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第八章 やるべきこと

第11話 お願いを聞いて下さい

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 ソルトはシーナの手を取るとシーナの体が一瞬ビクッとなり、力が抜けたのかよろけて倒れそうになるのをソルトがサッと支えようとすると「大丈夫です」と返されたので、ソルトは「本当に大丈夫なのか」と訝しげに顔を覗き込むが、その顔付きはいつものシーナとは違った雰囲気を纏っていたので、ソルトは繋いでいた手を解こうとするが、シーナはその手をギュッと掴んで離さない。

「シーナ……じゃないな。もしかして……」
「はい、私はルーです」
「「「えぇ!」」」

 よろけた体勢からスッと立ち直した時のシーナの顔を見た違和感がシーナの口から告げられ、ソルトはやっぱりと得心する。

「ルー、ホントにルーなのか?」
「はい、ソルトさん。シーナさんとは相性がいいので、こうして体をお借りして皆さんとお話する機会を得られました」
「ちょ、ちょっと待って!」
「はい、レイさん。なんでしょうか」

 シーナの体をルーが借りていると聞いたレイが、慌てた様子でルーに話しかける。

「シーナをどこへやったの!」
「ふふふ、やはりレイさんですね」
「笑ってないで答えて!」
「あ、すみません。こうして直接レイさんとお話し出来るの嬉しすぎて、つい」
「そんなのはいいから、答えてよ! シーナはどこなの?」
「ご心配でしょうが、今はソルトさんの中です」

 レイの質問に対しルーはふふふと少し笑いながら、シーナには入れ替わってもらったと答える。

「ソルトの中?」
「はい。今は、私がこのシーナさんの体をお借りしている状態なので、シーナさんには私の代わりにソルトさんの中に入ってもらいました」
『そうですよ。お久しぶりですソルトさん』
「あ……」

 ソルトの頭の中では以前に施設を訪れた際と同じ様にシーナの声が直接聞こえてきた。

「じゃあ、あなたがソルトの中に戻ればシーナは戻って来るのね?」
「はい」
「それなら……私もソルトの中に入ることは出来るの?」
「レイ、お前何言ってんだ?」
「私も入りたいです!」
「なら、私も!」

 レイはルーとシーナが入れ替わっただけだと聞いて、少し安心した後に「私も入れるのか」とルーに質問すれば、側で聞いていたリリスやノアも私も私も手を挙げルーに迫るがソルトから制される。

「レイもルーもその辺でいいかな」
「ソルト!」
「ソルトさん」

 ソルトはルーに対し「そんなことよりも直接皆に話したいことがあるんだろ」とルーに促せば、「そうでした。実は……」とルーが皆に向かって話し出す。

「こうして皆さんと直接お話し出来る機会を戴いたのは私からのお願いを聞いて欲しいと思ったからです」
「お願い?」
「はい。無理なお願いだとは分かっていますが……」
「内容によるって言いたいけど、それはあなたにとっては大事なこと?」
「はい。出来れば……いえ、絶対に見たくありません!」
「見たくないって……あ!」
「レイ、どういうこと?」
「うん、多分だけど……」

 ソルトに促されたルーはレイ達をぐるっと一瞥した後にレイをジッと見るとお願いを聞いて欲しいと話す。

 レイはそのお願いの内容を聞く前にそれがルーにとって大事なことなのかと聞けば、ルーは見たくないと叫ぶように言う。

 そして、そんなルーの言葉にレイは一瞬だけ考え「あっ」と気付いてしまうが、リリスにはどういうことなのか理解出来ずに聞いてみれば、レイが多分だけどと言い「間違っていたらゴメンね」とルーに言えば、ルーが頷いたのでレイはリリスだけでなく皆にも分かる様に話す。

「あのね、私達がこっちに来てからルーがソルトの頭の中にずっといるのは、いいわよね」
「「「うん」」」
「そして、今もまだソルトの頭の中にいる」
「「「うんうん、で?」」」
「そして、さっき私達はソルトに対し告白した……わよね」
「「「うんうん……だから?」」」
「そして私はソルトと一緒に子供をたくさん作りたいと宣言した」
「それは許可してないわよ!」
「リリス、止めなさい」
「でも……」
「いいから、続けて」
「うん。でね、ルーがソルトの頭の中にいると、イヤでもそういうのを見させられるの」
「え……それって」
「うん、ちょっと耐えられそうにないわよね」
「ん~私でもちょっと……」

 ルーの代わりにレイがリリス達に説明したのは、ソルトの頭の中にいる限りはレイだけでなく名乗りを上げているリリスやノア達とのあれやこれやの全てを否応なく見せつけられるということだった。

「あれ? そういうのを嫌がるってことは……そういうことなの?」
「はい。リリスさん。私もソルトさんと添い遂げたいと願っています」
「あぁ~増えちゃった……レイ、どうするのよ」
「リリス、落ち着いて。じゃあ、お願いってのは私達にソルトとはいちゃいちゃするなってことなの?」
「無理! ってか、普通にイヤよ!」

 リリスはルーがこれからソルトを主体に起きるあれやこれやを見たくないと言ったことから、気付いてしまったことを口に出せば、ルーもそれを肯定する。

 リリスはまた立候補者が増えたことを嘆くが、レイがルーのお願いを代弁すればリリスは無理だと撥ね除ける。

「レイさん、リリスさん、私も出来ればソルトさんとそういうアレコレをしたいので無理だというお気持ちも分かります。ですが、逃げ場のないソルトさんの頭の中でそういうのを無理矢理見せられる私の気持ちも察して下さい。お願いします!」
「お願いって言われても……ねぇ」
「ん~どうにも出来ないの?」
「……今はまだ出来ません」
「ちょっと、待って!」

 ルーはレイとリリスに自分の気持ちを分かって欲しいと切実に訴えるが、レイもリリスもそれは無理なお願いじゃないかと拒否したい気持ちで一杯だが、ルーが言った「今はまだ」という言葉にレイが引っ掛かりを覚える。

「ねえ、今はまだってのはどういうこと?」
「はい。今はこうして相性がいいシーナさんの体をお借りして皆さんとお話しすることが出来ています」
「うん、そうね」
「なので、私の体を用意する。または人造人間ホムンクルスを作成することが出来れば、私はソルトさんの頭から出ることが出来ると思います」
「そう「なら、早く行きましょう!」……リリス、どこに行くの?」
「どこって、シーナが眠っていたところにはシーナと同じ素体がいくつもあったでしょ。そこなら、ルーにもぴったり合う素体が見つかるハズでしょ」
「『ちょっと待って!』」
「え……」

 ルーが自分の身体となる人造人間ホムンクルスがあればソルトの頭の中から移れると話せば、リリスがシーナが眠っていた施設へ行けば人造人間ホムンクルスがたくさんあるから、ルーに合致する素体が有るはずだと言えば、ルーだけでなく今はソルトの頭の中にいるシーナも待ったを掛ける。

「それってシーナさんと同じ身体ってことですよね」
「まあ、そうなるでしょうね」
「却下します」
「えぇ~いい考えだと思ったのに……」
「俺もいいか?」
「ソルトさん?」
「いやな、さっきのリリスの提案に俺の中のシーナも反対だと言っている」
「うん、私もそう思う」
「レイまで……」

 自分の提案アイデアを一蹴されたリリスは意味が分からないと不貞腐れるが、自分と瓜二つどころか全く同じ存在が側にいたらイヤでしょとレイに言われれば、確かにと納得するしかない。

「じゃあ……」
「そういうことなんでしょ。ルーが自分の身体を見付けるか作るまではソルトとのあれやこれやはナシだね」
「えぇ~そんなぁ~」
「リリス、そもそも今抱えている色んな問題を片付けるまではソルトも無理だって言ってたじゃない」
「あ……」
「だからね、それと並行してルーの身体もなんとかすればいいってことだよ」
「レイ……」

 リリスはレイから説明されて察してしまうが、告白してから一度火が着いたリビドーのやり場に困ってしまうが、ソルト自体が問題が解決するまでは余裕がないと言われていたことを思いだす。

「それと、もう一つ言っておきたいことがあります」
「今度は何? もう、驚くことはないわよ」
「レイさん達が日本向こうに帰るのはほぼ不可能です」
「「「えぇ!」」」
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