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第五章 変わりゆく世界、変わらない世界

第11話 まだ、不貞腐れているのをどうしたものかと考える

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そろそろ、夕食の時間という時に屋敷の玄関が開くと少し窶れた感じのエリスと膨れっ面のレイが入ってくる。
「もう、ダメ。私にはどうしようもないわ。ソルト、ごめんだけど私にレイの説得は無理!」
エリスにそう言われ、レイを見ると確かに納得した様子はなく、頬は膨れたままだ。
「レイ、何がそんなに気に食わないんだ?」
「全部よ! 全部!」
ソルトはレイの様子からまだ地球というか日本の性善説を信じているんだなと思う。だけど、ここは異世界で法律なんてあって無いような世界だということをまだ理解していないようにも思えた。なので、レイが気に食わないということを一つずつ潰して行くことにした。
「そんな子供みたいなことを言わないで、一つずつ説明してよ」
「いいわよ。じゃあ、言うけど、なんでソルトは助けられるあの人達を見殺しにしたの?」
「レイ、それ本気で言ってるの?」
「本気よ! 私はそれが一番納得出来ないの!」
「なら、俺が言ったことも理解したうえでの発言と思っていいのかな?」
「それは……」
ソルトはレイにはアイツらがしてきたことをある程度は教えた。そして、それでもアイツらの命を救いたいと思うのなら、被害者家族にお願いして来いとも言った。だけど、そういうこともしないで、単に道徳的観念からだけ、助けるべきだと言い張るレイに少しイラつく。
「俺が言ったことは、横に置いといて、アイツらの命だけ助けろってのは違うよね。それは分かって言ってるんだよね?」
「だから、それは……」
「それは?」
「ソルトだって、分かっているんでしょ! なのになんで、こっちの世界に来たからって、そんなに簡単に人を……あんなにたくさんの人を見殺しに出来るの!」
「レイ、それはちゃんと説明したよね。それにレイは、さっきからって言ってるけどさ、それは違うよね。俺はこの世界のルールに則って罰してもらう様にゴルドさんにお願いしたんだよ。レイはそれを見殺しと言うの?」
「それは分かっているわよ。でも、詰所にそのままにしておけば殺されるのは分かっているんでしょ。じゃあ、なんでそれを助けないの?」
「レイ、だからそれは見せかけだけの偽善でしょ。レイはアイツらを助けた後、どうするの? ずっと、面倒を見るの?」
「なんで、私がそこまでするの?」
「レイにはアイツらが何をしてきたのかは話したよね。だから、アイツらを助けたとして、そのまま何もせずに自由にするのは、新たな被害者を生むだけだって話したでしょ。だから、それをさせないためにはアイツら一人一人をしっかり管理する必要があるよ。ただ、単に助けたから、恩に着て、これから悪さをしちゃダメよって言っただけで改心するようなレベルじゃないからね。アイツらは笑って人を殺してきた連中だよ。それでも、助けたいと思うの?」
「それでも、私は……」
「レイ、先に謝っておく。ごめんね」
「え? 何、ソルト……あ、あぁぁぁ……」
ソルトはこのままじゃ平行線だと思い、レイには先に謝った上で、アイツらがしてきたことの記憶を映像としてレイの頭にそのまま叩き込む。
そして、映像とはいえ、アイツらの目線で行われる非道の数々に耐えきれずレイは嗚咽を漏らす。
そんなソルトに対し、エリスは「さすがにヤリ過ぎじゃないの」と口を挟むが、口で言って理解出来ないのなら、映像だけでも体験しないとダメでしょとソルトは構わずレイに映像を叩き込む。
やがて、レイが耐えきれなくなり、床に膝を着き体が痙攣し始めたのを見たエリスが思わず止めに入る。
「ソルト、もう止めて! これ以上はレイがおかしくなるから!」
エリスの訴えにソルトも少しばかりやり過ぎたかとレイの頭を掴んでいた手を離す。

そしてレイはと言えば、体を痙攣させたまま、白目を向いて涎を垂らしている。
「ごめん、エリス。レイの世話を頼むね」
「ソルト。レイも悪かったとは思うけど、これはヤリ過ぎよ」
「うん。それは反省している。レイが正気に戻ったら謝るよ」
エリスはソルトを一瞥すると、そのままレイを抱えて、レイの部屋へと歩いて行く。

「やっちゃったわね。あれはないわぁ……」
「気持ちは分かるがな」
ブランカとシルヴァには呆れたように声を掛けられる。
「でも、あれはいつか障害になるわよ。早いところ命のやり取りに慣れとかないと。道中に賊に襲われたら即殺が暗黙のルールでしょ」
「俺もそう聞いている」
「……」
「なあ。ここまでこじれたのなら、いっそのこと慣れてもらった方がいいんじゃないか?」
「サクラ、それってレイに殺させるってことか?」
「ああ、要は慣れだろ。なら、早いところ慣れさせた方がいいと、私は思うがな」
「そりゃ言いたいことは分かるけどさ」
サクラは嘆息すると、ソルトに話す。
「ソルト、お前はレイを大事にしすぎだ」
「え?」
サクラに言われたことに対しソルトはビクッとなる。
「ほう、あながち外れではないようだな。もしかして、元の世界に戻った時のことを考えて直接的な手出しはさせないようにとか考えているのか」
「……」
「なあ、ソルト。確実に戻れる方法があるのなら、それもアリだとは思うが本当に帰れるのか?」
「……分からない。っていうか、今の所は勇者が帰ったという話も聞いてないし、そういう召喚魔法があることも分かっていない」
「そうだな。俺も永いこと生きているが、聞いたことはないな」
シルヴァに戻れる方法があるのかと確認され、まだそういうのは分かっていないとソルトが言えば、シルヴァ自体もそういう話は聞いたことがないと言う。
「人を殺すことに慣れろとは言わないが、せめて迷惑にならない程度にはしてくれ。もし、賊に襲われた時に『殺すな』と言われたら、対処出来ないぞ」
「分かった。ちゃんと考えるよ」
「頼んだぞ」

ソルトはいろんなことがあり過ぎたのか、リビングのソファにそのまま身を投げる。
『ソルトさん……』
『ルー、俺達って帰れるのか?』
『申し訳ないですが、無理です』
『無理ってことは、どうにか頑張れば帰れるのか?』
ルーが言う無理って言葉にソルトはもしかしたら、その無理を通せばなんとか帰れるのかと期待してみるが、ルーからの返答は違った。
『すみません。言い方が悪かったですね。ソルトさん達を元の世界に戻す方法はありません。もし、帰れるとしたら、向こうの世界で召喚魔法を使う他にはありません』
『なんで、こっちから帰る方法はないのに召喚魔法なら帰れるんだ?』
『そうですね。分かりやすいかどうかはありませんが、動いている物体に飛び乗ったことはありますか?』
『ないけど、難しそうだな』
『動いている物体に対して、狙いを着けて釣り上げることが召喚魔法だとすれば、動いている物体に飛び乗るのが、元の世界へ戻る方法だと思って下さい』
ルーの説明にソルトもなんとなくだが、召喚魔法を理解出来た。要は召喚魔法はマーキングした相手を釣り上げるのに対し、元の世界に帰る方法は動く物体に飛び乗ることに近いものだということを。
『この世界でなら、基準となる座標があるので転移魔法での移動は可能ですが、ソルトさんの元の世界は違う時間軸で動いているので、まずその実体を掴むのは困難です。それに実体を上手く掴めたとしても、その世界は常に動いているので、折角求めた転移座標も結局は動いてしまうので、例え転移出来たとしても全く異なる場所になる可能性があります』
『だけど、それは同じ世界に行けるのなら成功じゃないのか?』
『計算上はそうかも知れませんが、結局はやってみないと分からないと言うのが現状です』
『分かったよ。結局は現時点どころか、将来的にもどうしようもないっていうことは分かったよ』
『申し訳ありません』
『いいよ、ルーが謝ることじゃないから』
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