なんて付けるんですか!」
「そうか、ハッタリが効いていいじゃないか。なあ、ギルマス」
「そうだな、なかなか的を得ていると思うぞ『殲滅の愚者』か。うん、いいな」
「だろ?」
「それより、問題はレイでしょ。あんなナンパに引っ掛かるなんて」
「あら、オバさんはナンパなんかされないからって、僻みですか?」
「ふん、あんな子供には興味はないわ。私にはソルトがいるしね。ねえ、ソルト」
「なんで、俺なんですか?」
「え~だって、秘密を教えあった仲じゃない。ねえ?」
「それなら、ギルマス達も対象になりますけど?」
「もう、いけず~」
「エリス、色恋はいいから、早く成果を確認するんだ」
痺れを切らしたギルマスが、会話を打ち切りエリスを急かす。

「分かりましたよ。レイ、左手をこちらに出して」
「左手?」
レイは少し疑問を感じながらもエリスに言われた通りに左腕をエリスに差し出す。
「細いわね」
「当たり前でしょ。こんな野蛮なこととは無縁だったんだから」
「そうね」
エリスがレイの左手を掴むと右手に持つブレスレットをレイの左手首に装着する。

「どう? 一応、私が作ったブレスレットなんだけど?」
「へ~意外に器用なのね。これって、もしかしてゴブリンの魔石?」
エリスが真意を悟られたのかと一瞬、ドキッとする。
「え、ええ、そうよ。単価は安いけど、初めて採取した魔石を記念にとブレスレットにしてみたの。どうかな?」
「うん、いいわね。これってもらっていいの?」
「ええ、差し上げるわ。気に入ってもらえたようで嬉しいわ。ふふふ」
「そうね、左手なら邪魔にならないしね」
ゴルドがエリスに近付き、囁く。
「(素振りから始めるが、鑑定をしてくれな。あの付与がうまくいけば、すぐにスキルが取得されるはずだからな)」
「(ええ、分かったわ)」
ゴルドが、レイに近付く。
「嬢ちゃん、さっきサボってた分だ。早速、素振りを見せてもらおうか」
「また~もう」
レイがブツクサ言いながらも、素振りを始める。

すると、エリスがゴルドに向かって合図する。
ソルトもそれに気付きレイを鑑定すると、『剣術スキル』を取得していた。
ギルマスもゴルドとエリスの表情から、うまくスキルが取得出来たことを実感する。

「よし、素振りは終わりだ。俺に打ち込んでこい」
「やっと、終わりと思ったら。いいわよ、今までの鬱憤を晴らさせてもらうから! はぁっ!」
「お、いい打ち込みだな。いいぞ、もっと来い!」
ゴルドが、ソルトにしたように体術や石を投擲し、レイにも同じようにしろと指導する。

ゴルドとレイとの様子を見ていたエリスが、体術スキルや投擲スキルが取得出来たことにも驚愕していたが、その取得したばかりのスキルを上手に使いこなしているレイに驚く。
「間違いなくスキルもレベルアップしてるわね」
「そう思うか」
「ええ、だけど私の鑑定レベルじゃ、そこまではわからないのよね」
そう言いながら、エリスがソルトをチラ見する。
ソルトがエリスの視線に気付きドキリとするが、ソルトの鑑定ではレイはちゃんとスキルを取得し、レベルも上がっている。
~~~~~
名前;レイ 十六歳(相良麗子 一六歳)
性別:女(処女)
職業:聖女
体力:B
魔力:A
知力:B
筋力:B
俊敏:C
幸運:C
スキル:
言語理解
精神耐性:lv1
聖魔法:lv1
毒耐性:lv1
剣術:lv2
体術:lv1
投擲:lv1
~~~~~

「ちゃんとスキルも取れてるし、付与はちゃんと働いているみたいだ」
「ねえ、ソルト。ちょっと、いい?」
「はい、なんでしょう」
「もしかして、ソルトも鑑定出来たりするの?」
「ええ、出来ますよ」
ソルトが、それがなにかという顔でエリスに返す。
エリスは両手で頭を抱え込み、嘆息する。

「はぁ、まあいっか。ねえ、ちょっとさ私を鑑定してもらってもいいかな?」
「エリスを?」
「ええ、そうよ。ダメかしら?」
「いえ、ダメってことはないですけど……本当にいいんですか? その、歳とかバレちゃいますけど?」
「なっ! なんで、そんなことまで分かるのよ!」
「だから、先に断ってるじゃないですか」
「はぁ、そうよね。理不尽の塊みたいな存在だってことを忘れてたわ。そうね、そんなことまで分かるのなら、ここじゃまずいわね。ん~そうね、後で私の部屋に来てもらえる?」
「エリスの部屋にですか?」
「そうよ。ソルトにはちょっと刺激が強いかしら?」
「いえ、田舎のお婆ちゃん家に行くと思えば、それほど意識しなくても済みますので」
「ちょっと~お婆ちゃんって、なによ。私は……ねえ、もしかして見ちゃった?」
「少しだけ……ですが、「あ、もういい」……そうですか」
「結果は後で、部屋で聞かせて。ね?」
「はい」
「おい」
ソルトとエリスの戯れ合いを見せられたギルマスが、ソルト達に声を掛ける。
「結局、嬢ちゃんのスキルはどうなったんだ?」
「大丈夫、ちゃんとスキルは取れたし、レベルもガンガン上がっている状態よ」
「まあ、それはゴルドの様子を見てれば分かるがな……ソルト、スキルを付与した魔石は簡単に人にあげたりするなよ」
「はい、分かりました。まあ、作ろうにも手持ちの魔石がないですしね。魔石がないと作る事も出来ませんし」
「そうか。そうだな、討伐か。まあ、ゴルドもエリスもいるパーティだし、嬢ちゃんもだいぶ慣れて来たし、依頼を受けるのもいいか。よし、そうだな。明日っから依頼を受けてみろ」
「え? いいんですか?」
「ああ、元々魔の森から帰って来たってだけでも、資格的には十分なんだがな。ほら、嬢ちゃんが心配だったろ。でも、ゴルドとまともにやり合っているし、あとは実戦あるのみだから、ちょうどいいだろ」
「じゃ、武具と防具を揃えないとダメですね。そうなるとちょっと手持ちが心もとないかな」
「そういや、ニックが卸して欲しいって、言ってたな。ちょっと、ニックの所に行ってもらえるか?」
「分かりました。じゃ、行って来ますね」
「おう、よろしくな」
ギルマス達と別れ、ソルト一人で解体倉庫へと向かう。

「こんにちは~ニックさんいますか?」
「おう、昨日の坊主か。ギルマスから聞いたか」
「はい、卸して来いって言われました」
「そうか。あ、そうだ。昨日のオークな。魔石はそのままだったが、どうする?」
「どうするってのは?」
「魔石も買い取らせてもらうなら、その分はちゃんと金は出す。自分で必要なら、そのままお前に渡すってことだ」
「そうなんですね。う~ん、なら魔石は買取対象外にしてもらって、こちらへ戻してもらえますか?」
「そうか、分かったよ。じゃ、これが昨日のオークの魔石三つだな」
「はい、確かに」
「でだ、今日もオーク三体にコボルトは五体を卸してくれ」
「分かりました。じゃ、そこに出しますね」
「おう、頼むわ」
ニックの指示に従い、ソルトが無限倉庫からオーク三体、コボルト五体を並べると、ニックが床に並べられたオーク、コボルトをざっと査定し、紙に金額を書き込むとソルトに会計に見せるようにと渡してくる。
「これも魔石は戻すんだよな?」
「はい、お願いします」
「分かった。明日の朝以降なら解体も終わっているから」
「分かりました」
ソルトがニックに軽く会釈をすると解体倉庫から、出るとギルドの受付へ向かうと受付カウンターのお姉さんにお願いしますとニックから預かった紙を渡す。
「少々お待ちください」
「はい」
ソルトは返事をすると依頼書が貼られているボードの前へ立つ。
「うん、なにを書いているのかさっぱりだ。やっぱりちゃんと教えてもらわないとダメだな」

「ソルト様、お待たせしました」
「はい」
受付に呼ばれたソルトはカウンターに置かれた革袋を無限倉庫に入れようとして、気付く。
『うわぁそのまま、無限倉庫に入れるところだったよ。危ない危ない』
「どうされました?」
革袋をなかなか回収しないソルトを受付のお姉さんが不思議そうに見ている。
「金額に誤りがありましたか? 金貨六十枚に銀貨五十枚入っているのは確認しましたが?」
「あ、いえ。ちょっと革袋が多かったので、どうやって持って帰ろうかなと思いまして」
「ああ、そういうことですか。では、こちらをどうぞ」
受付のお姉さんがソルトに肩掛けのバッグを渡してくる。
「いいんですか?」
「はい、どうぞ。明日にでも返却してもらえばいいですから」
「あ、貸してくれるんですね」
「はい。どうぞ」
「では……」
ソルトが受付のお姉さんにお礼を言うと、金貨、銀貨の詰まった革袋を肩掛けバッグの中に放り込む。
『やっぱり、カムフラージュ用のバッグも必要だな。いつも手ぶらじゃあね』

「また、どうぞ~」
受付のお姉さんに見送られながら、ギルマス達の所へと戻ろうとすると、訓練場の方から、ギルマス達が歩いてくるのが見えた。
「おう、ソルト。卸してくれたか?」
「はい、ニックさんに預けて来ました」
「そうか、また頼むな」
「はい」
ソルトとレイが目を合わせると、レイが自慢気にソルトに言う。
「ソルト、どう?」
「どうってなにが?」
「チッチッチッ分かってないね~ソルト君。さっきの訓練でゴルドさんと対等に打ち合ったんだよ? どうよ?」
「へえ、それはすごいね」
レイの言うことを軽く受け流したソルトはエリスに話しかける。
「エリス、今からいい?」
「そうね、じゃ一緒に帰りましょうか? あ、ゴルド、明日の午前中はこの子達は勉強の時間だから、お昼からお願いね」
「分かった。んじゃ、俺は帰るな」
「お疲れさまでした!」
「おう、また明日な」
ゴルドを見送ったソルトとエリスが帰ろうとすると、その前にレイが通せんぼするように進路を塞ぐ。
「レイ、なにやってんだ? ほら、帰るぞ」
「そうよ、ほら。そこにいると邪魔だから、一緒に帰りましょ」
「説明して!」
レイがソルトとエリスを睨みながら、言う。
「なにをだ?」
「そうよ、なんなの?」
「さっき、ソルトとエリスが意味深な会話をしたでしょ?」
「「意味深?」」
「ソルトが、今からいいって聞いたじゃない!」
「ああ、それか。なんだ聞かれてたのか。まあ、聞かれたからってイヤなことでもないけどな」
「なら、ちゃんと説明しなさいよ!」
「イヤ、説明しないから。ほら、帰るぞ」
「なんでよ!」
「なんでって、お前。周りが見えてないだろ?」
「え?」
ソルトに言われたレイが、少し落ち着き周りを見渡すと、ギルマスを始め、カウンター内のお姉さん達に依頼達成報告の冒険者に隣接する食堂の酔っぱらい達まで、レイの言動に注目していた。
「分かったら、帰るぞ。ただでさえ、今日一日悪目立ちしてんのに」
「ごめんなさい」
ソルトの言った言葉にレイは自分がしたことが恥ずかしくなり、ソルト達と一緒に足早にギルドから出ていく。

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